この数ヶ月間、忙しさに紛れて、あまり書店に足を運でいません。
それでもたまに書店の文庫の書棚をめぐっているときのことでした。
ある本をタイトルに惹かれて手にとってみたものの、
裏表紙にある作品紹介に目を通して、
疲れている時に読む本ではないな、と書棚に戻しました。
そんなことがあってから1ヶ月ほど経ってから、
再び同じ書店で平積みの隅にあるその本が目にとまりました。
やはり気になるのです。
私のアンテナが「この本は読んでおけ」というサインを受信しています。
◆
この本が発刊されたのは1949年。今から60年以上も前のこと。
中公文庫から出されたのは1976年。発刊の28年後です。
文庫化されてから37年間に16刷を重ねています。
ゆっくりながら着実な足跡です。何か力をもった本にちがいありません。
そんなデータを見る前から、この本は不思議な信号を私に送ってきたわけです。
再び手にとりレジに向かいました。
- 流れる星は生きている / 藤原 てい (中公文庫)
¥720 Amazon.co.jp
◆
中国の新京に住む日本人一家が、太平洋戦争終戦数日前の夜、
急き立てられて町を発ちます。
一家といっても、夫は新京にまだ残り、乳呑児をふくむ3人の子供を連れ、
ろくに荷物も準備できない足元のおぼつかない旅立ちです。
いわゆる引き揚げの始まりです。
母子4人の1000キロの距離の足取りが、つぶさにつづられています。
1000キロといえば、東京から鹿児島までほど距離です。
鉄道も、宿もあてなどなく、それどころか食べるものもあてにできない、
そんな旅ともいえない移動で頼りになるものは・・・・・・。
◆
悲惨で壮絶な旅です。
集団で動くので、周りの人との係わり合いも良くも悪くも生まれます。
危機は、それが崖っぷちであればあるほど、人の本性が露わにします。
悲惨な中にも生まれる家族間の格差というか事情の違いは残酷です。
そんな足取りを著者自身の思いとともに赤裸々に語っています。
◆
力尽きそうになった時、あきらめるか、もうひとがんばりするか、
紙一重の違いが生死を分ける世界です。
なりふり構わず命をつなぐ姿がありました。
生きよう、死ぬまいとするのは本能なんですね。
悲惨な状況に読んでいて気持ちが重くなりながらも、
ページをめくらずにはいられません。
なぜか読み手に力を与えてくれる不思議な文章です。
◆
長年にわたり読まれてきた1冊は、これからも読み継がれていく1冊です。
書棚の隅にこの本を平積みしてくれた書店員さん、ありがとう。
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