いよいよ旅が終わる。
終わってしまう寂しさがある一方で、どこかホッとしてる。
高校時代、部活の最後の試合に負けた時の気持ちとちょっと似ている。
まだこのメンバーでサッカーしたかったなって気持ちと、もう頑張らなくていいんだっていう安堵感。
そんな事を考えていたら、ジッとしていられなくなって、深夜に溜まっていた洗濯物を手洗いした。
もちろん肌着系以外は全然乾かなかった。
あと2日あるが、最終日は嫌でもゴールを意識しちゃうから、いつも通りの日を過ごせるのはあと1日だ。
出発前にデカい荷物付けた自転車を見て「おっしゃ、今日も行くぜ」って思うのもたぶん今日で最後だ。
From Paris to Romaも最後だ。
明日にはローマに到着しているから、ただのFrom Parisになる。
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今日の目的地は86km先。
ここまでで相当賢くなった。
どのくらいのスピードで、どのくらいの時間走って、休憩はどのタイミングで、どれくらいの時間を取れば、身体への負荷を最小限に抑えられるかまで分かるようになった。
いつものように走れば、86kmなんて正直楽勝だ。
でもそれはtoo easyではなくて、ただのtoo boringだ。
今日は休憩とか、疲労とか考えずに、出せる力全部出し切って、がむしゃらになってペダルを漕ごう。ボロボロになるまで走ろう。
今日もひたすら一本道。
ローマに近付いているためか交通量が多い。
追い抜いていくお化けトラックの背中を必死に追い掛ける。
全く追い付かないけど、何台も何台も必死になって追い掛ける。
ブチ切れクラクションにも、全力で叫び返す。
「うぉぉぉぁぁぁぁぁあああああ!!!」
全力でペダルを漕いで、全力で叫んだ。
途中、どこかで曲がり損ねたのか有料道路の入り口にぶつかった。
近くに曲がれるような道はない。
しょうがない、突破するしかないかと思っていたら、係員の車がこちらに向かって来る。
いつもなら面白がれる展開だ。
もしかしたらどこかまで乗せてくれるかもしれない。
でも、今日だけは違うんだ。今日だけはダメなんだ。
今日だけは何としても自分の足で漕ぎたいんだ。
そんな願いが通じたのか、係員専用の出入り口まで案内されて下道に。
下道に降りてもひたすら漕ぎ続ける。
50km過ぎた時点で、疲れがどっと押し寄せてきた。ここまで休憩はゼロだ。
パリに着いてから21日間ぶっ通しで漕いできている。
アメリカ横断時、スタートの1ヶ月は最低でも週に1日は完全休養日を作っていた。
肉体が出来上がってきた中盤以降でさえ、最多連続走行日は12日間。
今まであまり意識していなかったが、そう考えると、所々足が痛い気もする。
今日は風も強い。
別に誰が見ているわけでもない。
キツくなって逃げ道を探し始めた。
いつからそんなダサい男になったんだ。
キツい時に踏ん張れるのが銀河系軍団だろ。
4年前、カリフォルニアの荒野を80kmぶっ通しで漕いだ、あの時の自分を超えるんだろ。
歯を食いしばって、300%の力で漕ぐ。
漕ぐ。
漕ぐ。
漕ぐ。
スピードは全然出ない。
エネルギーもとっくに切れてる。
それでもがむしゃらになって漕ぐ。
ギャグではなく、今日はほとんど風景の記憶がない。
叫び過ぎで喉は死ぬ程痛いし、全身ボロボロだ。
でも、これでいいんだ。
いや、これがいいんだ。
86km、ノンストップで走り切った。
もう二度とやりたくないけど、最高の86kmだった。
ラスト一日、最高の走りをしよう。
ヨーロッパ自転車横断達成前夜
現在地:サンタ・マリネッラ
21日目の走行距離:86km
横山諒平