イノベーションという言葉の響きはとても心地が良い。現在のように変革が求められているときには尚更である。「国家戦略イノベーション○○」「イノベーション2011○○」「イノベーター育成○○」等々のプロジェクトは耳慣れたものである。よくよく深く捉えてみると、枠組みは立派なものは多いが、イノベーションの実践について強い力が感じられるものは極めて少ない。
イノベーションについては、オーストリアの学者であるSchumpeterが1926年に「経済活動の慣行軌道の変更が経済を発展させる。これが資本主義発展の源である」と述べたことに端を発する。ここでいう軌道の変更とは、例えば、駅馬車から鉄道への変遷のような質的な変化を指し、商店から百貨店への発展は、従来の軌道上であり、これはイノベーションとはいえないという定義である。
Schumpeterは、イノベーションを更に次の四つの側面から定義している。「従来からの生産方式の変更」「新市場の開拓」「新資源供給源の開拓」「新組織の開発」である。従来軌道の変更というと大きな断層を思い浮かべるが、四つの側面からは、従来のやり方を違った角度から見ると、全く新しい光が見えるということを示唆しているのである。例えば、「生産方式の変更」は、従来から私たちが徹底してやっている「仕事のやり方を創意工夫しながら変えていくこと」ということである。また「新市場の開拓」は、マーケティングでいう、市場を新しく創造しようということである。つまり、イノベーションは、マーケティングやオペレーションそのものにあるといってよいのである。
イノベーションを起こすには、違う角度から物事を視る必要がある。例えば、これまで接していた顧客のために「全く別の用事(ニーズ)」を発見する手助けをする営業スタイルに変換するといったことである。これまでの顧客を「既存」顧客として扱っているだけでは、イノベーションには至らないかもしれない。しかし、「既存」顧客といっても、顧客の全てを理解できている訳ではない。あくまで一側面から取引をして、仕事をしているのに過ぎないのだ。
Schumpeterが「新市場の開拓」をイノベーションといっているのは、「既存」顧客に対し、徹底してニーズを吸い上げて、それを手助けできる提案ができれば、そこに新しい市場が生まれる可能性があるということを示唆しているのである。
例えば、グローバル展開の中で、具体的に徹底して顧客のニーズを吸い上げれば、新興国で工場建設をする予定があることを探りあてることができるかもしれない。そして、その情報を切り口にして、新しい土地や国での工場建設に際して、お互いの知恵を絞り、実践することで、結果として新しい市場が開拓でき、それが従来のやり方を変え、イノベーションを創出することが可能となるかもしれない。