とくだん目的地を決めることなく鉄道に乗って、
成り行きで駅に降り、その町に泊まってみる、
そんな旅は、素朴でありながら、どこか贅沢な感じもすれば、
現在の居場所から遠のきたい逃避行の香りがすることもあります。
◆
私の赤くて柔らかな部分/平田 俊子 (角川書店)
¥1,785 Amazon.co.jp
バイト先に出勤できなくなり、そのまま辞めた"まなみ"が、
そこで知り合ったカメラマンの葬送に向う場面から物語は始まります。
葬送の席から家に帰らず、あてなく鉄道に乗り小さな町に着きます。
◆
駅から遠い"ステーション・ホテル"、
曜日毎に1つだけのメニュー食堂、上田屋、
そこに働く人、出入りする人々。
"ろっぽく"という名の風変わりな祭。
ありふれた現実のような、どこか非現実的な日がずるずると続きます。
◆
現実と妄想の狭間を行き来するような不思議な空気。
詩人でもある著者独特のキレのいい感性と、端的な文の使い方。
柔らかで暖かな空気が流れる中で、
刃物に何かの光がキラと反射するような不安な空気があります。
"まなみ"がたまたま辿りついた町に居続ける理由を、
安易に想像していたら、グサリとやられてしまいました。
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辛い現実を見まいとしたり、思い出さずにいようとする気持ちは、
多かれ少なかれ誰にでも備わっています。
- 実際にそうなってみないとわからない。
そうした現実との向き合い方って、
その現実が強烈であるほど、想像することも難しいのでしょうね。
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