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2008年01月02日(水)

豊風と僕~その⑧

テーマ:詩(短編小説)

* 7 *  は コチラ


* 8 *


「じゃあなんで裸の女がおるかってとこやな。理由は何てことないんやで。考えたら分かると思うんやけどなぁ~~」豊風はそこで一旦話を区切る。
僕はいい加減イライラしてきた。これも感情ではなく、記憶がイライラしてるのか? 『もう、はよ言うて! もどかしいねん、自分』
「なんやなんや、ちょと待てや。俺が言おーとしてるのを、そうやってお前がいちいち突っ込んでくるから、話それていってんちゃうか? 俺はずっと言おう言おうとしてるんやで。でもお前の常識染みた疑問質問コーナーが始まるんや。こっちがもどかしいっちゅーねん。いっぺん黙ってずっと聞いとけや」豊風はそう言ってその場に座り込むと、僕を指差し、そのまま座れと地面を指す。
うん? そういや確かに豊風の言うことも一理あるかもしれないな。それに、これ以上くだらない議論していても意味がない。『よし、分かった。黙っとく』僕は豊風に素直に従った。
すると豊風はええ子やええ子やとでも言うように二度と頷くと、話しはじめた。なんだか親に説教される子の気分だ。
「まずな、五年後に再生するってことは分かったな? あ、いちいち理解せんでもええで。事実に従えばええ。新たな質問もすんなよ。疑問は胸の内や」
『分かってるよ』
「よっしゃ。で、裸の謎はなんてことない単純な話や。今お前が着てる服に何か見覚えないか?」
おいおい、黙って聞いてろと言っておきながら質問だよ。『さぁ~分からんなぁ。別に一張羅でもないただの普段着やし』僕は答える。
「まぁそうかもな、五年前の服装なんか覚えてへんか!?」豊風は得意気に言う。
五年前の服装ね。そりゃそんなもん覚えてる奴いる訳…『あっ、そうか』なんとまぁ、ほんと単純な話だ。
豊風はまた僕を指差し、言った。「そや、分かったか!? 今着てるのは死んだ時の服装や」
『なるほど、ほんまに単純な話や』こんなことくらいならすぐ言えばいいのに。
「お前が着てる服は車に跳ねられた時の服や。だから裸の女は死んだ時に裸やった訳やな。なんで裸やったかなんて知らんし、知りたくもないけどな」
なるほどなるほど、豊風が白いTシャツにジーンズという、数十年前に流行ったような古いイデタチに、靴を履いていなのもそういう事だったのか。
「ちなみに再生する場所は死んだ場所や。おっと質問はなしやで―」豊風は広げた手の平を僕に向けながら続ける。「―お前は、『オレはここで死んだのに違う場所で再生したぞ』って言おうとしたやろ?」豊風はチッチッチと指を揺らし舌をうつ。また化石級のそれだ。
「ちゃうねやちゃうねや、確かにここはお前の事故った場所かもしれん。そんでたぶん救急車がきたんやろな。でも病院に運ばれてる途中の道で死んでもうたってわけや。だからお前の死んだ場所は現場と病院を結んだ道なはずや。そこで今の世界に『いらっしゃーい』ってなったんや」そう言って髪をかきあげる豊風。桂三枝のあれだ。今どき平然とよくやれたもんだ。
『なるほどね、そういうことか。死んだ場所があそこやったんや。ほなら病院とかやと再生する人がめっっちゃおるんや。生きてる人と同じベットの上で再生したりするんや。そう思うと不気味やな』
「そやな。でもまぁ、生きてるときはそんなん気付かんからな」

『気付きたくないな』僕はかぶりを振る。それはさておき…。

『で、俺はどうやったら向こうの世界に行けるん? ていうかココで何をしたらいいん?』

そう、これが本題だ。



続く…

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2007年12月29日(土)

豊風と僕~その⑦

テーマ:詩(短編小説)

* 6 * コチラ



* 7 *


『でも未練ってマイナスの感情やろ? なくなるんちゃうん?』
「やけどな、感情があまりに強いとアカンねや。正確に言うと今の世界はマイナス感情がなくなるんやなくて、忘れていくんやな。死んでからこの五年でどんどん感情を奪われてくんや。再生した瞬間はマイナスの感情を覚えてるだけや。こんな時は怒るとか、こういう時は悲しむとか。それに合わせてるだけや。だから感情が悲しいとかじゃなくて、記憶が悲しいって感じてるんやな」
ややこしいな『でもなんで奪われなあかんの? 負の感情も必要なもんじゃない? プラスはマイナスあってこそのもんやろ? なくす必要ないやろ』
「かもな。でもそれを俺らが言うたかてしゃーない。マイナスを奪うのは次の世界で争いが起こらん為でもあるし、前の世界に未練を残さん為でもあるんやな。昔は五年後とかじゃなくてすぐに再生してたみたいやねん。感情もそのままや。でも未練たらたらで次にいけんくて、間の世界の住人が多くなりすぎたんや。ジバク霊や。しかも次の世界でも争いが起こったんや。だから死んだ直後やなくて五年後の世界で蘇るようになったんや。その間に感情奪ったれってな」
『なにそれ? 途中で変更されるとかあるん? そんなんあり? 誰が決めたん?』
つっかかる僕を豊風はまぁまぁと制す。「あのな、だいたいお前の質問は常識染みてるねん。それは『宇宙は誰が作ったの?』とか『人間とか動植物が地球に存在するのはなぜ?』って言うてるようなもんや。仮にそれを作ったのが神様やとしたら、死んでからの世界を作っても何らおかしくないやろ? 理屈とかじゃないんやな」
僕はどうも納得がいかない。『だけど、生きてた時はそんな途中でのルール変更なんかなかったやん』
「やむを得なくなったんちゃうか? それとも嘘かやな」
『嘘?』
「そや。それを俺に教えてくれた奴も暇やったんかもしらん。だってな、次の世界に行ったら神様が二人いて、名前はマイケルと山田とか言うてたからな」
『なんやそのベタな名前は。それ絶対嘘やん』僕は思わず噴出しそうになるのを堪えて、呆れ気味に言う。
「やろうな。でもそんなんがあってもおかしくないねん。だいたい俺らがこうやって再生してること自体、死ぬ前の常識とは違ってんやから。そやろ? 神様が一人なんて誰が決めたんやってことや」
んーー、ごもっともです。僕は言い返せなくなる。
「俺が言いたいのはそこちゃうねん、五年も経ったら死んだ奴のことを想う奴は確実に減ってるわな。そら気持ちは残るで。でも薄れてる」
豊風は花瓶の花を差す。「でもこの花はキレイに咲いとるわ。それはそんだけお前を想ってる奴がおるってことちゃうか!? 親か? 彼女か?」
…どっちだろ。『でも、たぶん…』
「いやいや、それはどっちゃでもいいわ」豊風は僕の話を遮る。
『なんやそれ』
「俺が密かに思う五年後再生の理由があるんや」豊風は含み笑いをしながら続ける。全然密かじゃない。「五年も経ってたら実家の自分の部屋の引き出しの奥とか、ベッドの下に隠しとるエッチなビデオや本も処理されとるやろうからな」
『なんやねんそれ』 思わずつっこんでしまう。もうなんだか豊風のペースだ。
「アホか! お前、すぐ再生してみーや。生きてた世界で気になることとかやり残したこと探したら、いつかそこに行き着くやろ? ほんで実家行ったら、おかんが自分の部屋を物色しとるわけや。『あかん、そこ開けたらやばい。おかんやめてくれ~』ってなるやろ」豊風はその場を再現するかのようなオーバーリアクションで示した。
全くおかしな奴だ。まぁ、『確かに。エロ本はさておき、見られたないものは誰にだってあるか』僕は妙に納得してしまう。ん? いや、まてよ。『でも、それって結局見られてるってことやん』
「そやな。でも、その現場に遭遇してないことがミソや。その、あのビデオを見た時のおかんのリアクションとか見たら、もーー絶対未練残りまくりや。言い訳しにいかなあかんやん」
あかんやんって、一体どれほどマル秘なビデオなんだ…。

「まぁ、そういう時の為に、俺みたいな案内人がおるんやな」豊風はしみじみと言う。

『それさっきもいうてたな、もっとまとめてちゃんと説明してや』

豊風は、ハイハイと面倒くさそうに頷く。「そやな、じゃあ裸の女のわけからいこか」

『うん、そうして』

…ふぅ、やっと本題だ。



いや、これが本題なわけないか。あれ、本題は何だっけ? まぁとりあえず裸からでいいや。



続く…



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2007年12月27日(木)

豊風と僕~その⑥

テーマ:詩(短編小説)

豊風と僕 ①~⑤は コチラ



* 6 *


『あれっ』辺りを見回した僕はある違和感をもつ。
「なんやねんな、まだ何かあるんかいな」豊風は面倒くさいフリをする。
『いや、あそこにあった店がないねん』僕は彼女の欲しがっていた鞄が売っていた雑貨屋を差す。
続け様、その対角線上にある道を差して言う。『それにここにも信号なかったし。ここが事故現場のはずやのに。信号なんてなかったのに』
豊風はなぜかニタニタしてる。僕は構わず辺りを探索する。
すると信号機のできた横断歩道の路肩に、花の束があるのを見つけた。近づくと、丁寧に花瓶に添えられた数種類の花が、色とりどりに咲き誇っていた。
これって…? つまりそうゆうことか? 自分自身に添えられたであろう花を見るのはなんだか奇怪だ。
「おいおい、お前…。よっぽど誰かに愛されてたんやな。枯れてへんちゅうことは、最近置かれた花やろ」覗き込むように豊風は言う。
ん? ―よっぽど愛されていた―とはどういうことだ?
僕は振り返り尋ねる。『こういうのを自分で言うのも変やけど、花を添えるくらいそんなにおかしないやろ?』
豊風は人差し指を左右に揺らしながら、チッチッチと舌をうつ。豊風は風貌も行動も化石級だ。
「何言うてんねん。人間なんて案外冷たい生き物やで。どんだけ悲しいことがあってもだんだん忘れていく。そら、そうじゃないと生きていけんけどな。だからいずれ、枯れた花をいつまでも添えとけるようにもなるんや。そういえば最近お墓参りいってへんわ~って日常会話の中でシラッと言えるんや。でもこの花はまだ新しいやろ。いまだ強くお前を思うとる証拠やんけ」
言いたいことは分かるが…、『いまだにって何? 俺はたった今死んだとこやん』
豊風は眉間に皺を寄せる。「おいおい、分かってなかったんかい。はじめに言うたがな。五年後やーて。お前が死んだのはさっきやないで。もう五年も前や」
五年? あぁ、そういや言っていた。『なんや、五年後ってそのことやったんか。そっか、だから雑貨屋も信号も。ふーん。でもなんで五年なん?』僕は相変わらずの軽い口調で言う。
「まぁ、死にました、はい蘇りました。って、そんな簡単に再生できひんちゃうかな? よ~知らんけど」
『ここまできて知らんてなんや。自分案内人とちゃうん?』
「そんなようなもんやけど、そんな詳細まで知らんわ。あっち行ったら誰かに聞けや。でもやで、仮にすぐ再生するとして、お前はどうしたい? 死んだ直後の世界なんか見たいか? 葬式とか見にいって、自分の為に泣いてる奴を見たいんか? もしかしたら笑っとる奴もおるかもしれんで。保険金がどうとかで揉めてるかもしれん」

豊風は空を指す。「未練が残るとあっち行かれへんからな」

…未練か。僕にはないかな。

「まぁ、その為にも俺みたいな案内人がおる訳でもあるんやけどな」

僕は思う。豊風は回りくどい。

続く…

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2007年11月29日(木)

豊風と僕~その⑤

テーマ:詩(短編小説)

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 * コチラ


* 5 *



「まずな、なんで裸か? ってことや」
『あれ? 裸は後回しちゃうん?』
「まぁ、それも含めて話すんやないか。あの女が裸なんと、俺が靴を履いてないのはおんなじ理由や。分かるか?」
『だからそれが分からんから聞いてるんやん』
「わーーかってるがな。まぁそう焦るなよ。そやな、とりあえずお前。空飛んでみーや」そう言って、豊風はフワッと足を浮かせる。
『出来るかいな、そんなこと』僕はかぶりを振る。
「それが出来るんや。お前はまだ―俺は死んでない―ってどっかで思ってんちゃうか? ええか、死んだらもう現実じゃなくなるんや。現実のものは触られへん。現実世界の奴には声は届かへん。鏡には自分の姿が写らへん」
『影もない』
「そういうことや。なんや分かってるやないか。だから、生きてた頃と同じ考えじゃあかん。切り換えなあきまへん。でもな、もうお前はそうなってるはずや。この今オレらのおる―間の世界―では感情ってやつが薄れるんや。さっきの女も羞恥心が薄れてるんや。だから堂々としてたやろ。他にも怒りや焦りや悲しみ、そういう余分なもんはなくなるんや。そうせなこの世界でも争いが起こってまうからな」
『そういえば、さっきからやけに冷静になる時があるわ』
「やろ。だからお前が感じるマイナスの感情は、思い出して作り出してるだけやねん。ほんまは焦ってないねん。焦らなあかん、驚かなあかんってって勝手に思ってるだけや」
『あ、でも昨日、自分怒ってなかった? 俺が話聞いてなかったからって』
「あれはノリや」豊風はフフンと鼻を鳴らす。「なんちゅうかな、この世界は暇やねん。俺は現実世界で悪さしたから、お前みたいな奴らをぎょうさん連れていかなあかんねん。だからもう15年以上はここにおるんちゃうかな。もうな、なんしか暇なんや。だから怒ってみたりして遊んでるんや。むっちゃおもろいやろ?」
僕は首をかしげる。『よ~分からんけど…』暇って感情が残っていることは分かった。



そうこう言っている内に、事故現場が見えてきた。空を飛べない僕は、小走りで近づく。そこでふと疑問が浮かぶ。
『あれ?』
「どしてん? ここやのうたか?(ここじゃなかったか)」
『いや、そうじゃなくて。現実世界のものには触れられへんって言わんかった?』
「言うたけど、それがなんや?」
僕は地面を差す。『じゃあ今、駆けてきたこの地面は、現実世界のものじゃないってこと?』
豊風は待ってましたよという顔をする。「だからそれが―まだ俺は死んでないかも―ってどっかで思っとる、いい例やな。それもお前の想像や。いや想造か。とどのつまり、お前はまだ現実世界の感覚でおる訳や。地面を歩いてるつもりや。でもそれはしゃーないかもな。生きとる時に一番経験してる感覚なんやから。それはなかなか抜けへん。自然に出来てしまう。俺かてそうやもん。でもそう思ってるから空を飛ばれへんねんっていうのはあるわな。今の世界は不自然で成り立ってるって理解せんとな。つまり、こういうこっちゃ―」

豊風はそう言うと、地面にずぶずぶと頭を埋めていった。「こんなんも出来るんやで。どや!? めっさおもろいやろ!?」
なるほどね、今度のはなかなか面白い。

僕は映画の《ゴースト》を思い出す。主役のサムも普通に地面を歩いていたか。そういやあの中で…、『じゃあ逆にもっと強い感覚をもてば、人や物に触れたりできんかな? 生きている人間に声を届けたり出来んかな?』サムはコインなどの物体に触れる能力を身に着けていたし、霊媒師役のウーピー・ゴールドバーグと話もしていた。まぁ映画の中の話だけど。
豊風は意表をつかれたのか、返答に困っていた。「いやっそれはお前、あれやろ―」首を左右にかしげる。これも困っている演技だろうか? 僕には分からないけど。
「うーん」と、しばらくうねっていた豊風が、ようやくひねりだした答えはこうだ。「―お前って…案外ロマンチックやな、ははっ」
笑って誤魔化しやがった。こいつ…、もしやただのアホ? 僕は密かにそう思う。

あれ? でもこれってマイナスの感情ではないのかな? それともこの地域ではアホは褒め言葉ってことか?

うーむ。分からん。一体、僕にはどれくらいの感情が残ってるんだろう。。



『あれ?』辺りを見回した僕はある違和感をもつ。


続く…

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2007年11月25日(日)

豊風と僕~その④

テーマ:詩(短編小説)

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 *



夜が明け再び街に光が差す。夕焼け・街灯・朝焼けが同じように僕を照らすけど、やっぱり影は落ちなかった。
一晩、その場を全く動かないでいた僕だが、ようやく思い立ち、とりあえず事故現場に行ってみることにした。

眠いという感覚はなかった。怖いという感情もなかった。ただなんとなく歩きたいと思い、どうせなら自分が死んだ場所にでも行こうと思ったんだ。


とぼとぼ歩き続けると、丁度事故の現場へ続く道にある公園にさしかかった。そんなに広くはないが中央が丘のようになっていて、子供の頃はそこから見える景色を少し誇らしげに眺めていたのを思い出す。

僕はそこへ向かう木で作られた階段にさしかかる。見上げると、丘の先には昨日と変わらず青く澄みわたる空が見えた。足が止まる。そこに果てしなく広がる空はただただ広く、死んでしまったことさえなんだかちっぽけに思えた。あぁ、こんな風にぼんやりと空を見上げたのはいつ以来だろうか。たまにはいいもんだなと思う。今更かもしれないけど。
そろそろ行こうかなと、足を踏み出そうとした時、ふいに何かが横切るのが見えた。ん、なんだあれは? 僕は目を凝らす。鳥? 飛行機? いや、人間だ。女の人だ。しかも、服を着ていない。なんとまぁ、裸の女性が空を飛んでいるではないか。あの色合い…、うん。確かに裸だ。いや、肌色の服を着ているだけかな? ていうかそれ以前に空飛んでるし。どうなってんの?
女性はこちらには気付かず、フワリフワリ空の海を漂い、そのまま太陽の光と重なり、消えていった。僕はそれを唖然と見ていた。顔は確認できないが、スラッとした若い女性だ。しかも裸…。ラッキーっていやいやいやいや、なんだそりゃ。どんだけ冷静な感想言ってんだ。空を飛んでいるんだぞ。もうなんか色々無茶苦茶だな。はは、もう笑うしかない。フフフ。僕は何だかとてつもなくおかしくって、どうせ誰にも聞こえないのをいいことに大声をあげて笑う。フハハハハヒフハハハアハハ―。
とその時、「どや、すごいやろ」突然後ろから男の声がする。僕は慌てて振り返る。豊風だ。
あ、そうだった。こいつには聞こえるんだ。
「アンラッキーってやつやな。あの女、はよー向こう側いきたいやろうな。あっ、でも羞恥心ないからそんなん思わんか」豊風は嘲笑うかのように裸の女性の行く先を眺めると、スッと僕に目を向け、「どや、理解したか?」と言った。
理解って何をだ? 『裸を?』
「アホか! このド変態! 死や。お前が死んだっちゅーことや」

『あぁ、なんやそれか。死んだんやな、俺は。なんとなく分かるよ』僕はあっさり答える。
「そういうこっちゃ。案外早かったな、上出来や」豊風はポンと僕の肩を叩く。
『で、なんで裸? しかも空飛んでたし。そういや昨日、自分も飛んでいってたし。説明してちょうだいや』
「また裸のことかいな。まぁ順番に説明したるから。ところで、お前はどこ行こうとしてたんや?」
『事故現場や。俺はトラックに跳ねられたん。そこに行ってみようかと』
「なるほどな。なるほどなるほど、分かりやすい!!」豊風はビッと僕を指差し続ける。「よっしゃ、じゃあそこ向かいながら話たるわ」
『そうしてや。じゃあとりあえずさっきの裸の―』
「またそれかい! それは後や後。はい行った行った」
豊風は僕を促した。


それにしても、何で僕はこんな冷静なんだろうか? 死んだというのに。目の前には数十年前に流行ったようなイデタチの、靴も履いてない白いソックス姿の変な奴がいるというのに。

しかも、僕はすでにこの世界を生きようとしてる。生きるという表現もおかしいんだろうけど。。。




続く…

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2007年11月21日(水)

豊風と僕~その③

テーマ:詩(短編小説)

* 1 * コチラ




* 2 * コチラ   



              


青い空は、徐々に赤紫色に染まっていった。夕暮れはアスファルトに細長い影をおとす。たったひとつ、僕を除いて。
そう、僕は死んだ。それを理解したのは案外早かったのかもしれない。なんて勝ち誇っても仕方のないことだけど、僕が今の豊風みたく、繋ぎの役目をした時は、死を理解出来ない奴らばっかでうんざりさせられた。と、その話は今はおいといて。


豊風が去った後、しばらく呆然と立ち尽くしていた僕は、目の前を通る女性を見つけ、呼びとめた。何か言おうと考えてた訳ではない。ただ咄嗟に身体が反応した。僕はよっぽど焦っていたんだろう。自分の行動に気付かされた。
『あの、すいません』
「・・・・」女性は僕を無視する。そこに違和感があった。例えナンパだろうと、どれだけ怪しい人だろうと、一度くらいこちらを見るだろう。でもその女性は一度もこちらを見ないどころか、眉をピクリとも動かさず、何度呼びかけてもただ前を見て、何事もなかったかのように歩き去ったんだ。
何かの罰ゲームか? なんて考えるが、それも違うことに気付いていた。なんせ、最後の記憶は車に跳ねられた部分だったからだ。その後がない。それが拭いされない。
現実感はないものも、夢とも思えないこの世界では、罰ゲームよりも僕が死んだという考えの方がむしろ現実味があった。


そう、あれは信号のない所だった。確か道路を挟んで向こう側。とある雑貨屋のショーウィンドウに、彼女の探していた鞄を発見したんだ。たかがそんなことで舞い上がり、僕は確認もせず道路にとびだした。あまり車の通らない道だったとはいえ、なんて間抜けな話だろう。ボールを追いかけるガキんちょじゃあるまいし。
車のブレーキの音がして咄嗟に右を向くと、ほんの数メートル先、猛然と向かってくるトラックが見えた。『あっ、やばいかも!』と思ったその瞬間から、すべてがスローモーションになる。僕はトラックを避けようとするけど、水の中に沈んでいるかのように身体が重たく、思うように動かない。運転席を見上げるとドライバーの驚きひきつる顔がはっきりと見えた。『こりゃアカン』と思った矢先、
キキキキ…ドーン―

とブレーキのけたたましい音に負けないくらいの衝突音が響く。途端、時間は元の早さを取り戻す。スローモーションで溜めた分だけ、衝撃も倍増されたような気がした。僕の身体はフワリと空中に放り出され、そのままガードレールに頭からぶつかった。バッティングセンターで聞こえる、カーンとかキーンといった具合の心地よい快音が頭に響いた(他の人にはどう聞こえたか分からないが)。
そして風呂につかるような温かさが訪れたかと思うと、すかさず震えるような寒さがやってきた。高熱で寝込んでいく様を驚異的な早さで体験しているようだった。
薄れる意識の中、家族や彼女のことが頭を横切り、最後には『俺が武田鉄矢やったらトラックは寸でのとこで止まったんかな?』なんてくだらないことを考えていた。あぁ、ほんとくだらない。だけど、それが生きている内の最期の記憶なんだ。


そして、気が付けば豊風が前にいた。


そういやその時に、何かブツブツ言っていたな。
確か…そう。『五年後や』…とか。
ん? 五年後? なんのこっちゃ。



続く…


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2007年11月02日(金)

豊風と僕~その②

テーマ:詩(短編小説)

* 1 * コチラ



* 2 *


「とりあえずそやな、分かり易いように結論からいこか。まずな、お前はもうこっち側の世界にきてもうてん」豊風はこっちこっちと大袈裟に両手を振った。

「分かるな?」
僕が『全っ然分からん』と言うと、豊風は「どうせそう言う思たわ」と勝ち誇った顔をする。なんだか腹立たしい。
「よっしゃ、ほなもっと分かり易く言うたる」
僕ははじめからそうしろよと思う。
「要はな、死んだんや。お前は」
『死んだ?』
「そや。よー思い出してみぃや」
『はぁ!? 何を言うてんねんな。じゃあここにおる俺はどっから…』そこで僕はハッとする。
「おっ、思い出したか」
『あっ、いや…』そう言えば、僕はさっき車に跳ねられて。そして…どうなったんだ?
「そんで死んでもうたんや」豊風は僕の心を見透かしたように言う。
「でもな、死んだ言うてもただこっち側に来ただけや、みんな―」僕は豊風の言葉を遮る。『死んだって、あの事故で?』
「まだ言うてんかいな、話進まんがな。そやそや、その事故でや。病院運ばれたけど、そのままお陀仏や。まぁどうせそんな感じやろ」
『そんな感じって…。ていうか、そもそもはじめから気になってたけど、自分なにもんや?』
「俺の自己紹介は今度でええやろ。まぁな、言うてしまえば、あっち側と向こう側をこっち側で繋ぐ役目や。俺は素行の悪い奴やったからようさん繋がな向こういかれへん」
あっち? こっち? 繋ぐ? 何言ってんだ? 混乱する僕を構わず豊風は続ける。「お前が死んだ理由は知らへん。でもな、向こう側行く前に一回だけあっちに戻れるんや。なんかやり残したことあるか?」

これは夢か? 僕はさっき跳ねられて、気を失って、いま夢を見ている。

『なんや、夢か』
「はいベター。お前ベッタベター」豊風は鋭く僕を指差す。
「まぁはじめはそう思うわ。俺も思たもん。でもな、永遠にその夢…覚めへんで。まぁ、しばらくほっといたるわ。いつか分かるわ。でも別に悲しまんでええからな、向こう側行ったらまた始まるから」
『始まるって何が?』
「いわゆる第二の人生ってやつや」豊風はイェーイと親指をたて、僕の肩を叩くと、その勢いで空高くにフワリと舞い上がった。
『えっ、ちょっ―』
豊風は驚き眼の僕を尻目に「ほなまた来るわ」と言い残し、そのまま空の彼方へ消えていった。
『えぇ…、どうなってるんよ?』
僕は何も理解出来ず、ただただ呆然としたまま、果てしなく広がる空をずっと見ていることくらいしか出来なかった。
死んだ? 俺が? なんで? まさか。




続く…

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2007年10月31日(水)

豊風と僕~その①

テーマ:詩(短編小説)

少年と私 ①~⑥は コチラ



『豊風と僕』


* 1 *


「…五年後や」
僕は男がそう言うのをおぼろげに聞いていた。
長い眠りから、ようやく覚めた気分だった。頭がぼーーっとしている。そんな感覚さえ懐かしいほどの長く深い眠りだったように感じる
ん? なんやったっけ? 俺は何してたんやっけ? いくら考えども何も思い出せない。ほんの一秒前に自分がなにを考えていたのかさえ、思い出せない。
えっと…とりあえず何を考えたらいいんや? 思考が定まらない。
「おいおい、聞いてんか?」
男はさきほどより幾分口調を強めて、おそらく僕に対し、言った。
僕はぼんやりしたまま男を見る。んっと…そもそもこいつは誰や? あかん。なーんも分からん。寝よ。
男は僕の様子を伺うと、わざとらしいくらいの大きなため息をつき、僕の目の前で手を広げ、そのまま左右にブンブン振りながら言った。「おーい。もう、めぇ覚めてんやろー! あっさでっすよー」
寝起きの悪い僕にとって、目覚め一発目に最も的さない男だった。だが、お陰で先ほどまでグルグルしていた考えが一つのとこに落ち着いた。とりあえず、こいつは誰なのか。
その考えはそのまま口から飛びだした。『自分、誰やねん?(注:大阪では相手のことを、自分と呼ぶ場合がある)』
男はがっくりといった表情で、「またかいな」と肩をすくめた。
『また?』ますます意味が分からない。
男は、レンズの大きい黒のサングラスをかけ、白いTシャツにジーンズという、数十年前に流行ったような恰好をしていた。なんというか、つまり尾崎豊風だ。吉田栄作風だ。山根康弘風だ。新加勢大周…ってもういいか。足元はというと、なぜか靴は履いておらず、白いソックス姿だ。外なのに。。
ん? 外? へっ? なんで俺は外で寝てんや?
豊風の男は小さく二度頷くと、「よっしゃ分かった。はじめから話したるから、よー聞いとけよ」と僕を指した。


これが僕の第二の人生の始まり…の、少し前の出来事だった。



続く…

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2007年10月27日(土)

少年と私~その⑥

テーマ:詩(短編小説)

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 * は コチラ


* 5 * は コチラ



* 6 *


少年はフッと短い息を吐く。精神を集中させ、息を吸い込む。緊張感がこちらにまで伝わる。
私は、音楽が始まる瞬間の、この空気が大好きだ。見ている人、聴いている人、そして演奏者のいる空間だけが外界から切り取られる。その小さな世界はとても居心地がいい。うーん、たとえ下手くそでも…。
私が心のどこかで期待していたからかもしれないが、とても人に聴かせるレベルではなかった。音がはずれる、詰まる、かすれて情けない音がもれる。その瞬間バカップルが手をたたいて笑う。私は自分自身も笑われてるようで少し恥ずかしくなる。散歩している夫婦は呆れたように首を横に振る。カメラマンは少年のシルエットを撮影すべく、夕日と少年の直前上を陣取る。
プッフゥと音がもれる、ギャハハとカップルが笑う、カシャカシャとシャッターがきれる。
そんな中でも、少年はたじろきもせず、恥じらいもなく、むしろ「俺を見てみろよ」という表情で演奏していた。真っ直ぐな瞳が夕焼けに照らされてキラキラと輝いていた。私は恥ずかしくなった。こんな素敵な少年と仲間だと思われることを恥じたことを、恥じた。
荒削りだが光るものがある、だなんて言えないが、少年がいつか夢見る舞台で演奏しているシーンが容易に想像できた。
聴いたことのない一つの曲が終わると、少年は空を見上げ、ふいに何かつぶやいた。読唇術など私にはないが、何か同意を求めてるようだった。―いいやろ? いいよな?
そしてお辞儀をするように深く頷いたかと思うと、こちらをチラッと見てもう一曲』と指を一本たてる。
なんだなんだ、それを言うのを迷っていたのか。そう思うとなんだか可笑しい。私は口の動きで「い・い・よ」と伝える。
少年も同じように『ど・う・も』と言い、一度だけ笑顔を見せると、スッと表情を戻した。ふぅー長い息を吐き、すーっと静かに吸い込む。
次の曲が始まる。


そう。その時、少年を見つめていた私の笑顔はふいに硬直したんだ。
あの日のことがフラッシュバックする。



続く…


* ちなみに写真の少年はトランペットです。「サックスちゃうやん」ってつっこまないで下さいw。


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2007年10月11日(木)

少年と私~その⑤

テーマ:詩(短編小説)

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 * は コチラ



* 5 *


「ここって―」私は人差し指を立て、そのまま下に指す。「―ココ?」
もしかして少年はカレの演奏を聴いたの? なら、影響を与えたのはカレってこと?
『そうっす。ココで。衝撃っていうのか、かっこええなーって思って』
私はえもいえない気持ちになって鳥肌がたった。カレ意外にココで演奏した人は見たことがない。きっとカレだ。そんな悲劇的で衝撃的で感動的な巡り合わせなんてあるの?
私のざわつきなんて知るよしもない少年は、思い出にひたるような顔を見せている。そんなドラマチックな話って…、そんな事が現実にあるの? 

少年はスッと私に顔を向け続けた。

『えっと、確か2、3年くらい前なんですけどね』
なかった…。全然違った。カレの死後のことだ。思わず少年に、鳥肌を返してよと言いたくなる。
『ここで演奏してるの見て。めっちゃかっこよくて。僕もやりたくなって、でもそんなん買う金もなくて。だから学校に内緒で必死でお金貯めて』少年はヨシヨシとケースを撫でながら言った。『最近やっと買えたんですよ』
そりゃそうだ。カレが演奏していたのは、5年以上も前の話だ。いつまでも捕らわれすぎだ。カレ以外にもここで演奏する人がいても不思議ではない。この少年がそうであるように…。ふぅ、そりゃそうだ。

私は少年に気付かれないように小さく息を吐いた。
そこで少年は何かを思いついたのか、『あ、そうや』と小さく言うと、子犬のような瞳で私を見た。私はそこに吸い込まれそうになる。「ん、ん? なになに?」
『よかったら、一曲聞いてもらえないですか? まだ下手くそやし誰かに聞かせるレベルじゃないですけど』

あ、なんだそういうことか。情けない、ちょっと動揺してしまったじゃないか(さっきとは違う意味で)。私って案外単純なのかもしれない。
「聞かせるレベルじゃない~? でも周りにいっぱい人いるやん。ほら。ホラホラ」私は両手を広げ、辺りのカップルやカメラマンを指す。
『いや、そうなんですけどね。誰かに対して演奏するとなると、また違うんですよ』
「ふふ、そうやんね」そう、かつてカレも言っていた。私はニコッと口元を緩める。「いいよ、聞かせて」
『ありがとうございます! ちょっと待って下さいね。すぐ用意するんで』
なんだか可愛いな。夢のある若い子って純粋だな。
『あー、なんかめっちゃ緊張してきました』
「あかんあかん。いつかもっと沢山の人前でやるんやろー?」
『そうっすね。そうっす、そうっす』少年は自分自身を納得させるようにブンブンと首を縦に振った。





続く…

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