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5.初出勤

 魔法も魔物も存在しない世界には曜日という概念が存在する。

 そして、その日曜日に当たる日、ヘリオドールはウトガルドにある洋館の前に立っていた。しばらくするとやって来た黒髪の少年に、軽く手を振る。

「おはよう総司君。……って今日学校だったっけ?」
「今日は休みです」
「じゃあ何であんたブレザー着てるのよ……」

 数日前と変わらない学校指定のブレザー服に鞄を肩に掛けている総司の姿に、ヘリオドールは呆れの込もった声で呟いた。私服でいいと言ったはずなのに。

「いえ、先日職場で色々なトラップに遭遇して危ないと思って、いつも通り鎖帷子が中に仕込んである制服の方がいいと判断しました」
「あんたどんな日常生活送ってんの?」

 今日は総司の初出勤日である。まずは職場見学からさせるつもりで、一日中時間が空いている休日に決moncler
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めたのだ。それまでの数日間はヘリオドールがウトガルドにやって来て、まだ知識の浅い総司にアスガルドの事を教えていた。
 総司は物分かりのよい性格ですぐに覚えていった。それは良いのだが、ヘリオドールはどんどん総司の事が分からなくなっていった。

 いつも持っている鞄からは何故か人体模型の頭部や彫刻刀が出てくる。動物に好かれやすいのか、野良猫が群がってくる。不良の集団に出会せば「沖田の守護神だ! 逃げろ!!」と物凄く勢いで逃げられる。
 沖田とはこの町の事だ。沖田町の守護神・坂本総司。数百年前のウトガルドにいた日本の人物を彷彿させる通り名である。

「まあ……とりあえず張り切って行きましょうか」

 ガラの悪い連中から守護神と恐れられているのだから、悪事を働いているわけではなさそうだ。初対面の人間にスポーツドリンクをあげたり、ペンを貸しているし。
 ただ、何を考えているか分からないので少し怖い。




 総司がアスガルドにやって来るのは今回で二回目だ。街の住人や冒険者は相変わらず珍しそうに異世界の少年を見ている。総司もヘリオドールからたくさんアスガルドについて教えられていたからか、あちこちに視線を向けていた。
 中でも一際興味を示したのは八百屋だった。店頭に置かれているウトガルドにはない野菜や果実が珍しいようだ。

「どう? 何か欲しいなら買ってあげるわよ」
「そうじゃなくて……」
「?」
「この世界には代金を値切れとうるさい人がいなくて平和なんだなぁと……」
(そこか!)

 疑問を向けるところがずれている。ただ、ヘリオドールも視察で日本の市場に行ってみた時は、客対店主の値切りバトルに圧倒されていたが。

それに比べたら随分平和な方だろう。この都市中心部だけは。

「この辺りはウルドの中でも一番治安がいいわ。都市の実権を握っている役所と軍の施設もあるし、お店もたくさんあるから。でも、段々中心部から離れるにつれて寂れていくの。ウトガルドにあるスラム街と同じような地域がたくさんあるのよ……」
「そういう所を助けてあげられないんですか?」
「そうするだけの労力とお金が足りなくてねー。前にも話したけど、この国は元々財政難で他国に比べて目立った所も名産物もないのよ。土壌も悪くて植物が育ちにくい環境でもあるから、店で売ってる作物の半分以上が輸入品なの」

 城下都市ユグドラシルに住む富裕層や、三都市の中心部に住む者はあまり不自由はしていない。その分地方の人間達はその日食べるものにすら困るような暮らしをしている。
 現在は事態を重く見た城の人間達が議論を行っているものの、さっぱり進んでもいないようである。

「……この世界も大変なんですね」
「世界って言うか国よ。この国……ノルン国は百年前からずっとこんな感じなの。王族は常に自分達の生活しか考えてなくて三つの都市の事は役所に丸投げ。おまけにとんでもない男を所長に任命するんだから……」

 ヘリオドールは森の奥に住む魔女の一族の娘だったが、この情勢を何とかしたい一心で最初は城に就職しようとした。が、最終的には王族の護衛に回されてしまいそうになり、仕方なく役所勤めに変更したのだ。そこで成績を上げて昇格し、国の政治を牛耳る城の大臣の座を狙っていた。

 そして、今は役所のクリーン化を目指して奔走中の身だ。目指していたものと大分違う現実に時折凹んでしまうが、国を変えるためにはまず地方から。そのためには役所を整えてから。

 そう言い聞かせて役所に向かうと、数人の職員が入り口の前にいた。

「おっ、何してんのよジークフリート」

 その中のまとめ役に声を掛けられた銀髪の青年は、ムッとしたように眉間に皺を寄せた。少し機嫌が悪いようだ。他の職員も何やら浮かない表情をしている。

「ソウジさん!」

 唯一、明るい笑顔を見せてくれたのは金髪碧眼の、総司のよく分からない優しさに一目惚れしてしまった美少女エルフだった。総司と違って彼女は既に新人職員として仕事を始めていた。

「お久しぶりです、フィリアさん」
「はい!」

 会えたのがよほど嬉しいようだ。眩しいくらいの笑顔にヘリオドールは立ち眩みを起こしそうになった。数日間彼に会っていたが、どうしてそこまで惹かれてしまったのかが理解出来ない。

 複雑そうな表情の魔女にジークフリートは口を開いた。

「妬いているのか」
「ち・が・い・ま・す。あんたこそ自分の部下が新人に夢中で面白くないんじゃないの?」
「馬鹿野郎。所長と一緒にするな。俺は女を恋愛対象としては見ていない。誰かに片思い中の若い女なら尚更だ」

 流石は『防波堤』。彼のいる部署が女性の天国と言われる理由はここにいる。容姿も性格もよし。女性に不埒な考えを起こさない。所長など変態達に女の部下が手を出されそうになったら守る。
 そんな彼に付けられた渾名は防波堤だった。

「フィリアさんが入ったのは妖精・精霊保護研究課でしたっけ」
「はい。こちらの課長のジークフリートさんと先輩の皆さんで森に行ってきたんです」
「この前もしたと思うが、改めて自己紹介をさせてもらおう。妖精・精霊保護研究課の課長ジークフリート・アメイリアだ」
「高杉高校の坂本総司です」
「コウコウ?」
「養成所みたいな所よ」

 アスガルドの住人はウトガルドについての知識をほとんど持っていない。不思議そうな顔をするジークフリートにヘリオドールは捕捉を入れてやった。

「でも何かあったの? いつもなら森に行った後はみんな楽しそうにしてるのに」

 ヘリオドールの質問にジークフリートは溜め息をついた。そして、澄んだ青い瞳を細めて問いに答えた。

「森が枯れ始めている」
「え? それって……」
「精霊の数も前回の調査の時より激減していた。これは異常だ……」

 ジークフリートの言葉にヘリオドールの顔が青ざめる。状況をいまいち理解をしていないのか、総司はフィリアに尋ねた。

「あなた達の部署は妖精や精霊を保護したり生態を研究する事が仕事なんですよね? それと森が何の関係が?」
「……森はたくさんの妖精と精霊の棲みかでもあるんです。四大の精霊のノームが土を、ウンディーネが水を綺麗してくれます。綺麗な土と水を使って森の妖精ニンフや木の妖精ドリュアスが多くの草木を育て、そこに動物や昆虫が集まる事で豊かな森は生まれます」

 フィリアの言葉の通りだ。妖精と精霊のおかげで自然は保たれている。彼がいるから人間達は暮らしていける。
 だが、近年ノルン国から妖精と精霊は姿を消しつつあるのだ。
理由は乱獲などが挙げられるが、一番は人間が彼らの有り難みを忘れて自然を荒らしているからだろう。
 精霊達では浄化出来ないゴミを森や川に捨て、無闇に大量の木を伐採する。他国の生物を持ち込んで飼育するも世話をするのが億劫になり、捨ててしまう。それらは野生化してその地域に元々いた生物を補食していき、生態系が崩壊していく。
 そうしていく内に百年程前は多く存在していた妖精や精霊はいなくなってしまった。彼らの生態はいまだに不明な部分が多く、どこかに行ってしまっただけなのか、消滅してしまったのかは定かではない。

 もし、前者だとしたら愛想を尽かしてしまったのだろう。ヘリオドールはそう思っていた。作物が育ちにくい環境になってしまったのも土の精霊ノームと、水の精霊ウンディーネがいなくなった事が大きい。

 自然の宝庫と言われている森の崩壊。それが何を意味するのかはノルン国の土地事情を知る者なら瞬時に分かる。

「他の二つの都市でも減少傾向にあると報告が出ているが、今回の事は異常だ。きっと何か原因があるはずなんだ。早くそれを調べなければ……」


 ジークフリートは悔しげに表情を歪めた。
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