繊細な非常識 ~ 「整形前夜」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



なんだか怪しげなタイトルは著者の次の一首から採ったもの。

  整形前夜ノーマ・ジーンが泣きながら
  兎の尻に挿すアスピリン


ノーマ・ジーン・モーテンソンはマリリン・モンローのいわば本名。
整形手術のbefore/after、女優(芸名)とオフの素顔(本名)、
どちらも同一人物でふたつの顔。

私は素顔の方にドキリとします。

      


著者は馴染みやすい短歌で人気歌人でありながら、
エッセイでは、ヘナチョコぶりを売りにしています。
このエッセイでは自他双方の短歌が添えられています。

整形前夜 / 穂村 弘 (講談社文庫)
 ¥580 Amazon.co.jp


      


ヘナチョコぶりは戸惑いの連続から生まれています。
穂村弘と世間のあたりまえとの間のギャップがネタです。
いわば、世間とのギャップは非常識。

その穂村弘の非常識こそ、
短歌を産み出す原動力になっています。

      

短歌は周りの状況・情景を客観的な言葉の表現で詠みます。
そして読み手はそこから感情を読みとります。
ふつうなら、あたりまえで見過ごす場面を
新鮮な視点から切りとって言葉にしたものです。

かといって、非常識ならなんでもいいのかといえば、
読み手が詠み手と共感できる程度に、
その非常識(=新鮮な視点)は納得性が必要です。

さらに、短歌は三十一文字の定型表現なので、
言葉のアンテナに高い感度が求められます。
切り取った場面を表現する言葉も
選び抜き、研ぎ澄まされていなければなりません。

      


エッセイでは、
友人が一昨日買ったフリスクに憧れ、
  七三の髪型から脱出する涙ぐましい試み、
東京での人の気配のキャッチしにくさに不安になり、
  古本の値段の損得を気にやんだり etc.
ぐだぐだしたなかにも、きらりと鋭いアンテナが光ります。

      


繊細な非常識から短歌とエッセイ。
ひと粒で2度おいしい穂村弘です。

短歌が本業で、エッセイが素顔寄りだとしても、
穂村弘に関しては本業の方に惹かれます。
短歌の方にドキリとするのは、
きっとそちらが素顔だからですね。

[end]


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