人生に効く本

どんな本に出会うかが、どんな人生を歩むのかを左右します。

本は 薬よりも人を治し、食べ物よりも人をつくる。

あたしの人生に効いた、恩ある本たちを紹介します。

願わくばどうか、あなたの人生にも効きますように。


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上京物語 僕の人生を変えた、父の五つの教え/喜多川 泰
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親愛なる 親友Jへ

 

バースデーだのバレンタインだの、機会あらば

あたしはあなたに本を贈る。

 

いっちゃなんだけど、

それはあんたのためじゃないの、

あたしのためよ。

 

いつかあたしが自由に、思うさま人生を飛行しはじめた時、

 

もしもあんただけがまだ、翼をもたず、地上に取り残されて、

切なそうな顔であたしを見上げるようなことにでもなったら、

 

あたしは幸福じゃないんだもの。

 

 

あんたが幸福じゃないと、あたしは幸福じゃない。

そして、あたしが幸福じゃないとあんたも幸福を味わえない。

 

そんな種類の親友を持ってしまって、

お互い、やっかいね。

 

でも、幸福だわ。

 

 

だからあたしは、

生きることをあとおししてくれる

珠玉の本に出逢ったなら、

必ずあんたにも、それを渡しておきたいの。

 

本を贈ることは、人生を贈ること。

 

 

 

 

昨年末、クリスマスプレゼントに、可愛らしいニットをいただきまして、有り難う。

 

お返しにあたしが、バレンタインに用意しましたのは、

 

喜多川泰の『上京物語』です。

 

 

上京して働き始めたある若者の半生を描いた前半と。

上京する我が子に宛てた、父からの手紙になっている後半。

 

 

前半は

はっきりいって、ほとんどホラー。

めちゃくちゃ怖かった。

 

失敗が怖くて、

いま手元にある安定を手放せなくて、

夢を叶えない男。

何もしないまま時間を見送ってしまった男の、一生。

 

 

一歩を踏み出させないための罠が、

どれほど巧妙に、人生のそこかしこに仕掛けられていることか。

 

そしてあたしたちが、どれほどやすやすとそれらに、からめとられてゆくのか。

 

グロテスクなほど克明に描かれる。

 

 

――――震えたわ。

 

そう、

たわいもなく罠に捕らわれてしまった男。

 

あれはいつかの、あたしやあんたかもしれない。

 

前半部のラストシーンで、

男がぼんやりとベランダに座って、ひとりごちる。

 

「どうしてどこかで一歩踏み出さなかったのだろう。

 実はいつだって、なんだってできたのに」

 

あれは、

このまま一歩踏み出さなかった時、

あんたやあたしにおとずれる、20年後のとある1日の、

疑似体験だ。

 

 

 

 

ねぇ、

「今はまだ状況が悪い」

あたしたちはいつもそう言う。

 

そう言って、一歩踏み出すに最適のチャンスを、待っている。

 

けれど、

人生が進むにつれ、

人は身軽でなくなっていく一方だ。

 

ならばどれほど待っても、

自分が納得して、安心して飛び込めるような‘チャンス’

そんなものは、永遠に来ないのだ。

 

 

‘必ず成功するチャンス’

成功だけを望むから、そんな幻想を見る。

 

 

先日、

ネットビジネスを起業して、いまやセミリタイヤしている菅野一勢氏の、

こんな言葉を聞いた。

 

「世の中には2種類の人間しかいない。

 成功も失敗もする人間と、

 成功も失敗もしない人間だ。」

 

 

成功だけした成功者なんていない。

 

失敗はワンセットだと覚悟を決めた時に踏み出せる

‘今この瞬間からの一歩’

それだけが、幻想ではない、

確かなものなのだ。

 

 

 

 

前半はホラーだけど()

後半は『地球の歩き方』。

 

人生の厄介な罠に、足をすくわれずに歩く方法の、大解説。

 

 

「真の成功者として本当に幸せな人生をおくりたければ、今まで育ってきた中で知らないうちに身につけてきた常識の殻をやぶって、その殻の外側から、今の常識で生きている人たちがいかに成功とはほど遠い非常識な生き方をしているのかをしっかり観察するといい。」

 

 

後半も、

読むほどに足元の地面をひっくり返されるような気になるけれど、

 

たった1度きりの人生を後悔する、

という大惨事に辿り着かないためには、

 

今ここで、ひっくり返って転んでおくべき。

 

転ばせるだけではない、とびきり大きな愛も、この本には溢れているから、

安心して。

 

 

 

 

Jよ。

読みながら、ひきつり焦るあんたが目に浮かぶわ。

 

でも、あたしたちは互いに1人ではないのだから、

怯えなくていい。

 

あんたが転んだら、

あたしが笑い飛ばしてやるわ。

 

あんたがそれでも踏み出せないなら、

あたしが後ろから蹴りを入れてやるわよ。

 

 

あんたも、あたしにそうして。

 

 

互いにポカスカやりあいながら、

笑って、人生をあゆんでいきましょうね。

 

 

あんたの夢が、叶いますように




 

 

 

 

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暴走族 絵本作家になる ( ワニプラス )/のぶみ
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「絵本作家らしからぬ顔をしている」

 

それが第一印象だ。

 

 

 

この『暴走族、絵本作家になる』という自伝を書いたのは、

 

発売3週間で15万部を売り上げる絵本『ぼく、仮面ライダーになる!』シリーズや、

NHK「みぃつけた!」のアニメ『おててえほん』

の著者である

 

絵本作家・のぶみ。

 

 

 

かつて、

‘暴走族の総長’という、

およそ絵本作家になるには似つかわしくない輩であったという彼に、

 

機会あって、間近で会ったことがある。

 

 

絵本作家というと、ざっと見渡した限り、

 

柔和でどっしりした雰囲気のおじいちゃん・おばあちゃんか、

あるいは優しげな女のひとが多い、

 

そんな印象だ。

 

 

ところがこの34歳の絵本作家ときたら、

 

‘絵本作家’という言葉から想像する柔らかさや明るさよりも、

 

色気と、そして不敵なニュアンスがまさっていて、

 

まるで、絵本作家然としていないのだ。

 

 

「オレはまだまだ納得しちゃいないぜ」(何に?)

そんな顔をしている。

 

この人ほんとに足洗ったの?()

 

 

案の定、自伝には、

無鉄砲とがむしゃらさ、

傲慢と臆病。

 

昔の話だけじゃない、

たった今も彼が変わらずに持ち続けている、

ギザギザのエッジが、

 

そのまま紙面に載せられてるじゃないか。

 

 

こんなエッジのある人が、

子どものための絵本を描いて、

しかもそれがすごく売れているなんて、

 

どうなっているのだろう。

 

好奇心にかられて、

普段は行かなかった児童書売り場で、

彼の絵本を手にとってみた。

 

そして驚いた。

 

 

彼のうちに備わる尖ったもの、

そして臆える影。

 

それらは

ほんの少し、

子どもたちには絶対に気付かれないくらいかすかに、

ちゃんと彼の絵本に影を落としている。

 

けれどもそれが、

そこに描かれている

明るさや健やかさやユーモラス、

愛や光をひきたてて、

 

読む人を、子どもたちを、

世にもあたたかいもので包むのだ。

 

 

 

ふわふわと優しく、清く明るく正しい人が、

子どもの喜ぶ本を描けるというわけでは、

おそらくないのだ。

 

雨降って嵐降って固まった、

踏んづけて踏んづけて踏み固めた、

固い土台がなければ、

 

お姫様の住む、夢のようなお城は、建てられない。

 

 

 

「絵本作家らしからぬ顔をしている」

 

それでよいのだ。

 

彼は、この先も絵本作家の顔になど、ならなくていい。

 

牙は落とさなくていい。

 

やすやすと噛み砕ける牙を持ちながら、

 

それでもなお決然と、生かそうと、

喜ばそうと、

優しくしようとするから、

 

ものすごく 優しい ものが、

描けるのだ。

 

 

 

もしかしたら、

 

世の多くの、

柔和なのおじいちゃんおばあちゃん姿の絵本作家達とて、

 

長い歳月の果てに、

うまいこと牙を隠しおおせる技術を手にしただけで、

 

本当はどこかに各々の、

牙を隠し持っているのかもしれないが。

 

 

 

 

 

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暴走族 絵本作家になる ( ワニプラス )/のぶみ
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ところであたしが、

この『暴走族、絵本作家になる』を、

誰かに読んで欲しいとしたら、

 

順風満帆に世を渡っている人でなく、

 

夢を叶えたくてがんばってがんばってがんばって、でもうまくいかなくて、苦しい人

 

に、読んで欲しい。

 

 

絵本作家のぶみは、

今の姿にブレイクするまで、都合10年もかかっている。

10年だ。

 

10年間の、死ぬほど苦しくてダセぇ年月、

それを彼は、

包み隠さずに書いている。

 

 

何百冊何千冊描いても、

出版社にどれだけ頭を下げても、

出版されない。

 

どうやったらよくなるのか頭が沸騰するくらい考えて、

ガムシャラにひたすらに努力しても、

さんざんなことを言われる。

 

「だからこれをどうしたいんですか?」

「才能ないんじゃない」

「もう来ないでください」

 

悔しくて、チクショウって血が出るまでガンガン壁を叩いて、

編集者を恨む。

 

苦しくて頭がおかしくなりそうで、

 

夜になると不安で震えがとまらなくなって、

トイレで吐く。

 

 

なんて不様。

 

 

けれどもあたしは、

この不様を、

何度も何度も繰り返し、読んでしまうのだ。

 

だって。

こてんぱんでボコボコで目をおおいたいほど痛くても。

傷つくことにビビりまくっていても。

 

それでも、1回もやめようとしないんだよ、

こいつ。

 

 

《ダサいだろう、女々しいだろう、》

 

《でもさ、

 じゃあ、やめんのかって言ったら

 そうじゃない。

 いつだって、僕は、

 ビビりながら、

 前へ進んでたんだ。》

 

 

 

もしも今。

 

がんばってがんばって、

でも報われなくて夢に近づけなくて。

自信がなくて、

迷って不安で、

叫んで泣いて。

もうこんな闘いはやめてしまおうかと思っている人がいたなら。

 

あるいは逆に、

そういう日々が訪れるのが恐ろしくて、

踏み出せないでいる人がいたなら。

 

読んで欲しい。

 

 

なりたい自分になるために、

もがきのたうちまわる諦め悪い不様が、

 

どれほどに格好良いのか、

見ることができるから。

 

 

彼がこの本で思うさまさらした、

 

はちゃめちゃに情けなく、

けれどとびきり強い姿に、

 

熱く心を揺らされて、

あたし達は知るのだ。

 

何が本当に格好良いことで、

何がそうでないかを。

 

 

 

この本に首ねっこをつかまれてしまったのは、

誰あろう、このあたしだ。

 

 

おい、そこのおまえ、

 

諦めてんじゃねぇ、

叶うまで諦めなけりゃ夢は叶うんだよ。

 

まして始めてもないうちに諦めてるなんて問題外だ。

 

飛び込め、

痛さも怖さも受けて立て。

 

 

 

 

厄介なことになった。

 

痛いのは嫌いなんだ。

 

せっかくここまで逃げおおせてきたというのに、

 

1冊の本が、

あたしに覚悟を決めさせてしまった。

 

 

 

なりたい自分になると決めてしまったあたしに、

一歩を踏み出してしまったあたしに、

 

これからやがて、

この本に書かれているような恐ろしい日々が、

襲いかかってくるのだろう。

 

 

なんてことだ。

怖い。

考えただけで胸が詰まる。

 

打ちのめされ笑われ、きっとあたしは、泣く。

 

 

 

それでも。

もう、いっちょ行くしかないのだ。

 

さっきも書いた。

 

覚悟は決まってしまった。

 

 

 

願わくば、

あたしも潔く堂々と、

不様をさらしたいものだなあと思う。

 

そして最後に、

 

読むたびに泣いてしまう、

彼の絵本のなかの一言で、

締めくくろう。

 

 

《こわくたって まけない。

 ぼくは、仮面ライダーだ!!

 

 

 

 


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大学時代、同じ名前の後輩がいた。

 

絵や文章が上手くて、瞳が美しくて、いつも凛としている子。

 

その子とは、

いちばん好きなマンガが『無限の住人』(当時)であるだとか、

大槻ケンヂのファンだとか、

 

名前だけじゃなく、趣味もなにかと生き写しなのでよく驚いたが、

 

なかでもいちばん驚いたのが、

 

太宰治でいちばん好きなのは何かと訊いて、

 

『葉桜と魔笛』

 

と返ってきた時だ。

 

おびただしい数ある太宰作品のなかで

 

絶対に有名ではない、あの短い儚い作品を名指してくるとは。

 

もはやドッペルゲンガーでも見る思いだ。

 

 

あたしも『葉桜と魔笛』が、いちばん好きだった。

 

 

 

あたしがこの『葉桜と魔笛』を読んだのは高校2年だ。

 

そして、以来あたしは、

片想い というものをやめた。

 

片想いでいいの見てるだけでいいの なんて、

もう絶対に思わない。

 

 

恋は

 

あたしのこのからだを

 

好きな男の人に

 

しっかり抱いてもらうために

 

するのだ

 

 

 

 

あらすじを書いたら、それがもう本編になってしまいそうなくらい、短い話です。

すぐに読めるから、一度読んでみて欲しい。

もしもいま恋人を持たぬなら、特に。

 

角川文庫から出ている『女生徒』という短編集に入っています。

 

 

 

 

これを読んだ17歳の頃のあたしには、

 

片想いという甘い湯に浸るのが、

とても心地よくて、

 

放課後1人で彼の机にそっと座ってみたり、

教室の窓から校庭の彼を盗み見ていたりするような、

 

甘酸っぱい胸苦しさを、楽しんでいた。

 

けれども

この数ページの物語は、

その呑気で怠惰な時期から、

強引にあたしを追い出してしまった。

 

 

‘青春を 女盛りを 自覚なさい

 後悔しないよう 使いきりなさい’

 

あまりに鮮やかに

そう突きつけられて、

 

追われるように駆け出さずには、いられなくなってしまったのだ。

 

 

あの時の焦燥感は、少し恐ろしいくらいだったけれど、

 

今となっては、

この本のおかげで、

 

‘1人でする恋’に

比較的早い時期に見切りをつけることができたことを、

 

幸福だったと思っている。

 

 

 

限りがあるのです、

時にも、命にも。

 

そして命は、

慈しまれ

愛おしまれ

恋い焦がれられ

抱きしめられる経験を、

しなくてはならないのよ、

少しでも多く。

 

片想いをしてる場合ではない。

そんな暇はない。

 

好きな男に

触れてもらわなくちゃ。

 

 

 

 

『葉桜と魔笛』と同じ頃に夢中になっていた、

寺山修二の詩にも、こんなのがある。

 

 

「片想いって何?

 

と女の子が訊きました。

 

想像力のたのしみだよ。

 

とぼくは答えました。

 

半分の恋じゃないの?

 

と女の子が訊きました。

 

そうじゃないよ。

 

とぼくは答えました。

 

片想いというのは、まだ恋のはじまる前の人のたのしみなんだ。

 

片想いはきらいなの?

 

と女の子が訊きました。

 

きらいだよ。

 

とぼくは答えました。

 

ぼくは毎日でも恋をしたいと思っているからね

 

恋なんて、きみが考えてるほど深刻なものじゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

ちなみにこの『女生徒』という短編集は、

太宰の作品のなかでも

女性目線で書かれたものばかりを集めています。

 

『葉桜と魔笛』だけじゃなく他の作品も、

 

出てくる女たちはどいつもこいつも、

 

清純で意固地でいじましくて。

 

醜いのに 美しくて。

 

読みつのるほどに、

 

真摯な愛に生きなければ と、

背筋がシャンとする思い

 

……いや、違うな、

 

背筋にナイフを突きつけられる思いがします。

 

 

片想いに限らず、

前の恋がふりきれなかったり、

仕事にいっぱいいっぱいで恋をするエネルギーが湧かなかったり、

 

恋に足踏みしちまう、

可愛いくておりこうで臆病なお嬢さんたちが、

 

ぜひ、読んでくれたらなと思います。

 







女生徒 (角川文庫)/太宰 治

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小6の時の担任の先生の、

死亡通知ハガキが届いた。

 

 

 

まだ「ババ」という年でもないのに、

かげで子ども達に「鬼ババ」と呼ばれるような女の人だった。

 

教育熱心で、けれどどこかヒステリックで、

たぶん、不器用で。

 

イベントのたび、クラスみんなで心をひとつにするように要求したり、

当番サボりの男子を、校庭まで追いかけ回しにきたり、

学級会中に、怒って椅子を投げたり、

 

ちょっと面倒くさい先生。

 

子ども達は皆、

畏怖と、乾いた気持ちと、少しの憎しみをこめて、

こっそり彼女を「鬼ババ」とあだ名していた。

 

おそらく、

彼女はそれに気づいていた。

 

 

 

 

「鬼ババ」は、

週に1度、帰りの会で、

子ども達に短歌をつくらせた。

 

できた順から帰ってよいのだから、さっさとつくって教室を後にしたいのに、

 

あたしはいつも、

その日の出来事やら季節の移り変わりやらを、

上手く31文字のなかにおさめることができない。

 

難儀した。

 

他の子ども達だって、うんざりしているはあきらかなのに、

 

それに気づかないフリをして、

彼女はどうしても、それを続ける。

 

 

 

短歌作りの時に、

彼女がよく口にしたのが、俵万智の名前だ。

 

『サラダ記念日』という歌集で一躍有名になった、女流歌人。

 

 

こんな難儀を強いる「鬼ババ」にも短歌にも、

軽く反発を覚えていたから、

 

あたしをはじめ、誰もが、

「鬼ババ」が学級文庫の棚に置いた俵万智の歌集など、見向きもしなかった。

 

けれど数年後、

高校の図書室で初めて、

この俵万智の

 

『とれたての短歌です』

『もうひとつの恋』

 

という歌集を手にとって、

あたしは、驚いた。

 

 

そこには、

教科書に出てくるような、

植物や天気や風景を詠う、ちょっとばかり退屈な歌などなく、

 

およそ「鬼ババ」とは結びつかない、

 

恋する女の

ときめきと葛藤、

可愛さと愚かさが、

 

いくつもいくつも、

連綿と詠まれているのだ。

 

 

 

 

《約束の場所を決めたら

 こんなにもゆっくりやってくる木曜日》

 

 

《ぐにゃぐにゃに時を曲げたい

 六時間後に会える

 二時間だけ会える》

 

 

《コーヒーをふた口飲んで

 まだ来ない

 秒針ふるふる震える心》

 

 

《約束の時間になってしまうのがもったいなくて時計をはずす》

 

 

 

 

 

「鬼ババ」の知らぬところで俵万智を手にした

16歳のあたしは、

 

この31文字の詩たちに、

幾度となく救われることになった。

 

あたしは、

たいがいの高校生がそうであるように、

不器用で浅はかな、恋をしていた。

 

 

 

初めての恋人には、

いつもあたしばかりが、電話をかけた。

 

会話が途切れないよう、あらかじめ話題のメモをつくって、

 

厭がられやしないか面倒くさそうにされやしないかと、電話を前に1時間 思い悩み、

 

楽しく話せますようにと、天に祈って、

 

それでもいつも、あえなく言葉に詰まってしまう。

 

白々とした空気を、

明るい「またねー」でとり繕いながら、

打ちのめされた気持ちで電話を切った。

 

そのうち、電話が繋がらないことも増えてゆく。

 

恥ずかしさとやるせなさと不安で身がねじれそうになると、

決まって詩集や歌集に手を伸ばした。

 

 

 

 

《あきらめて 受話器を置こうとする その瞬間

 君につながりそうで》

 

 

《チン という音をたてずに置く受話器

 なにかが切れてしまわぬように》

 

 

《なにもかも〈ごっこ〉で終わったゆく恋の

 さよならごっこの ほんとの部分》

 

 

《デジタルの時計を

 0... にして

 違う恋がしたい  でも君と》

 

 

 

 

とれたての短歌です/俵 万智
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