雨宮処凛(あまみやかりん)
公式サイト http://amamiyakarin.com/
1975年、北海道生まれ。
作家・活動家。
00年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)を出版し、デビュー。
以来、若者の「生きづらさ」についての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。
06年からは新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。
メディアなどでも積極的に発言。
07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。
著作一覧はこちら

「反貧困ネットワーク」副代表
「週刊金曜日」編集委員
フリーター全般労働組合組合員
「こわれ者の祭典」名誉会長
09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。

【連載】
・マガジン9 「雨宮処凛がゆく!」 (毎週水曜日更新)
・東京新聞 「新聞を読んで」
・毎日新聞大阪版 「雨宮処凛と憲法生活」 (毎月第4金曜日掲載)
・THE BIG ISSUE 「世界の当事者になる」
・イミダス 「生きづらい女子たちへ」
・新潟日報 「生きづらさを生きる」(毎月第2・第4金曜日掲載)
・北海道新聞 「鳥の目 虫の目」
・月刊創 「ドキュメント雨宮☆革命」
・週刊金曜日 「らんきりゅう」
・第三文明「雨宮処凛が見る世界」
・月刊社会民主「世界を掴むいくつかの方法」
2016-08-12 17:50:04

相模原障害者施設殺傷事件

テーマ:日記
相模原の事件を受けて共同通信で書かせて頂いた記事に大きな反響があり、「読みたいけど自分の地域の新聞に載ってないから読めない」という声が多く寄せられたため、以下に掲載させて頂くことにしました。

共同通信2016年7月30日配信

差別の芽ないか心配ろう 「命」二重基準まかり通る
 作家・活動家 雨宮処凛

 叔母がこの事件を目にしなくて、よかった。
 事件の第一報を聞いた時、思った。今年6月、肺がんで亡くなった叔母は、長らく障害者の権利向上を求める運動に携わってきた。それは自らの娘が知的障害を抱えていたからで、私のいとこにあたるHちゃんは十数年前、20代の若さで短い生涯を終えた。
 身体は健康だったのに、たまたま風邪の菌が脳に入ったとかそんなことで、急激に体調が悪化。救急車を呼ぶものの「知的障害の人は受け入れられない」と病院に拒否された。自分の状況を説明できないからだという。
 結局、翌日に受け入れ先の病院が見つかった時には既に手遅れの状態で、数日後に亡くなった。
 今回の事件では、19人の命が失われた。あまりにもむごく、今でも信じられない思いでいる。同時に、報道などで繰り返される「かけがえのない命」「命は何よりも大切」という言葉にうなずきながらも、ふとした違和感も覚える。この社会は、果たして本当に「命」を大切にしてきたのだろうかと。
 「ああいう人って人格があるのかね」「ああいう問題って安楽死なんかにつながるんじゃないかという気がする」
 この発言は1999年、東京都知事になったばかりの石原慎太郎氏が障害者施設を訪れた際に発した言葉だ。
 一方、今年6月、麻生太郎副総理は高齢者問題に触れ「いつまで生きるつもりだよ」などと発言。また、2008年には「たらたら飲んで食べて、何もしない人の医療費をなぜ私が払うんだ」という発言もしている。
 「かけがえのない命」と言われる一方で、その命は常にお金とてんびんにかけられる。費用対効果などという言葉で「命」は時に値踏みされ、いかに利益を創出したかが人の価値を計る唯一の物差しとなっているかのようなこの社会。
 ちなみに、これまで障害者の事故死などを巡る裁判で、彼らの逸失利益(将来得られたはずの収入など)は「ゼロ」と算定されるケースがままあった。重度障害者の場合、「働けない」とされてしまうからだ。逸失利益ゼロが不当として提訴した障害者の母親は「生きている価値がないのかと屈辱的だった。働くことだけが人間の命ではない」と述べている。
 この国には、このように、命に対するダブルスタンダードがまかり通っている。
 軽く扱われているのは障害者の命だけではない。「健常者」だって過労死するまで働かされ、心を病むまでこき使われ、いらなくなったら使い捨てられる。その果てに路上にまで追いやられた人を見る人々の視線は、優しいとは言い難い。
 事件から3日後、犠牲になった方々が生活していた津久井やまゆり園を訪れた。山を切り開いたような住宅街の中、緑に囲まれたのどかな場所だった。容疑者の住む家はそこからわずか車で5分ほど。深夜、容疑者はどんな思いで車を走らせ、施設に向かったのだろう。コンビニさえ辺りにない寂しい集落で、彼の悪意はどのように熟成されていったのだろう。
 「死刑になりたかった」のではない。「誰でもよかった」のでもない。彼は衆院議長への手紙で「日本国と世界平和のために」とまで書いている。
 痛ましい事件が起きた時だけ「命は大切」と言うのはもうやめよう。日頃から、社会が、そして政治が、私たち一人一人が命を大切にする実践をしなければならない。「稼いでいない者」をお荷物扱いするような言説を見つければ声を上げ、自分の中に、近しい誰かの言動の中に差別やヘイトクライムの芽がないか、心を配ろう。
 最後に。容疑者の手紙の言葉に対して全メディアにもう少し配慮した報道を望みたい。新型出生前診断が注目されたころ、あるダウン症の子どもは「自分は生まれてこないほうがよかったの?」と口にしたそうだ。
 そんなこと、誰にも言わせてはいけない。

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