『大漁』
朝やけ小やけだ
大漁だ
大ばいわしの
大漁だ。
はまは祭りの
ようだけど
海のなかでは
何万の
いわしのとむらい
するだろう。
…今日の夕飯は奇遇にもいわしの南蛮漬けだった。
JR高島屋で開催されている「金子みすゞ展」へ行ってきた。
金子みすゞは大正時代の童謡詩人。
離縁した旦那から子供を守るため、みすゞは26歳で自殺した。
みすゞの元亭主は、遊郭通いが原因でみすゞに性病をうつすような男だ。
大正時代、女性に親権はなかった。
離縁した男から子供をよこせと言われたら、法的にも逆らうことはできない。
だから、自分の命をかけて抵抗した。
「どうか娘を連れて行かないで。
あなたのような鉄面皮な男の下で育ったら、この子はいったいどうなってしまうんでしょう?」
男が子供を迎えに来る朝、みすゞはすでに冷たくなっていた。
元亭主は、かつて妻だった女の、文字通り必死の抵抗を無視できるほど非情ではなかった
のか、その後みすゞの娘は、みすゞの実家で祖父母に育てられたという。
展示されている詩を読んでいて、何度も涙が出てくるのをこらえていた。
はじめて読む詩ではないのに。
みすゞの人生に同情してではない。
こんなにも平易な言葉で、こんなにも鮮やかに情景を浮かび上がらせる、その才能に。
自然を見つめるやさしい目線に。
物事の真理を確実につかむ哲学者のような一面に。
展示の中に、何人かのイラストレーターとみすゞの詩のコラボレーションがあった。
そのうちのひとりの紹介文にこんなことが書いてあった。
「みすゞの文章は完璧で、イラストレータの私から見たら、すでに1枚の絵のようだ」と。
ほとんどの絵はみすゞの詩の説明に過ぎないと感じたが、ひとりだけ、みすゞと真っ向勝
負しているイラストレーターがいて、好感を持った。