eメールが全盛となり、手書きのハガキや手紙が影をひそめました。
ツレアイと暮らし始める前、1万キロの長距離恋愛の時期がありました。
eメールなんてありませんし、電話代も高い時代だったので、
手紙でやりとりをしていました。
手書きでしたし、航空便でも日数はかかり、のどかなやりとりです。
何を書いたかさっぱり憶えていませんが、
面と向かっては口にしないような
素直な気持ちを文字にしていた気分の感触が残っています。
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恋文の技術/森見 登美彦 (ポプラ文庫)
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修士課程の学生守田一郎が、京都から修行に出された先の能登から、
友人に、妹に、森見登美彦などの先輩に宛てた書簡で綴る小説です。
相手からの返信は紹介されていないので、
その内容は読み手が想像するしかありません。それが楽しいんです。
◆
守田一郎は学生としても男性としても、どうしようもない奴です。
その手紙の内容もまあ、ひどいもんです。
その場しのぎのアドバイスやら言い訳やらのオンパレードです。
そんな調子ですから、手書きの力がへんな方向に力を発揮します。
- そんなことがあったのかあ。
宛先毎にまとめられた書簡を読み進むうちに、
日付順に手紙の往復の向こうで何が起きたか明になる趣向です。
◆
終盤になると、守田一郎以外の人たちの書簡が登場します。
- なるほどねえ。
それらの手紙を時系列に並べてしまったらつまらないものを、
読ませる順序で楽しませてくれます。
読みはじめて"なんじゃこれ"と腹がたっても、
第十一章までがまんすると楽しみが待っています。
読み手によっては、相当な忍耐力が要求されるかもしれません。
そしてちゃんと恋文の極意が披露されます。
◆
- なに、これ?
この本の表紙をみたツレの声色にはトゲがあります。
ノウハウ本のような紛らわしいタイトルから、
私がよからぬ企てをしているんじゃないかと勘繰ったようです。
いまさら恋文の極意を伝授されても、使い道がありません。
- あっ、そうかあ。
面と向かって言えないことも、手紙にならできるかも。
ツレ宛てに嘆願書なら書けそうな気がしてきました。
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