大地を霜がおおうと、秋から冬へ、
季節のバトンがわたされます。

熟した果実のような、
赤い衣装の秋将軍が去ると、
冬将軍が真っ白なマントを広げ、
冬がやってきました。

あたりは雪に閉ざされ、
動物たちは、森の奥深く
隠れてしまいました。
 
「冬将軍がきたぞ~!」
 
その名前を口にしただけで、
人びとはふるえあがりました。

 本ばかり読んでいる
変わり者の少女だけが、
ひそかに、冬が来るのを
楽しみにしていました。

少女は雪が大好きでした。
木の枝で凍ってキラキラしている朝露や、
澄んで透明感のある空の色
手が届きそうな星の降る夜など、
少女には冬は、宝石箱のような、
美しいものにあふれた季節に思えました。
 
「冬が楽しみだなんて、変わっているね」
「冬将軍に連れていかれるぞ」
 
みんなは少女をからかいますが、
少女はいつしか、
キラキラした美しい世界をつくる
冬将軍に、胸をときめかせていました。

やってきた冬将軍は、
てはじめに木枯らしを吹かせて、
きれいに色づいた葉っぱを
落としてしまいました。
 
「ああ、むごいことをする」
 
みんな眉をひそめましたが、
変わり者の少女だけが言いました。
 
「いいえ、これは必要なことなのよ!
春になったら、ちゃんと
新しい芽をつけるために・・・。」
 
冬将軍は、不思議そうな顔をして、
声のするほうを見ました。
そんなことをいう人間は初めてでした。

少女の黒い瞳は、キラキラと澄んでいて
冬将軍は「美しい目をしている」と思いました。
 
次の日、冬将軍は、冷たい息を
吹きかけ、大地を凍らせます。
湖も鏡のようにかたく凍りました。
 
「これでは魚もとれないよ」
 
人々は、つらくきびしい季節をいとい、
冬を嫌いました。

けれども少女は知っていました。
冷たい土の下で、
たくさんの命が眠っています。
花がより美しい色で咲き、
よりゆたかな実を結ぶように
冬が寒く厳しい季節となり、
新しい命をしっかりと抱きしめて
力を蓄えさせていることを・・・。

少女は冬将軍の通り道に
一輪の白い花を置きました。
突然つむじ風が吹いて、
花をさらってゆきます。
つつましい冬の花は、風が乱した
少女の黒髪と同じ香りがしたので、
冬将軍は花に、そっと唇をよせました。
 
冬将軍はためらいがちに
少女に手をのばし、
少女は手をとりました。
 
冬将軍は、愛する少女のために、
雪を降らせました。
初めて見せた、やわらかな、
いたわるような雪です。

まるで、無数のはなびらが、
ゆっくりと降るようでした。

少女は満足そうにほほえみ、
冬将軍は少女を抱きしめます。
すると、「あっ」と小さく声をあげて、
少女は動かなくなりました。
冬将軍の腕の中で、
少女の小さな心臓は、
こごえて止まってしまったのです。
 
冬将軍はなきがらを抱えて、
声を出さずに泣き続けました。
食べることも眠ることも忘れて、
このまま死んでしまうかと思うほどに・・・。
哀れに思った神様は、
冬将軍に声をおかけになりました。
                                      (続)