なんだか怪しげなタイトルは著者の次の一首から採ったもの。
整形前夜ノーマ・ジーンが泣きながら
兎の尻に挿すアスピリン
ノーマ・ジーン・モーテンソンはマリリン・モンローのいわば本名。
整形手術のbefore/after、女優(芸名)とオフの素顔(本名)、
どちらも同一人物でふたつの顔。
私は素顔の方にドキリとします。
◆
著者は馴染みやすい短歌で人気歌人でありながら、
エッセイでは、ヘナチョコぶりを売りにしています。
このエッセイでは自他双方の短歌が添えられています。
- 整形前夜 / 穂村 弘 (講談社文庫)
¥580 Amazon.co.jp
◆
ヘナチョコぶりは戸惑いの連続から生まれています。
穂村弘と世間のあたりまえとの間のギャップがネタです。
いわば、世間とのギャップは非常識。
その穂村弘の非常識こそ、
短歌を産み出す原動力になっています。
◆
短歌は周りの状況・情景を客観的な言葉の表現で詠みます。
そして読み手はそこから感情を読みとります。
ふつうなら、あたりまえで見過ごす場面を
新鮮な視点から切りとって言葉にしたものです。
かといって、非常識ならなんでもいいのかといえば、
読み手が詠み手と共感できる程度に、
その非常識(=新鮮な視点)は納得性が必要です。
さらに、短歌は三十一文字の定型表現なので、
言葉のアンテナに高い感度が求められます。
切り取った場面を表現する言葉も
選び抜き、研ぎ澄まされていなければなりません。
◆
エッセイでは、
友人が一昨日買ったフリスクに憧れ、
七三の髪型から脱出する涙ぐましい試み、
東京での人の気配のキャッチしにくさに不安になり、
古本の値段の損得を気にやんだり etc.
ぐだぐだしたなかにも、きらりと鋭いアンテナが光ります。
◆
繊細な非常識から短歌とエッセイ。
ひと粒で2度おいしい穂村弘です。
短歌が本業で、エッセイが素顔寄りだとしても、
穂村弘に関しては本業の方に惹かれます。
短歌の方にドキリとするのは、
きっとそちらが素顔だからですね。
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