Cutting Edge2 2012 (14)


①見ることと聞くことは質的に異なる知覚体験である。

このことは、視覚と音を決して混同しないという事実からも明らかである。

触覚や味、そして匂いについても同じことが言われている。

実際、伝統的な感覚の5分類、すなわち触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚は、こうした質的な違いに基づいてなされている。

では、脳はある種類の知覚体験と別の種類の体験、たとえば音と視覚、匂いと味をどのように区別しているのだろうか?

視覚と音を例にとって、この疑問について考えてみよう。


②聞くことに対する刺激である音波と、見ることに対する刺激である光エネルギーが、根本的に異なっている点を指摘することで答えることは簡単だ。

しかし、この議論は適切とは言えない。

なぜなら、脳は音波やエネルギーを直接受け取っているわけではなく、神経インパルスと呼ばれる微小の電気信号を受け取っているだけだからだ。

つまり、脳の観点から見ると、入ってくる信号はすべて事実上同じなのだ。

それでも、互いに似てはいても、それらの神経インパルスは異なる発信源、すなわち目と耳から生じていると指摘するかもしれない。

さらに論をすすめて、そうした発信源はは根本的に異なっており、特定の種類の刺激だけに反応するようにできていると言うかもしれない。

目は光には反応するが音には反応せず、耳にはその逆のことが言える。

したがって、見ることと聞くことの独自性は目と耳の違いによるものだと結論付けるのも無理もない。


③[しかし、近年の科学技術の進歩により、光や音に対する知覚は、目や耳が関与しなくても生じることが分かった。目や耳を迂回して、直接脳を刺激することができるのだ。例えば、脳の後部のある一点を刺激すると、光の輝きが知覚され、また脳の側面の決まった個所を刺激すると、その刺激を受けた人は音が聞こえるのである。]


④こうした観察結果から驚くべき結論が導き出される。すなわち、聞くことと見ることの決定的な違いは、目と耳がメッセージを送る脳の「部位」にとって決まるというものである。今日では、目から伝わる神経は脳のある場所へ、耳から伝わる神経は別の場所へといったように知覚神経は脳の特定部位に伝わることが確認されている。視覚や音の区別は、脳のさまざまな部位に固有の特性に関係していると広く信じられている。


⑤ここで面白い質問がある。仮に誰かが、目からつながっている神経を、普段は耳からの信号を受け取る脳の部位につないだらどうなるのだろうか?また同時に、耳からの神経を、通常、視覚情報を受け取る部位につないだら一体何が起きるだろう?驚くべき答えはこうである。激しい雷雨の最中、稲妻の閃光を耳で聞き、雷鳴を目で見ることができるだろう