私の仕事は開発が予定されている地域に赴き、実際に開発される予定の範囲の中で調査を行い、「重要ないきもの」がいないかを把握することである。
そう、私はヒト社会といきもののシステムの間に立つ仕事をしている。

どんなにヒトが少ない「名もなき町」であっても、すべからくその土地で暮らしてきたヒトビトの数え切れない時間が膨大に染み込んだ場所であり、固有に名付けられたものごとがあり、日々の暮らしの温かさと悲しさと穏やかさと切実さが複雑に織りなしている。ヒトの声を聞くよりも、ヒト以外の声を聞くことが多い日々の中で不思議な出来事に出くわすことがある。3年前の夏の出来事を以下に語ってみたい。

日本海側の中核都市にある駅から車で30分程の距離にある町での調査での出来事。
調査の折、その地域の様子を聞こうと、わたしは水田脇にいた肌の黒い町 の人に声をかけて見ることにしました。

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わたし「お仕事中、すみません。○○という水田に生育する重要な植物を探しています。」
町人「○○ですか?ここではありふれたもののようにおもいますが、重要というのはどういうことでしょう。」
わたし「そうですね、全国的には少なくなってきております。それゆえ、重要ないきものと位置付けらています。」
町人「○○を見つけて具体的にどうするのですか。」
わたし「場合によって、移植することになるかもしれません。」


町人「水田には○○以外にも△△などもありますが、それらは大事とはいえないのでしょうか。」
わたし「そうですね。もちろん、大事でないわけではありません。ただ”保全する対象”とはなっておりません。」
町人「例えば、○○を保全する意義として考えられるのは、○○が生育できることで同様の生育環境に生育している他の生物も包含して保全できるということです。しかしながら、移植するという方法では○○しか守ったことにしかならないのではないでしょうか。」
わたし「おっしゃる通りです。現在では”いたしかない手段”として移植という方法で対応している側面があります。勿論、理想的には貴方がいうように○○という特定の種だけではなく、環境全体を保全して行くことを目指すべきと思います。」


黒いマネキン「私はーマネキンとしてーこの電柱にくくられて10年以上、この水田を見てきました。この水田は、見ての通り4年ほど前から放棄され、既に水田としての機能を失っております。数年前まではこの水田だったものにも夏、水がはられてトノサマガエルがあちこちで泳ぎ回り、様々な小さい虫達で賑わっていたものです。川の反対側の田んぼを見てもらえますか。彼岸で帰省してきた人々が自分の子供を連れて水田脇を歩いて回っています。あれがこの町の水田の風景なのです。あの風景の中に○○がいるからこそ、○○の生育している意義があるのだと私は思います。開発にも意義があると思います。しかしながら、開発と環境との妥協点を見つけることが難しいことをゆめゆめ忘れてはいけませんよ。」

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わたしは少しの時間、この黒いマネキンと話をしていたようです。
この電柱に括り付けられた黒いマネキンは、そこまで話すとすっかり動かなくなり、静かに水田脇にいるマネキンとしてイネを狙っている雀どもに睨みを効かせるのでした。

この黒いマネキンから、とても難しい宿題を貰ってしまいました。しかしながら、本質的な問題をついているように思いました。今後、ヒト社会といきもののシステムの関係はどのように変化していくのでしょうか。

※このはなしはフィッ・・フィッ・・・・フィックッションn。フィクションです(グスンっ)。



「調査にて」をちょっと改定150127


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