「ぼく、ときどき不安になるんだ。たとえば、ぼくがそっちを向くだろう。そうすると君はもうこの世に存在しないんだ。そしてこっちへ向きなおると、君は戻ってくる」
ピーターはじれったそうに髪をかきまわす。夕暮れの川風に一筋の金髪が舞う。
「ぼくはステューピッド(バカ)だから、なんて説明したらいいかわからないけど……みんなテレビを見ているんだ! 映画じゃない。映画は一枚一枚確固とした写真の連続だから。テレビは一粒一粒の粒子の集まりなんだ」
「ピーター、オレはもっともっとスチューピッドなんだから、わかりやすく言ってくれよ」
「OK、もう一回トライしてみるよ」
ピーターはうすい下唇をかんでから、一言一言確認するように説明しだした。
「ぼくは今、AKIRAっていう映像を見ている。黒いバンダナをかぶって、すり切れたアーミージャケットのえりをたてて、真剣な目でぼくを見つめている。いいかい? そんな君が、ぼくの目の中にいるんだよ。そして、ぼくがそっちを向く」
ピーターはクルッと、反対にある黄浦(ホワンプー)公園に目を移した。草色に輝いていた芝生を、夕暮れがそっと撫でていく。
「そうすると君の粒子は拡散して、今ぼくが見ている黄浦(ホワンプー)公園の映像を作っているんだ」
「あのベンチのカップルが、早くKissしないかなあって?」
「混ぜっかえさないでくれよ! ぼくがこっちへ向きなおると、君は拡散した粒子をあわててかき集めてもどってくる。それが、今ぼくの見ている番組なんだ」
ピーターはクルッとふりかえると、子供のような眼差しをオレに向けた。
(「アジアに落ちる」より抜粋)
例えばこう考えてみよう。
生者も死者も同じ粒子でできている。
肉体を失うとその粒子は宇宙に拡散する。
しかし生者が死者を想うとき、その粒子が再び集まり、生者の心に死者は生き返る。
1月15日(日)栃木県那須塩原市「SHOZO音楽室」にて、「彬宣(アキノブ)あなたは大切な人です」ライブカフェから中古家具、雑貨や服まで数店舗をかまえるセレクトショップ「SHOZO」には全国からおしゃれな人たちが集まる。オレも昔から「SHOZO」ファンで、書斎のベトナム戦争で使われた机、洗面所のキャビネット、ロケット型灰皿など、今でもつかっている。今日の主人公アキノブはSHOZOカフェやブティックで働いていた。オレとアキノブ家族はホノルルマラソンをともに走ったガンサバイバー仲間だ。退院後、杉浦貴之さんの「治ったから走れたのではなく、走ったから治った」という言葉に励まされ、家族5人で12月のホノルルマラソン42.195キロを完走した。
2016年1月、ちょうど昨日と同じような雪の日、アキノブは28歳で天寿をまっとうし空に帰っていった。今日はアキノブの一周忌ライブである。
いつもオレは正月からスリランカへ渡るが、いっしょにホノルルを走った仲間からのオッファーを喜んで受け入れた。
アキノブの両親ケンイチさんとマサコさんは身内だけの小さなライブを企画していた。
しかしどんどん予約は増え、両親は決断を迫られる。
さすがホノルルを完走した魂友である。
「アキノリの魂の選択にゆだねよう!
身内でくよくよやっていないでみんなで僕の死を祝ってよと言っているのかも」
家族オペラとアキノブの追悼ライブが2デイズ企画になり、ラストライブは全国から集まった人々でまさかの100人超えである。
「AKIRAさん、あと5分ではじまりますよ。どこへいくんですか?」「ちょっとタバコ」と言いながら、SHOZOファンであるオレは全店舗をまわる。
まるで母親のようにオレの行動様式を知りつくしてるまりぽんに連行され、会場につれもどされてしまった。(手をあげろ!逮捕する)
すでにオープニングアクトのマツカナ(松本加奈子)がはじまっているではないの!マツカナは地元出身、もと女優、5歳と7歳の娘の母、キャンピングカーで日本一周、シンガーソングライターという波乱万丈人生なのである。マツカナも愛する人を亡くしている。
2013年、突然の病に夫が倒れ、八ヶ月の闘病の末他界する。
その想いから名曲「想+sou」が生まれた。
これは夢か?現実か?もう二度と逢えなくなるなんて、、、貴方の事が好き 貴方を愛したい
どんなに遠くに離れていても貴方の事が好き(「想+sou」抜粋)
今日は生者と死者がいっしょに楽しむ宴なので、当然マツカナの旦那もきている。
マツカナは涙ぐみながら熱唱した。
アキノブの父ケンイチさんが主催者あいさつをする。
「今日はアキノブの一周忌ライブとしてはじめたのですが、これだけたくさんの人が集まってくれたのはアキノブがご縁をつなげてくれたのだと思います」
まずは今日のテーマ曲からいこう。
1.あなたは大切な人です
アキノブの母マサコさんをステージに呼ぶ。
「よくぞお母さんたちまで完走しましたね」「はじめアキノブは気乗りしてなかったんですよ。
ところがアキノブは4時間台で完走しちゃったんです。
すすめた手前、私たちもへとへとになって8時間もかかりました。
アキノブは、白血病ランナー、ワタナベケンさんに、チャレンジャーになると宣言してからやる気になったんです」
「あっ、ケンさん、今日きてるんで出てもらいましょう」
「僕はもともと26歳から走っていたんですが、2008年6月に慢性骨髄性白血病が発覚して、抗がん剤治療を受けました。もう一生走れないと思っていたんですが、8月に78キロのウルトラマラソンを人生最後にしようとおもって4人の血液内科の医師に相談したら、前例ないがないと言われました。
じゃあ自分が前例を作ろうとて、走ったら完走できました。
がんは消えてないので治療はつづいていますが、病気とともに8年間もマラソン続けています。
同じ病気の子供たちや大人が勇気をあげられたらなと思って走っています」
オレたちのいったホノルルでもケンさんはみんなをサポートしてくれるたのもしい存在だった。
毎回AKIRAライブはイタコ状態だが、アキノブが家族に伝えたいメッセージをオレの歌を通して伝えよう。
ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
2.Hello my mom!(アキノブの母に捧ぐ)
ハイボクジャンケンでは、1位 黒中代表、サッカー仲間の高橋トオルにAKIRACD 「ライフシアター」。二位 アキノブの叔母 キョウコさんにコンちゃんから北海道の鍋敷き。三位 アキノブの母とガールスカウトやってるトモコにみかんCD「みかんうた」。四位 アキノブの母と先月初めて会ったばかりのユミにマツカナCD 「想〜+sou」が贈られた。
3.ハイボクノウタ(敗北者代表4人とここにいる全てのハイボク者たちに捧ぐ)4.キミココ
メディスンサークル(永遠に循環する輪)を信じている先住民にとって死は祝祭だ。
葬式でも「いかないで」とか「さよなら」は言わない。
アイヌ民族は「スイ ウヌカラ アンロ」、また会いましょうと送り出す。
彼らにとって死は、また何度でもこの世にもどってくる束の間の休憩時間にしかすぎない。
この世「アイヌモシリ」の1年は、あの世「カムイモシリ」(神様の国)の1日なので、3年後に生まれ変わるのは、あの世でたった3日、すすきのに飲みに行くようなもんだとエカシ(長老)は言っていた。
5.スイウヌカラアンロ
6.ハシャガニャ
7.永遠が終わる日
8.勇者の石
9.Hug yourself10.PUZZLE11.ウレシパモシリ
後半のオープニングアクトはアキノブのいっていた黒磯中学、腹黒い「黒中」がマツカナとともに「上を向いて歩こう」を歌った。
腹黒い「黒中」はやさしいね。
こうやってさりげなくアキノブを亡くした家族をはげますなんて。
12.ソウルメイト13.千年桜
14.家族
15.MOVE!
16.なんくるないさ17.バンジージャンプ18.嫌われる勇気 アップテンポバージョン
メディスンサークル
19.えん20.ありがとう
死は引越しである。アキノブは自分の体が老朽化したんでみんなの心に引越した。
ルームメイトを喜ばせるためにはどうしたらいい?
大家さんがああすればよかった、こうすればよかったなんて泣いていたら、ウザいだろう。
死者が一番喜ぶのは、生者が笑って楽しく生きていることだ。
一心同体なんだから、美味しいものを食べ、旅行で美しい風景を見、好きなことをどんどんやり、ワクワクチャレンジして、いっしょに遊ぶ。アキノブは大喜びでみんなを応援してくれるから。
オレにとってもすばらしいフィナーレを飾れた。これから3ヶ月スリランカだ。
たとえサメに食われても、トゥクトゥクに轢かれても、AKIRA歌を歌った瞬間、オレはきみとともにいる。
じゃあ、「スイ ウヌカラ アンロ!」(また会いましょう)
受付 はるかさん、あやかさん。駐車場 たかしくん、たかのりくん、ようすけさん、つよしさん。音響 関春彦さん。カメラ 伊藤ケンイチさん。物販 田中貴子、塚原くにこ、塚原ケイジ。主催 伊藤正子さん。★アルバム購入方法がかわります。
アルバム販売ページ:http://akiramania.thebase.in/
アルバム、名言写真集Will の 海外発送も承ります。(一部地域を除く)
→ AKIRA ALBUMの注文方法がかわります。海外発送もはじめます。
☆書籍版AKIRA名言&写真集「Will」(2500円)、電子書籍写真集(500円) 販売ページ。
☆AKIRAアルバム全曲解説 (曲名をクリックするとYouTubeに飛ぶようにしてあります)
★ たくさんの自殺志願者を救ってきた「COTTON100%」がNHK日本の100冊に選ばれました。
★動画ページ 【 1.Shino Tanaka 】 【 2.Toshi 】 【 3.Mr.ピーン 】