『ウルトラセブン 遊星より愛をこめて』の欠番問題 ―テーマは平和希求―
『ウルトラセブン』「遊星より愛をこめて」
テレビ トーキー 30分 カラー
放映日 1967年12月17日
製作国 日本
製作言語 日本語
放送局 TBS系
監修 円谷英二
プロデューサー 末安昌美
脚本 佐々木守
撮影 永井仙吉
美術 成田亨
岩崎致躬
照明 新井盛
音楽 冬木透
録音 松本好正
効果 知久長五郎
編集 柳川義博
助監督 山本正孝
製作主任 高山篤
製作担当者 塚原正弘
特殊技術
撮影 鈴木清
美術 池谷仙克
操演 平鍋功
照明 小林哲也
光学撮影 中野稔
助監督 円谷粲
制作主任 熊谷健
東京現像所
キヌタラボラトリー
TBS映画社
出演
中山昭二(キリヤマ隊長)
森次浩司(モロボシ・ダン)
菱見百合子(友里アンヌ)
石井伊吉(フルハシ・シゲル)
阿知波信介(ソガ)
古谷敏(アマギ)
三浦威
奥村公延(スペル星人人間体)
高橋征郎
中原成男
日下部聖悦
中村晴吉
谷津功(スペル星人 声の出演)
桜井浩子(早苗)
岩下浩(佐竹)
福田善之(福田博士)
上西弘次(ウルトラセブン スーツアクター)
浦野光(ナレーター)
特殊技術 大木淳
監督 実相寺昭雄
制作 円谷プロダクション
TBS
本第12話は現在欠番です。現在視聴する
ことは不可能です。拙ブログでは、作品に関
する資料の表記で傷ついた方々の御心を仰
ぎつつ、ドラマが語る平和への願いに学びた
い、と願っています。
東京で数人の女性達が、突然倒れて急死
する事件が頻発しました。被害者の女性達
は、皆、同じ時計を腕に巻いていたのですが、
その時計の金属は地球に無いものだったの
です。
アンヌは、親友早苗がその問題の時計をつ
けていたことを確かめ、彼女に時計をプレゼント
した婚約者の佐竹三郎を追求します。
佐竹の正体は、スペル星人で、彼とその同胞
達は、新しい爆弾の開発に失敗し、自分達の血
液を放射能で汚染され、延命のために地球人
の女性や子供の血液を狙っていました。
ソガの追求で、佐竹はスペル星人の正体を
現し、逃走します。
ダンはセブンに変身して、スペル星人を倒し
ます。
愛する佐竹が侵略者であったことに早苗は涙
を流します。
アンヌは、「夢だったのよ」と慰めますが、早苗
は、「いいえ、現実だったわ」と事実を確かめ、
「あたし、忘れない、決して。地球人も他の星の
人も同じように信じ合える日が来るまで。」と自身
の願いを語ります。
ダンは頷き、夕陽を見つめます。
そして、心の中のことばで、早苗とその弟伸一、
そしてアンヌに対して「そんな日は遠くない。だっ
てM78星雲の人間である僕がこうして、君たちと
いっしょに戦ってるじゃないか。」と語りかけるの
でした。
放映から三年後の一九七〇年小学館の
雑誌『小学二年生』のふろく「かいじゅうけっ
せん」においてスペル星人のカードの裏面に
ひばく星人
と別名が書かれていました。この雑誌を見た女
子中学生(当時)N氏が、
「この『ひばく』って原爆の被爆以外に考え
られないよね?」
と父親のT・N氏に質問しました。父親のT・N氏
は「原爆文献を読む会」の参加者で、スペル星
人の体にケロイドのようなものが描かれている
ことにショックを受け、小学館に抗議しました。
同年十月十日『朝日新聞』が「被爆者の怪獣
マンガ」という記事を掲載、全国の被爆者団体
が番組を制作した円谷プロに抗議しました。
小学館は謝罪しました。
円谷プロはこの月、
「今後一切スペル星人に関する資料の提供
を控える」
と「封印」を決定しました。
第十二話の再放送・ソフト化は無理になりま
した。
又、円谷プロは「原水爆を否定する気持ち」で
制作された番組であり、一部の新聞が報じたよ
うな、「被爆者を怪獣扱いした、モデルにした」と
いう考えは無いということも回答しました(1)。
二〇〇一年八月三日、『朝日新聞』でこの十
二話の「封印の理由」が記事として掲載されま
した。
実相寺昭雄監督は、
「声高でなく叙情的に核兵器の怖さを描いた
いい作品だと自負している。ヤミで取り引き
されたり、変なうわさが出たりするのは心外
だ。見てもらえればわかる」
とテーマとドラマにこめた反戦の願いを強調され
ました。
二〇〇五年光文社の『FLASH』「890号」において
脚本の佐々木守氏とT・N氏の対談が掲載されまし
た。
番組を見たN氏は、
「スペル星人が人型なことと、ケロイドの形状
が引っかかる。当時は抗議しなかったが、『
血を吸う』という言葉も気になる。被爆者の中
には血の問題を遺伝と受け取る人もいるから
だ。」
と述べました。
佐々木先生は、
「私も実相寺もそうだが、作品のテーマは原
爆実験がよくない、ということ。僕らの作っ
た意図だけでも、察してもらえばよいのだが」
と制作にこめた願いを語りました。
N氏も「オリジナルで残さないと意味が無い。
リアリティの問題は残るが封印は良くない。」
(3)
と述べて、作品の保存、封印の問題性を指摘されまし
た。
一九七〇年当時糾弾されたN氏も、封印解除が必須
の課題であることをを強調されました。
佐々木守・実相寺昭雄両師の在世に、第十二話の
ビデオ化・DVD化が実現しなかったことに悲しみを覚え
ます。
作品のテーマは原水爆の廃止です。イラク戦争でも
劣化ウラン弾が乱用され、数多のイラクの子供達が重
い病気に苦しんでいます。現代世界にとって、核廃絶は
重要課題です。
第12話の平和の希求の精神を確かめることは、核廃
絶の課題と関連していると自分は思います。
封印解除は必須の事柄である、と確信しています。
『朝日新聞』の姿勢も一九七〇年と二〇〇一年で
は大きく違っています。一九七〇年の記事は先入観
で書かれたものでしたが、二〇〇一年の記事は「ウル
トラシリーズ」を熟視しきっちりと学んだ記者によって
かれたものであることは充分に推測されます。
二〇〇一年の記事には、アンヌを熱演された、ひし美
ゆり子さんの言葉も紹介されています。
ひし美氏は、問題の経緯を説明したうえで、DVD化を
提案されました。
「収益を被爆者団体に寄付して役立てる方法もあ
ると思う」(4)
ひし美氏の言葉に全面的に賛成します。
文中一部敬称略
出典
(1) 『FLASH』890号(光文社)
(2) 『朝日新聞』 二〇〇一年八月三日付朝刊
(3) 『FLASH』890号(光文社)
(4) 『朝日新聞』 二〇〇一年八月三日付朝刊
2010年10月21日、記事に加筆しました。
2011年12月17日追記
難しい問題があり、傷ついた方々のお心を察しつつ
番組が平和希求のテーマであることを願っていること
は確かめたいと思います。
合掌