「ただいまーって、誰もいないよねー」
帰り道に見かけた仲の良さそうなふたりの後ろ姿に、また胸がちくんってした。
なんでなんだろう、どうして、なんだろう。
手を洗いに行った洗面所で、パパにそっくりな自分の顔を見つめて、ため息をついた。
パパとママのこどもで、嫌だったなんて思ったことは一度もないけど。
パパはどうして、ママだったんだろう。
ママはどうして、パパだったんだろう。
……じゃあ、私はどうして……?
「って!やめやめやめ!考えても仕方ないっ!」
洗面所に置いてあるシュシュで、ぎゅって髪の毛を結いて、ばしゃばしゃ、顔を洗った。
「今日はどれにしようかなぁ……」
ずらっと並んだコンサートのディスク。
「これにしよ」
私たちが産まれる前のパパとママ。
キラキラのアイドルな櫻井翔と相葉雅紀。
「くふふ、かっこいいー♡」
たまに見つめ合うふたりが、今と変わらなくて、甘すぎて、泣きたくなる。
人を好きになるって、ムズカシイ。
視線をあげれば、私とお兄ちゃんとパパとママ、4人で写っている家族写真がたくさん飾られていて……
端っこから、順番に視線を動かす。
赤ちゃんの時は、私の方がママに似てたのにな……
このくらいの時はいっつも手を繋いで歩いてたのにな……
小学校の時は、意地悪する男子から、いつもお兄ちゃんが守ってくれて……
「あー!もう!」
ぼふって、お兄ちゃんが気に入ってるひよこのクッションを両手で叩いてから、ぎゅうって抱きしめた。
今日は、ダメな日だ。
ぐるぐるループなパパみたいな日だ。
パパよりもママよりもお兄ちゃんよりも、かっこいい人がいたらいいのにって、いつも思う。
贅沢すぎるって、かなちゃんとひろちゃんは笑うけど……
リアルに厳しい問題なんだよね、私にとっては。
「ケーキでも作ろっかな!」
お兄ちゃんとパパが大好きなチーズケーキ、唯一ママより上手に作れるチーズケーキを焼いたら、お兄ちゃんもパパも、きっと喜んでくれるよね?
立ち上がった瞬間に、手の中でスマホが震えた。
家族のグループラインに新着メッセージ。
『今日、終わり時間変更になったから、雅紀のとこ迎えに行くよ』
『しょーちゃん、ありがと♡待ってるね♡』
「あーもう!いつまでもラブラブでいいよね、この2人は!てか、ラブラブメールは個人LINEでやれっての!」
もうもうもう!ってひとりで叫んで、画面の中のキメッキメなパパに、ひよこをえいって投げつけた。