小新阿呆54859のブログ

ブログの説明を入力します。


テーマ:
07:写真(webのみ)


写真館へ赴いたのは、すぐの休日の事だった。
この時期の王都の写真館は空いていて、すぐに撮影してもらえる事になった。



僕らは撮影前に大きな鏡の前で身なりを整えている。

ベルルはここ最近一番のお気に入りの、黄色の光沢のあるドレスを着ていた。
彼女の明るさを象徴するような色。

「旦那様……こんな感じで良いかしら」

ベルルは巻き毛を整え、髪にドレスと同じ色のリボンの髪飾りをつけ、いつもより手間のかかった化粧を施されていた。
流石は写真コーチ ポピー
コーチ 店舗
コーチ リュック
館のお抱え化粧師によるもの。いつもの、軽い化粧とは違って、ベルルがいっそうキラキラとして見える。
化粧をしっかり施すと、彼女はぐっと大人っぽくなる。それでもどこか幼い顔立ちが逆に艶っぽい。

「ああ……良いんじゃないだろうか」

「そう? 地味じゃないかしら……。やっぱり、私ってまだまだ子供ね……」

「…………」

ベルルは鏡の前で、自分の小さく細い体を困った様子で見つめていた。
特に胸回りを。

「な、何を言っているんだ。お前には十分……華があるとも」

むしろベルルの隣に立って写真に写るのが自分で良いのか、気になってくる。
いっそうベルルだけで写真を撮ってもらった方が美しいものになるんじゃないだろうか。

「旦那様も、今日は一段と素敵に見えるわ!!」

「………今日はよそ行きの服を着ているからな」

「普段の、王宮の制服の旦那様も好きよ」

ベルルは僕の腕を取って、どこか楽しそうにそう言う。

「本当は、サフラナたちも共に撮る事が出来れば良かったんだが……」

せっかくなので、サフラナやハーガス、レーンも一緒にどうかと言ってみたが、彼らには一斉に首を振られた。
サフラナの言い分としては、こうである。

『お二人がグラシス家なのでございます。家族写真に、召使いは不要ですとも。いえね、坊ちゃんがお誘いして下さるのは大変嬉しい事なのですが、まずはお二人でお写真を撮る事を考えて下さいませ。その写真無くして、私どもがご一緒する訳にはいきません』

サフラナは侍女として、またグラシス家に使える召使いとしてのしっかりとしたこだわりやプライドがある。
だからこそ、僕ら二人で写真を撮る様に言ったのだ。

まずはその一枚が大切なのだと。

ハーガスもレーンも、サフラナの言葉にうんうんと頷いていた。


僕は、この没落したグラシス家に、いまだに残ってくれている彼らに何度と無く助けられ、支えられ生きて来た分、彼らを使用人と思っているより、家族と思っている節がある。
だからこそ一緒に写真を撮りたいと思っていたが、サフラナのきびきびした口調の前に素直に頷いてしまった。

でも、たしかにまず、僕とベルルの一枚が必要なのかもしれない。
グラシスの名を抱える僕らが、確かな夫婦としての像を、写真として残すのだ。

それから、また彼女たちと共に写真を撮りたいと言ってみれば良いのかもしれない。









「はい、では撮りますよ」

写真館の主人は、僕らを撮影用の部屋に連れて行き、ベルルを金細工の美しい椅子に座らせた。

「はあ~……。まるで奥様も、金の細工の様ですね」

主人はベルルが椅子に座る様子を眺めて、そう言った。
確かに、ライトに照らされた光沢のある黄色のドレスは、金細工の椅子に溶ける様に美しく見える。
その中で流れるようなベルルの黒髪は、いっそう映える。

「あ、グラシスの旦那様、もう少し奥様に寄って下さい」

僕は言われるまま、ベルルに寄って行った。
するとベルルは緊張しているのか、僕の上着の裾を握ってしまう。

「こ、こらベルル。手は膝の上で添える様にと、言われただろう」

「だって……だって旦那様……っ、私凄く緊張しているの。どうしよう……みすぼらしく写っていたら」

「………」

ベルルは本当に緊張している様だった。
あまりこういった彼女を見る事が無いので、貴重とは言えるが、せっかくの写真なのだから彼女の笑顔を写して残したい所だ。

「ははは、奥様は緊張されていますか。でしたら、花束でも持ってみますか?」

「……花束?」

主人は、写真館の他の従業員に指示して、大きな造花のブーケを持って来た。
朱色の小さな花と、真っ白なユリの花のブーケで、造花とは言えなかなかリアルに作ってある。

「まあ」

ベルルはその美しいブーケを嬉しそうに受け取った。

それを膝の上で抱えるように持つ。
僕も彼女の側で、言われた通り立って写真を撮られるのを待つ。

「はい、良いですか? お二人とも、笑顔ですよ」

主人はそんな事を言いながら、シャッターチャンスを待っている。
僕は笑顔と言われても、相変わらずの無表情だった気がする。一枚目が撮られた時、なかなか笑顔を作るのは難しいのだなと感じた。

「まだまだ固いですね~。では、二枚目を撮りますよ」

主人がそう言った時、ふと僕は、体の右側に感じる温かさと、微妙な重みに気がついた。
ちらりとそちらを見ると、ベルルがブーケで隠しつつ、僕の上着の裾を握っていた。
その小さな左手で。

彼女は服の裾を掴んでは、どこかホッとした表情になって、徐々に柔らかい笑顔になる。
何だかその一連の様子が面白くて、僕も思わず笑ってしまった。

「あっ、良いですね!! そのまま、そのままですよお二人とも。視線をください」

主人は流石にプロである。
僕らの表情の変化に、カメラのレンズ越しに気がついたようだった。

僕はそのまま、言われた通りカメラのレンズの方を見る。
今だと思ったのか、主人はそのままシャッターを切った。









「はあ……緊張した……」

ベルルは写真館の撮影所から出ると、すぐにそう言って、僕の腕にしがみついた。

「そんな事言って。さっき、僕の上着の裾を握っていただろう」

「あら……旦那様ったら気がついていたの? ブーケに隠れるから……いいかなと思って……」

ベルルはどこかシュンとして、僕の様子を伺う様に見上げる。

「別に怒っている訳じゃ無いさ。面白かったと言う話だ」

「……どうして?」

「どうしてだろうな……」

今思い出しても、フッと笑みが浮かんでくる。
どうしてだろうか。

カウンターでは、現像の希望枚数を聞かれた。

「グラシスの旦那様、現像は何枚になさいますか?」

「………そうだな……」

まず、館の保管用に一枚と、僕の持って歩く分に一枚。

「ベルル……お前もいるか?」

「勿論よ!! 私だって、旦那様と一緒に写った写真が欲しいわっ」

ベルルはカウンターでぴょんぴょん飛び跳ねながら、喜々とした様子でそう言う。

「では、3枚で頼む」

結局三枚の現像を頼んだ。
現像写真は、出来上がったら空中伝書が届く事になっている。

楽しみだ。
AD
いいね!した人  |  コメント(1)

[PR]気になるキーワード