夢のような現実 ~ 「かたちだけの愛」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。




そんな絵空事のような理想を言ったって・・・・。
読み進めてそう思っていたら、寓話に託すこともなく、
鮮やかに現実味を施した小説でした。


☆☆☆       

 

かたちだけの愛 (中公文庫) かたちだけの愛 / 平野 啓一郎 (中公文庫)
741円 Amazon、686円 Kindle版
2010年刊、2013年文庫化

 



プロダクトデザイナーの 相良郁哉 ( あいらいくや )
事務所近くで交通事故に遭った女優 叶世久美子 ( かなせくみこ ) を救けました。
残念ながら、その事故で久美子は片足を失います。

久美子の入院先の病院の経営者の原田紫づ香りが
相良のファンであったことから
相良が久美子の義足をデザインすることになりました。

足を失った事実と格闘する久美子と
誰もがうらやましがるような義足をデザインしようとする相良は
徐々に思いを募らせていきます。

そこに
事故現場から姿を消した久美子の恋人が二人に付きまといます。


☆☆☆       

久美子の義足をデザインを依頼するにあたり、
紫づ香が相良につけた条件は常識を覆すものでした。

☆☆彼女の義足も、人に自慢したくなるものであるべきです。
☆☆生身の足よりも、もっと美しくて、もっとエレガントで、
☆☆見た人が思わず目を瞠って、溜息をもらすような。



理想的なコンセプトです。
同時に理想的であればあるほど、
現実とかけはなれた絵空事に見られがちです。

それを実現可能な夢に転換させたのは、
この小説の中に登場させた実話です。


☆☆☆       

アスリートだったエイミー・マリンズ(Eimee Mullins)は
その美貌からモデルや女優としても活躍していました。

彼女は両膝から下を失った後、再びアスリート、モデル、女優として
復活しました。常識を覆す12足の義足とともに。
(興味のある方は動画「エイミー・マリンズと12組の足」ご参照を)

華麗な義足を身に着けた彼女と再会した友人は
こう羨んだそうです。

☆☆ずるいわ、エイミー。/ Aimee, that's not fair.


☆☆☆       

プロダクト・デザイナーという相良の仕事と
取り組み中のデスク・ランプのデザインを

読者が夢のような現実のものとして受け入れやすいように

倉俣史朗デザインの椅子「ミス・ブランチ」、あるいは
ミケーレ・デ・ルッキのランプ「トロメオ」や
谷崎潤一郎の「陰影礼賛」も引き合いにだしています。

さらに
小説の中でも勝負の場面では陰影を印象的に描いています。


☆☆☆       

一見、非現実に映るこの物語が、
幻影のように炎をあげた相良と久美子の恋は、、
現実のものとして静かに愛として定着するのでしょうか。




[end]


*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■□□F
読みごたえレベル E■■■□□F


*****************************
作家別本の紹介の目次なら
日本人著者はこちら

海外の著者はこちら

*****************************


<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
 その本を紹介した記事にとびます。