1969-1973 フォードBOSS429 NASCAR エンジン
テーマ:セダンレースカー1969-1973 FORD BOSS429 NASCAR ENGINE
1969年1月、フォードスペシャルエンジングループファクトリーにおいて、新型レースエンジンの製造が始まっていた。その名はBOSS429。NASCARグランナショナルストックカーでの使用を前提とした排気量429cu:inのヘミであり、旧式化してしまっていた1963年デビューの427サイドオイラーに代わるポジションを担うべく開発された期待のニューエンジンだった。
ちなみにBOSS429にはNASCAR用とストリート用という明確に異なる2つの仕様が用意された。前述の通り純然たるレース用であればストリート用の必然性は無かった様にも思えたのだが、この時点でNASCARは500台の最低量産台数規定を設定しており、純レース仕様だけではコストの面で販売台数をクリアできないと判断されたことがストリート仕様を用意した理由である。
ストリート用とNASCAR用という2つのBOSS429において、外観上の大差は認められなかった。ヘッドカバー周りのブリーザーやエグゾーストマニホールド、エアクリーナーなどが異なっていただけである。しかしその内部はというと両者に共通点があるとすれば、4.36インチ×3.59インチのボア×ストロークだけであり、現実にはそれぞれのパーツ素材から細部の構造まで共通点はほとんどなかった。
具体的な例を挙げて説明しよう。まずNASCAR用シリンダーブロックは耐熱性が極めて高いハイニッケル合金鋳鉄で鋳造された後、入念な低温焼戻しを行うことで残留応力歪みを完全に取り去っていたことが最大の特徴であった。
歪みが十分に取れたブロックは目視とマグナフラクサー(磁気探傷装置)で傷や「ス」がないことが確認された後、改めて各ジャーナルのラインボーリング、及び真円度と各ボアサイズのばらつきを抑えた精密なボーリング加工が行われ初めて完成品となったのである。
さらにたとえばエグゾーストバルブ用プッシュロッドホールがハイリフトカムに対応するようにより大きく加工されていたこと、メインベアリングキャップが強靭なダクタイル鋳鉄製になっていたこと。1番メインベアリングキャップがより大きな強化タイプが採用されていたことといった具合に、エンジンの骨格たるシリンダーブロックにおける精密な加工と入念な設計は細部にわたって徹底されていたことにも注意しなければいけない。
加えてこのシリンダーブロックはNASCAR用/ストリート用の双方共、シリンダーヘッドの締め付けに伴う微妙なボア変形を防止するために、シリンダートップはクローズドドライデッキが採用されていたが、そのボアのシーリング方法やブロック内のオイルギャラリーもストリート用とNASCAR用とでは別物であった。
両者のシリンダーヘッドは基本デザインこそ同じだったが、インテークバルブ径とロッカーシャフト径、インテークロッカーアームレシオ、さらにはポート形状や燃焼室形状まで異なっていた。その他のパーツ、すなわちクランクシャフト、コンロッド、ピストン、カムシャフトなどが異なっていたことはいうまでもない。これらNASCAR用レースエンジンの出力に関して正確なデータは不明だが、7000rpm付近で 650hp前後を発揮していたと伝えられている。
BOSS429はフォード・トリノ・タラデガとマーキュリー・サイクロン・スポイラーIIに搭載され、1969年3月30日のNASCARグランナショナル第10戦「アトランタ500」でデビュー。ケイル・ヤーボロウの駆るウッド・ブラザース・マーキュリーが見事デビュー戦での優勝を飾った。この年はシーズン後半の「タラデガ500」から大型のウイングを装備したダッジ・チャージャー・デイトナがデビューするなどフォードにとっても決して楽な年ではなかった。しかし最終的にホールマン・ムーディ・フォードを駆ったデビッド・ピアソンがチャンピオンの座に就いたのである。
BOSS429はこの後も1973年前後までNASCARにおけるフォードの主力であり続けた。現代、BOSS429はフォードにとって最後のワークス・ビッグブロック・レースエンジンであったという意味で一つのマイルストーンとして認識されている。





