「あー、餃子美味しかった」
前田さんは満足そうに微笑んでいる。
そんな彼女の目の前には最後に食べる予定らしい一つの餃子がちょこんと置いてある。
残ってる餃子はもうそれだけ。早く食べないと冷めちゃうんじゃないかな、なんてぼんやりと考えていると、前田さんが携帯を手に取った。
「あ、もしもし?はい、餃子をもう三皿お願いします」
「……」
呆れて物を言えないとはまさにこんな感じなんだろう。
まだ食べるつもりか。てかさっき頼んだ餃子も半分くらい自分で食べてたじゃん。
また高橋係長にお金つけようとしてるし。
「はぁ……」
「なにゆきりん。今のため息は」
「いや、前田さんには食欲しかないんだなと思って」
「ありがとう」
「褒めてません!」
がばっと立ち上がり、小馬鹿にしたような笑みを浮かべている前田さんを睨む。
しばらくの間そうしていると、不意に誰かがぷっと噴き出した。
「ふふっ」
仁藤さんが口を押えて笑っていた。
今まで彼女からはその鋭い目で睨まれることが多かったので、何だかひどく驚いてしまう。
「萌乃。急に笑ったら失礼だよ」
「ごめんりっちゃん。でも面白くて」
北原さんにやんわりとたしなめられながらも、仁藤さんはまだ笑ったままだった。
どうやら私達のやり取りを見て笑っているらしい。
そんなに面白いものじゃないと思うけど。
「お二人とも、姉妹みたいに仲が良いんだなと思って」
聞こえてきた言葉に耳を疑う。
姉妹?仲が良い?この人と?
私が目を見開いて前田さんの方へ視線を戻すと、珍しく前田さんも驚いたような顔をしていた。
「食べることしか頭に無い、こんな体の半分が餃子で出来てそうな人と……」
「まりもっこりに似てるし、こんな腹の底どす黒そうな人と……」
「「勘弁してよ」」
見事にハモってしまって、何だか余計に気まずい。
てかまりもっこりに似てるって何だ。今までこの人そんなこと思ってたのか。人が気にしてるとこ突いてきやがって。
バチバチと火花を散らせる私達を見て、ついに高橋係長が動いた。
「ほら、ゆきりんもあっちゃんも落ち着いて」
「……」
「北原さん達も姉妹みたいに仲良さそうな感じだけど、どうなの?」
私達を宥めた高橋係長は北原さん達の方へ顔を向け、首を傾げる。
すると二人は目を見合わせ、小さく笑った。
「私達三人とも、小さい頃からの付き合いなんです。だから確かに姉妹に近いかもしれませんね」
「そうなんだ……」
「はい。しかも三人とも親を亡くしてるから余計に」
「……ごめん。変なこと聞いちゃったかな」
「いえ。大丈夫ですよ」
申し訳なさそうに眉を下げる高橋係長に対し、北原さんと仁藤さんは穏やかに笑って首を横に振っていた。
そして自然とみんなの視線は牢屋の中にいる指原さんへと向かう。
牢屋に入って以来、彼女はずっと眠ってしまっていた。
「よく寝てますね」
「まぁ一睡もしてなかったらしいからね。あっちゃんが頼んだ餃子が来たら差し入れてあげようか」
そう言って高橋係長はにっこりと笑った。
その時ふと目に入る、前田さんがいまだに手をつけないまま残している餃子。
きっともう冷めてしまっているだろう。
「それ、食べないんですか?」
「んー?なんでー?」
「冷めちゃうじゃないですか。食べないなら、もらいますけど」
「ブラックまりもっこりには絶対あげない」
「あ、あなたって人は――」
ピンポーン
突如聞こえてきた呼び鈴の音に、思わず口を噤んだ。
餃子の出前、ではないと思う。いくらなんでも早すぎる。
第六感とでも言うべきものが鋭敏に働き、全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
「ゆきりん」
「……分かってます」
前田さんの言葉に小さく頷きながらも、私は懐に入っている拳銃を抜き出した。
そしてそれを右手に携えながら、慎重な足取りでドアへと近づいていく。
一体誰だ。峯岸さん、だといいんだけど。……嫌な予感がする。
さっきまでとは打って変わって張り詰めてしまった空気の中、ドアの覗き穴を覗き込んだ。
「……ぁ」
覗き穴の先に広がっていた光景を見て、無意識の内に声が漏れる。
一人の女性がいた。
あったことは無い。見たことはある。写真の中で。
大島優子さんが、八重歯を見せながら立っていた。
「ゆきりん!どうしたの!?」
「お、大島さんが……」
前田さんに呼び掛けられても、私は覗き穴から目を離すことができなかった。
目が合ってるとは思えない。
構造上、向こうからこっちはよく見えないはずだから。
それなのに。
彼女は私の目をしっかりと見据えている気がする。
直線距離にすると、私達の距離は一メートルも離れていない。ただ、間にドアがあるだけ。
無意識の内に、左手がドアの鍵へと向かっていた。なぜかは分からない。彼女を捕まえるためか、それとも。
「鍵は絶対に開けないで!ゆきりん!!」
背後から飛んできた怒鳴り声に、手がぴたっと止まった。
そうだ。この扉は絶対に開けてはいけない。
僅かに首を動かして視線を後ろに向けると、焦ったような顔をしている前田さんが少しだけ見えた。
私は再び、視線を覗き穴へと戻す。
大島さんはまだいた。
前田さんの叫びが聞こえたのだろうか、少しだけ残念そうに笑っている。
そんな彼女がすっと右手を掲げた。指を鳴らす形を作りながら、ゆっくりと口を開く。
(またあとでね)
扉があるから声は聞こえない。でも唇の動きを見るに、きっと彼女はそう言ったんだと思う。
彼女は指を鳴らした。廊下に響き渡ったであろうパチン、という音ももちろん聞こえない。
そして次の瞬間、彼女の姿は跡形もなく消えていた。
「きえ、た……?」
「鍵は!?開けてないよね!?」
「は、はい……」
「なら大丈夫なはず……」
「さっしー起きて。さっしー!……さっしー?」
前田さんにぐっと肩を掴まれ、目の前で起きた現象に動揺しながらも私は何度も首を縦に振った。
安心したように息を吐いた前田さんだけど、後ろから聞こえてきた仁藤さんの声にその顔は強張る。
北原さんと仁藤さんが何度名前を呼んでも、指原さんが反応しないのだ。
「うそ……」
私はすぐに駆け出して檻へと近付くと、目いっぱい腕を伸ばして指原さんが寝ている布団を掴んだ。
そのまま引っ張り、彼女の体ごと布団をこちらに近付ける。
首に手を当てた。冷たい。そして……
「死ん、でる……」
脈は、なかった。
―注意事項―
某大型アイドルグループを基にした駄文を書いております。
自己満足かつ妄想です。
全ての話はフィクションであり、実在の人物とは一切関係がありません。
そういった部分を割り切れない方は、申し訳ありませんが前ページへとお戻りください。
また残酷な描写が含まれることも多々あるため、そういったのが苦手な方も見ないことをお勧めします。


