小说党156215のブログ

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01:日記

僕は悩んでいた。

ベルルの誕生日のひと月程前の事だ。
ベルルの誕生日の、更にひと月後に結婚式を予定している。本当は誕生日の日に結婚式が良いかと思っていたが、それではお祝い事が重なってしまって、ベルルにとって楽しみな事や嬉しい事が一つ減ってしまうのではと考え直し、このようにした。

また、ちょうど結婚式後に大型連休があり、さらに研究室の室長に頼み込んで連休を増やし、そのままハネムーンへ突撃する算段である。結婚式からのハネムーンは最近のトレンduvetica 店舗
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ドで、この季節は温かく南東の島国のリゾート地が美しい時期である事から、僕は奮発して豪華客船での南東の島国ハネムーンを手配した。

まあ、持つべき友はホテル事業に乗り出している貴族様である。
レッドバルト家に相談すると、そこそこの値段でこれらの人気プランを手配する事が出来た。

ベルルは船に乗った事がないだろうから、きっとはしゃぐだろう。
海だって、どれほど青く美しいか知らない。

実に楽しみで、僕はニヤけ顔をどうにもする事が出来なかった。


「って、違う違う。ベルルの誕生日の事だ……」

さて、僕は再び悩み始めた。
結婚式、ハネムーン、それらの予定はほぼ完璧に決まったのであるが、ベルルの誕生日の贈り物を、まだ用意していない。
ベルルに欲しいものを聞こうかと思ったが、きっと彼女は「旦那様から貰うものなら、何だって嬉しいわっ」と言うに決まっている。
彼女はあまり物欲が無い。

そうなるとこちらで考えて用意しなければならないが、僕も今更、ベルルの欲しがるものを思い浮かべる事が出来ない。
洋服はいつも買ってあげているし、目新しさが無いなあ。化粧道具も揃っているし、ベルルは普段薄化粧だしな……

やはり無難に宝石系の装飾品だろうか。

「難しいなあ……彼女はいったい何を喜んでくれるだろう」

僕は書斎の机で一息ついて、背伸びをする。
だらっと椅子の背にもたれかかって、目頭を押さえる。

窓の外を飛ぶ鳥のシルエットが、顔の明るい部分を横切って行った。



考えていても仕方が無いので、書斎を出て、ベルルの様子でも探ってみようかと思った。
彼女の行動のどこかに、贈り物へのヒントが隠されているかもしれない。

居間へ降りて行くと、ベルルがサフラナに縫い物や刺繍を習っていた。
料理やお菓子作りには慣れてきたベルルであったが、裁縫はどうにも難しいらしく、いつも真剣な表情で針と糸と布とで格闘しているようだ。

子犬姿のマルさんが、悠々と陽の当たる窓辺のクッションの上で昼寝をしている。

「あら、旦那様!! お仕事はもう終わったの?」

ベルルが僕に気がついて、顔を上げた。

「あ、ああ……。少し、コーヒーでも飲もうかと思ってね」

「まあ坊ちゃん、言ってくだされば先に用意してましたのに」

「大丈夫。まだ仕事は終わらないから、上に持って行くよ」

「でしたら少々お待ちを」

サフラナが台所へ向かった。
僕はベルルの隣に座って、彼女の作業を覗く。

「………」

彼女の針仕事は非常に危なっかしく、あっちこっちへ飛び交う。
本人はとても真剣なのだが、お世辞にも上手とは言えない……

そこも可愛いけれど。

「だ、旦那様ったら覗かないでっ」

「……どうしてだい?」

「だって……とってもへたくそなのよ? 私、本当はもっと上手に縫い物をしたいのに……」

ベルルは唇を尖らせて、自分の縫っていたコースターを見つめた。
サフラナのそれは、美しい柄の布をいくつも重ね、乱れなく円形のコースターに出来上がっているのだが、ベルルのそれは非常にいびつだ。
布の組み合わせは美しいのに、縫い目がガタガタで、どうにも楕円になってしまっている。

「……これじゃあ、旦那様のコーヒーカップだって傾いちゃうわ」

「ははは。そりゃあ、すぐに上手くなる訳が無いよ。ベルルはまだ始めたばかりなんだから、毎日こつこつ練習していれば、きっと上手く縫い物が出来る様になるさ」

「……そうかしら。私、きっと縫い物のセンスが無いのよ」

珍しくベルルが後ろ向きで、縫い物は彼女の前に立ちはだかる大きな壁のようであった。
僕は彼女の頭をポンポンと撫でる。そうするとベルルはポテンと僕の肩に頭を乗せる。

「苦手な事があったって良いじゃないか。僕だってとても沢山あったよ。学校でも、得意不得意が多いと良く言われていた」

「……そうなの?」

「ああ。魔法薬学や魔法結晶学は得意だったけど、心理魔法学や占星術なんかはちょっと苦手だった。運動や戦闘魔術は並だったしね」

「魔法にも色々あるのねえ。私、旦那様の魔法ばかり見ているから、お薬造る事ばかりが魔法だと思っていたわ」

「そんな事は無いよ。この世界には、色々な分野の魔術師が、それぞれ必要とされているからね。……ベルルだってそうだよ。得意な事があったら、それを伸ばせば良いし、苦手な事があったってそんなに落ち込まなくったって良いんだ。勿論、出来る様になる為に頑張るのは素晴らしい事だけどね」

「………旦那様」

ベルルは「うふふ」と笑って、針山に針を刺し、少し肩の力を抜いたようだった。

「サフラナって凄いわよね。何だって出来るし、少し作業をしてこんなに疲れちゃう私とは大違い。……私も早く、コースターくらい作れる様にならないと。旦那様、私がコースターを綺麗につくれたら、コーヒーを飲む時に使ってくれる?」

「ああ。勿論さ。……楽しみにしているよ」

「……頑張るわ……ええ、頑張るっ」

ベルルは再び、よしと拳を握って、針山の針を手に取った。
ベルルの小さな手に細い針は危なっかしく、僕はあわあわとなってしまったが、ベルルはただせっせと作業を続行する。
あまり真剣なので、何か欲しいものはあるかと聞くのは難しい流れだ。

「坊ちゃん、コーヒーをおいれしました」

サフラナが僕の為にコーヒーと、ちょっとした茶菓子を用意して、盆に乗せ持ってきた。
僕が受け取ろうとすると「いいえ、私が持っていきます」と言う。

当然、彼女はグラシス家の侍女であるから当たり前の行動なのだが、そろそろ歳だし労りたいと思ってしまう部分もある……
まあ、僕より全然元気なんだけどこの婆さんは。







「はあ……どうしようか、サフラナ」

僕は書斎でコーヒーを一口啜って、サフラナに尋ねた。

「何でございますか、坊ちゃん。ため息なんぞ」

「ベルルの誕生日の事だよ。……何を贈ろうか。今の時期から用意出来るものなんて、限られてしまうし、ここは無難に宝石類にしようと思っているんだが……」

「……宝石でございますか。悪くないんじゃないでしょうか。宝石が嫌いなご婦人はおりませんよ」

「まあ、そうだと思うが……ベルルはそこらの貴族のご婦人とは、一味も二味も違うからなあ」

小皿に並べられた、美しい焼き菓子を一つ手に取って口へ放り込む。
僕の好きな、アーモンドの焼き菓子だ。

「奥様は坊ちゃんに頂くものであれば、何だって喜びますとも。高価なものであろうがそうでなかろうが……。あまり考えずに、これと思ったもので良いのでは無いですか?」

「………」

サフラナの言う事は最もだった。
だからこそドツボにはまると言うものである。






サフラナが出て行った後、僕は残りの焼き菓子を頬張り、書斎の中をうろうろした。
思いつく限り女性の欲しがるものを考えてみるが、まあレパートリーの少なさに驚く。

何となく書斎を出て、寝室へ向かったが、特別凄い事を思いつく訳でもなく………

「……?」

しかし、ベルルのドレッサーの前で、気になるものを見つけた。
あまり女性のドレッサーをマジマジと見るのはどうかと思われるが、気になるものは気になる。

「何だろう……本か?」

それは、小さな本の様な、手帳の様な……。
このようなものを、ベルルは持っていたんだな。サフラナに貰ったのだろうか。
何となく古い色をしている気がする。

「………」

僕は覗いて良いものかと思いつつも、どうしても気になってしまって、その本を手に取った。
小さいが高さがあり、茶色のカバーの地味なものだ。

僕はそれをぱらっと開いた。


『冬の▲月3日 旦那様がお仕事の帰りに、王宮で人気のかぼちゃのプリンを買ってきてくださったの。甘くってとても美味しかったわ。旦那様も甘いものがお好きみたい。私と旦那様って、結構好きなものが似ていると思うの』


『冬の▲月7日 旦那様より少しだけ早く起きれたわ。旦那様の寝顔をこっそり見るのが素敵。前髪がちょっぴり長くなった気がするの。旦那様、髪の毛を切らないのかしら?』


『冬の▲月10日 旦那様がお仕事で急がしくて、帰って来られないんですって。つまらないから早く寝たけれど、寒くって寝れなかったわ。旦那様の枕を抱きかかえてめそめそして寝たわね。……でもこれは秘密よ』



僕はあんぐりする。
これは……これは日記ではないか!
毎日綴られるそれは、とても短い簡潔な文だ。だが小さく可愛らしい、どこか拙い字で、僕の事ばかり書いている。魔獣たちや精霊たち、グラシス家の面々の事も書かれているが、まあ基本的に僕の事ばかりだ。端の方に魔獣たちの絵が描かれていたりして、ベルルらしいなと思う反面、彼女が僕の知らない所で、こんな風に思っていたりするのかと、かなり新鮮だったりする。

「髪……」

僕は前髪をちょいちょいと弄りながら、確かに少し伸びてきたなと思い、来週理髪店へ行こうと決めた。

駄目だ駄目だと思いつつ、ベルルの日記をもっと読みたい衝動に駆られ、手が震えた。
どうしようか。いやしかし、日記を他人に読まれると言うのは非常に恥ずかしいし、よろしくない事だ。



「旦那様、今晩のお夕食は……」

ガチャリと音をたて、ベルルがいきなり部屋へ入ってきた。
その瞬間、僕は固まる。ベルルも僕の手にある日記を見て、固まる。

「………」

「………」

一瞬の沈黙の後、ベルルはカアアアアッと顔を真っ赤にした。

「だ、だめええええぇぇぇっ」

どこか力の抜けた様な大きな声を発し、彼女はこちらに駆け寄ってきて、僕から日記を奪う。
目を回しながら、彼女はベッドの上にコロンと倒れ、そのまま布団の中に篭城してしまった。

「ご、ごめんよベルル!! いったい何だろうかと思って、ちょっと……その、少しだけ……見てしまったんだ……」

僕は慌てて、言い訳をしつつベットの小山に声をかける。
掛け布団の端から、ベルルの黄色のドレスが見えるが、彼女の姿はほとんどすっぽり隠れてしまっている。

「ひ、ひどいわ旦那様っ!! 私の……勝手に……」

「ああああ、ゴメンよベルル!!」

「うう……っ」

ベルルはなかなか出てくれなかったが、僕がペラッと布団をめくると、両頬に手を当て真っ赤になっている彼女が。

「べ、ベルル……出ておいで?」

「ダメっ! 恥ずかしくって、出られないわ。……ああ、どうしてこんなに恥ずかしいものを、出しっぱなしにしてしまっていたのかしら……」

ベルルはもぞもぞと、どんどん深くへ潜り込み、丸くなった。
彼女は恥ずかしい時、布団の中へ潜り込む癖がある。

「ベルル、本当にごめんよ。……出来心だったんだ、許してくれ。……僕はずっと、君が今一番欲しいものは何だろうかと悩んでいて……その、それで、思わず」

そこにヒントがあればと思った訳だが、思っていた以上に、ベルルは僕の事ばかり書いていた。
ベルルがこんなに恥ずかしがっているのに、僕はどこか笑みを隠せずにいた。いや勝手に人様の日記を覗いたのは反省しなければならないが。

「ベルル、ありがとう。……嬉しかったよ、いつもそんな風に、僕の事を見てくれていて……」

ベルルが掛け布団の中に隠れてしまって、面と向かっていないから、僕は案外素直になれる。
布団の小山の隣に座って、そっとそれに手を添え語りかけた。

するとベルルは、僅かに布団の隙間から顔を覗かせ、僕を見る。

「……ほ、本当?」

「ああ。嬉しくない訳が無い。……理髪店に行こうと思ったよ」

「………っ」

僕がそう言うと、再びベルルは顔を赤くしてしまった。
むしろ僕はそれしか言う事が無かったのかと。

僕は布団事、彼女を引き寄せた。
すると頭の部分の布団が崩れ、彼女の頭を覗かせる。黒髪がわしゃあっと乱れていて、非常に面白い事になっていた。

「……ぷっ」

「あ、笑ったわ」

ベルルはまた眉を寄せ困った照れた顔をして、布団の中から手を出して自分の頭をちょいちょい撫でた。

「ひどいわ旦那様ったら」

「い、いや……面白くてつい」

彼女はむーっと頬を膨らませる。僕はさっきからベルルを怒らせたり、恥ずかしがらせたりしてばかりなのに、笑ってしまって申し訳ないと思いつつも笑みを止められない。

「ベルル、この通りだ。許してくれ……。代わりに何でも言う事を聞こう。欲しいものがあったら、言うと良い」

この流れで、僕は彼女に欲しいものを聞いてみた。
ベルルは少し小首を傾げたが、コクンと頷く。

「良いわ、旦那様だもの……許してしまうわ」

自分の日記を僕から遠ざけつつも、そう言って許してくれる。

「でももう読んではダメよ。恥ずかしいのよ、本当に。旦那様の事ばかり書いているんですもの……」

「え、あ、ああ……うん」

何とも残念である。本当はもっと読みたかったけれど……。
ベルルは口元に指を添え、考え込む。

「旦那様に言う事を聞いてもらうなんて、いつものおねだりの様なものよ。キスしてっていったら、してくれる? ぎゅーってしてって言ったら?」

「ああ勿論だとも」

それはどちらへのご褒美なのか知れない。
そもそも日常の事なので、これで良いのかと思ったりもする。

僕はベルルの唇に口付け、その後彼女をゆっくり抱き締め、背を撫でた。

ベルルは嬉しそうに、僕に身を寄せ、肩に頭を乗せる。

「ベルル、他に何か、欲しいものは無いかい? その、最近入り用のものとか……」

「……?」

いやむしろ入り用なものなんて、誕生日じゃなくても買ってあげたい所だが。
ベルルはまた少しだけ悩んで、困っていた。

「欲しいものなんて、あったかしら」

「………」

やはりベルルに物欲は無い。
これは宝石コースまっしぐらか。

「あ!!」

しかしベルルはバッと顔を上げ、僕をキラキラした瞳で見つめる。

「あるわ、欲しいもの!! ロケットよ!!」

「……ロケット?」

「ええ。ロケットペンダントよ。お写真を入れて持っておくものよ!! 前に、サフラナに聞いた事があるの。そういうペンダントがあるんだって事。私、写真はスケッチブックに貼っているのだけど、それでは常に持っていられないもの……」

「………」

なるほど、ロケットペンダントか。
なかなか良いでは無いか。それなりの宝石も装飾としてあしらって貰えば、当初の予定と彼女の希望とが交わる贈り物に出来るし、記念のものになる。

「……良いじゃないか。うん、それで行こう」

僕は何度も頷いて、またベルルを抱き締めた。
ベルルは不思議そうにしていたけれど、僕はやはり、ベルルに希望を聞いて良かったなと思う。

「ロケット、良いとも良いとも。ベルル、期待していてくれ」

「そ、そんなに高級なものじゃないくて良いのよ?」

「あははは、まあそこは僕の懐を信じてくれ……」

「……?」

まあそんなにほくほくした懐でもないが。
しかしベルルの誕生日なのだ、良いものを選びたいなと思う。

出来るだけ彼女に大きく喜んでもらえるものを。

「旦那様は? 旦那様は、欲しいものある??」

ベルルは大きな瞳を僕に向け、そう聞く。

「……僕かい?」

「ええ」

「うーん……僕は別に……」

これと言って、今欲しいものは無い。というかベルルが居ればそれで十分である。

「……あ、でも……そうだな。君がコースターをちゃんと作れる様になったら、僕は喜んで使うよ。さっきも言ったけれどね」

「そ、それは、良い贈り物になるのかしら……」

ベルルはどこか不安げにして、指を弄っているが、何やら張り切った様子で頷いた。

「ええ、分かったわ。私頑張る」

頑張る頑張ると何度も呟いて、彼女はバッと布団をはいで、ベッドを降りた。
日記をどこに仕舞おうかとふらふらして、ドレッサーの奥深くに隠す。

「旦那様、絶対に見てはダメよ」

「………」

それならば、僕の見ていない所で隠すべきだったな……。
と思いつつも、咳払いして「ああ」と。

ベルルは満足げに、にっこりと満面の笑みを浮かべ、僕の目の前に戻ってきた。

「そうだわ。旦那様、サフラナがお夕食、何が良いでしょうかって。……私、それを聞きに来たのに」

「夕食かい? サフラナは迷っているのかい?」

「ええ。クリームソースとデミグラスソース、どちらが良いか、ですって」

「………」

なかなかピンポイントで迷っているようであった。
さっと聞きにきたのだろうが、僕らがあまりに長く語っていたため、サフラナは困っているのではないだろうか。

いや、もしかしたら、サフラナがベルルをここへよこす為の、一つの口実だったのかもしれない。
僕が彼女に、何が欲しいか問う為の。

「そうだなあ、今日はクリームソースの気分かな」

「分かったわ!! 凄いわねえ、私もそっちの気分だったのよ」

ベルルは嬉しそうに、ドレスを翻しタタッと部屋を出て行った。


僕は思い出していた。
彼女の日記に「好きなものが似ている」と書かれていた事を。

僕の好きなものが基本的に良く出てくるから、彼女もそれを好きになったのかもしれないし、本当に好みが似ているのかもしれない。
それはどちらでも嬉しい事ではあるが、そういった小さな発見を彼女が毎日綴っているのかと思うと微笑ましい。

ちらり……と視界に入ったドレッサーであったが、僕は首を振って、書斎へ戻った。
流石にもう、日記を読んではいけない。もっと読んでみたかったけれど。

ベルルに嫌われたくないなら、その葛藤に耐えろと自分に言い聞かせた。

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