・機甲兵団ワルキューレ ~第2話 初めての実戦~
~登場人物~
フォル=ムーン:♂:
・ワルキューレ01、アーリィのパイロット。接近戦を得意とする熱血漢。
サウド=ヴァレット:♂:
・ワルキューレ02、レナスのパイロット。冷静沈着な戦闘員。
テノ=アルノ:♀:
・ワルキューレ03、シルメリアのパイロット。腕利きの射手。
シエミナ=シェード:♀:
・オペレーター兼メカニック見習い。
エネス=トルーン:♂
・ラグナロク本部総司令。司令官として若いが、戦略に長けている。
・用語解説・
ファントム:人型の戦闘兵器。武装を変えることで様々な戦場に高い適応性を持つ。
コミット:国に代わり世界を動かすようになった、企業、経済、資源を多く持つ様々な集団。
それぞれの資本を武器に領土を日夜奪い合う。
ワルキューレ:コミットに支配された抵抗組織「ラグナロク」のファントムの機体コード名。
~劇中表記~
フォル:
サウド:
テノ:
ミナ:
エネス:
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
SE オペレーションルーム、入室音
フォル:ミナ!サハドのファントムが攻めてきたって!?
ミナ:フォル!皆も。待っていたわ。
サウド:落ち着かないか、フォル! …ワルキューレパイロット、サウド=ヴァレット。
参りました。
テノ:同じくワルキューレパイロット、テノ=アルノ。到着いたしました。
エネス:御苦労。早かったな。
フォル:エ、エネス司令!失礼しました!フォル=ムーン。到着しました!
エネス:そこまで気にしなくていい。さっそくで悪いが、サハドのファントムが本部に
接近中との情報が、自治区の地下支部より報告された。
フォル:サハドめ!ついにここを嗅ぎつけたのか!?
エネス:どこまで情報を掴んでいるのかはわからないが…。こんな所にファントムを派遣
してくるという事は、その可能性が高いな。
テノ:武器も弾薬もパーツも、少しずつ分けて集めてきたっていうのに、どこから情報が…
サウド:司令、我々への出撃命令を。ファントムが自治区に入る前に叩けば、自治区には被害
を及ぼさずに済みます。それに、本部の詳細な位置も知られる可能性は低くなります。
エネス:うむ。だがまだ焦らなくて良い。サハドのファントムが自治区に到達するまで、
今のスピードだとまだ少し時間がある。シエミナ、状況の説明を頼む。
ミナ:はい。サハドのファントムは現在、ヴァルハラ自治区より北西の砂漠地帯、
およそ50キロの距離を歩くように進行中。数は一体。周囲を警戒しているのか、
かなりゆっくりと進んできています。
支部の報告ではサハドのファントムは中量装備。腕部には銃の形状をした武器を。
背部にはアンテナのような装備がある模様です。画像データ、メインモニタに出します。
フォル:なんだこれ、ほんとにアンテナみたいな…?
サウド:広域レーダーか?進行速度もかなり遅いとなると…こちらの確実な位置は
掴んでいないということか?
エネス:おそらくその通りだ。そしてこちらの戦力も、過小評価していると思われる。
テノ:過小評価…ですか?
ミナ:敵ファントムは一体。しかも武装も画像を見る限り軽装です。少なくとも、こちらが
ファントムを3体も所有しているのを知っていれば、もっと大規模な部隊や装備で来る
でしょう。
エネス:先ほどテノがゆったとおり、我々は慎重に慎重を重ねて組織の装備を整えていった。
まだ情報源はわからんが、サハドの連中は、こちらをせいぜい小さな武装勢力程度と考え
ている可能性が高い。
フォル:くっ、なめやがって!サハドのやつら!
テノ:何いっているのよ、好都合じゃない。エネス司令!ここはやはり先制して出撃し、
サハドのファントムを逃がさず潰せば、サウドのいうように我々の本部の詳細な位置や、
戦力は掴まれないのではないでしょうか?
サウド:ファントム一機を潰せる戦力、と認識されるのは少し問題だとしても、
このまま索敵され、詳細を掴まれ続けるよりもずっと良いと思います。
エネス:お前たちの言うとおりだ。この本部の存在や位置が正確に把握されることが最もまずい。
作戦はすでに決めてある。二人の言うとおり、お前たち3人には先行して自治区前にて、
敵ファントムをせん滅してもらう。
フォル:ついに出撃ですか!了解です、俺がぶっつぶしてみせます!やってやるぜ!
司令!出撃命令を!
ミナ:ちょっと、落ち着いてフォル。迎撃ポイントもフォーメーションも、何もまだ決めて
いないでしょう。敵は索敵用レーダーを積んでいる可能性が高いのよ?こちらがファントム
三機で一気に攻めかかったら、撤退することだって十分にあるわ。
サウド:確かにな。敵のレーダーの索敵距離や性能は、まだ未知数なんだな?
ミナ:ええ。形状はサハドの偵察機用のレーダーに似ているけど、支部からの画像は望遠で
荒く、断言は出来ないわ。
テノ:無闇に三機ならんでつっこんでいって、戦力を掴まれて逃げるわけにもいかない、と
いうことね。
ミナ:そういうことです。
エネス:現状はそういったところだ。よって今より作戦の説明に入る。
フォル、サウド、テノ:はい!
エネス:まず、サウドが先行する。サウドは敵に見つかることを前提に、警戒して進んでくれ。
サウド:は!了解しました。
フォル:まってください!機動性は俺の機体のほうが…
エネス:説明中に口を挟むな、フォル。フォルの機体は確かに3機の中で一番機動力はあるが、
フォルとサウドのシュミレーターの結果を加味しても、サウドを先行させる。フォルは
機動力を活かしてバックアップだ。サウドが敵を発見したらデータを共有し、2体で
攻撃。それに、サウドの機体はビームシールドを搭載出来る。やれるな?二人とも。
サウド:ビームシールド…シュミレーターにもまだ組まれていなかった兵器ですね…。
使いこなしてみせます。出来ます。
フォル:俺だって、出来ます!サウドからデータを受信次第、一気に間合いを詰めて攻撃に
入ります!速攻で落としてやりますよ!
エネス:それでいい。だが状況は刻々と変わる、戦闘中はシエミナのオペレートを聞き逃すな。
例えばフォルが姿を見せた時点で敵が逃げる、ということも考えられる。
テノ:司令!私の役目は?
エネス:テノは、自治区の北端でビル群に隠れて待機。敵のレーダーの索敵距離が判明次第、
動いて貰う。索敵範囲よりもテノのスナイパーライフルの射程が長い場合は、敵の
範囲外より狙撃してくれ。射程が劣る場合は、ライフルの射程ギリギリの距離に詰めて
2機のバックアップに回ってくれ。
テノ:了解です!必ず敵を射抜いて見せます!
エネス:よし、作戦は以上だ。これ以降の指示は実際に戦闘に入らねば出来まい。
それでは各員、配置につけ。ワルキューレ隊は格納庫へ行き、出撃準備!
フォル、サウド、テノ:はっ!
ミナ:ラグナロククルー、整備班に告ぐ!至急、ワルキューレ01、02、03の出撃準備を!
各機の武装データを送ります。コクピットにもデータをリンクさせてください。
通信班は自治区の支部との連絡を絶やさないようにしてください。
それと、え…と…
エネス:各クルーはワルキューレ出撃用カタパルトゲート1以外の隔壁(かくへき)を閉じろ!
最悪の場合に備え、本部も臨戦態勢をとれ!白兵戦もありうるぞ、各人の装備も
もう一度点検しておけ。
ミナ:あ…司令。申し訳ありません!一瞬、頭が真っ白に…。
エネス:はじめての実戦だ。仕方あるまい。お前も、ここのクルーたちも、…あいつらもな。
だが、戦闘中はしっかりサポートしてやってくれ。あいつらのほうがずっと緊張している
はずだ。
ミナ:はい!全力でみんなをサポートします!
~ワルキューレ格納庫~
フォル:いよいよ実戦ってわけだな…。…よっしゃあ!出来る、俺は出来る、やってやる…!
サウド:良い意気込みだ。そう、俺達は出来るはずだ。信じよう。毎日のトレーニングを。
司令やミナたちを。
テノ:コクピットが固く、冷たく感じる…。何度も入って整備してきたはずなのに、
まるで別の場所…。だけど、誰よりもわたしがここを知っているはず。
フォル:そうさ!俺の機体は俺が一番知っている!テノの機体はテノが一番知っているはずだ!
いっちょやってやろうぜ!
テノ:ええ。まずは戦うのはサウドやフォルなんだからね。気をつけて。
サウド:二人とも、焦るなよ。大丈夫だ、俺の機体の背中を見ていろ。
フォル:…落ち着いてるんだな、サウドは。
サウド:覚悟はずっとしてきた。そして時が来た、それだけだ。不安や気負いからは何も
生まれない…。二人とも、武装のデータが来ているぞ、見直しておけよ。
テノ:サウドは強いわねぇ…かなわないわ。同じ初陣なのに、いつもどおり冷静ね。
フォル:まったくだ。大したもんだよ、さすがサウド!
ミナ:パイロット各員へ。搭乗を開始してください。これより武装確認のち、出撃となります。
サウド:よし、いくぞ。…何度も言うようだが、だいじょうぶ、出来るさ、俺達は。行こう。
フォル:ああ、全員生きて帰ってくるぞ!
テノ:当然!サウド…ありがとう。
サウドM:二人ともひどく緊張しているな…当然のこととはいえ…。いや、俺自身
心拍が速い。脈拍も速くなっているか?頭痛もする、吐き気もする、めまいもだ。
だが俺が冷静でなくては、二人は今より乱れ動揺する。俺がしっかりしなくては…
出来るはずだ。うまくやれよ、サウド…。
フォル:こちらフォル。搭乗スタンバイOKだ!
サウド:サウドだ、搭乗スタンバイOK。
テノ:こちらテノ、いつでもいけるわ、ミナ!
ミナ:了解です。では3人ともコクピットの武装データ欄を見てください。まずは
01(ゼロワン)、アーリィからです、フォル。
フォル:おう、了解!
ミナ:アーリィの今回の武装は右手のステイカー。左腕のショットガンとなっています。
ブースター性能をあげ、軽量装甲にしてあります。スピードはシュミレーター以上に
でますが、防御性能は低下しています、注意して下さい。
フォル:防御性能は低下…か。わかった。機動力を活かせるようにしてみせる。
ミナ:次に02レナスです。右腕にマシンガン。左腕にビームシールドを装備。右肩部に
レールガンを装着しています。シールド以外はシュミレーター通りです。
サウド:了解だ。先行して敵の位置をつきとめる。シールドもうまく使っていこう。
ミナ:初めての武装ですが、お願いします。最後に03、シルメリア。いつも通りの重量級装甲
とスナイパーライフル。煙幕メインのミサイルを搭載しています。ミサイルの威力
はファントム相手ではあまり期待できません。出来れば相手の射程外より狙撃を
お願いします。機動性が低い機体ですので、気をつけて下さい。
テノ:わかったわ。相手のレーダーよりもこっちの射程が長いといいけどね。
ロックしたら一発で決めてやるわ!
エネス:よし、ワルキューレ部隊、出撃準備。自治区内までは3機で行動。自治区北端到着後
は説明した通り、テノは隠れて待機。サウドが前衛。1キロ離れてフォルが進め。
サウドはとくにいつ敵の攻撃にあってもいいように用心していけ。
サウド:初陣に無茶を…と言いたいところですが、それが戦場ですね。了解しました。
フォル:サウド、すぐに援護にいくからな。
テノ:ふたりとも、バックアップは任せてね!
ミナ:戦場では不測の事態はいくらでもありえます。サウドを補足しても無視し、フォルに
攻撃がいくことだってあるかもしれません。相手の性能がわかるまでは、特に気を抜かない
で下さい。
フォル:わかっているさ。よし、こちらフォル。出撃準備、完了!
サウド:俺が攻撃されても慌てるなよ、二人とも。サウド、いつでも出れる!
テノ:カタパルト装着!…いけるわ!ミナ、頼りにしてるわよ!
エネス:よし、ワルキューレ部隊を出撃させろ!
ミナ:はい!三人とも、幸運を!ワルキューレ部隊、出撃!
フォル:へへ、俺は生まれつき幸運だぜっ!よぉぉし!ワルキューレ01、アーリィ!
フォル=ムーン、出るぜ!
サウド:出撃命令了解!ワルキューレ02、レナス。サウド=ヴァレット、出るぞ!
テノ:システム、オールグリーン!大丈夫、いままで通りに…いける!
ワルキューレ03、シルメリア!テノ=アルノ!出ます!
ミナ:ワルキューレ部隊、出撃確認!…皆、どうか無事で…。
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エネス:次回予告!
フォル:これがワルキューレのコクピット…戦場。一歩進むだけで、シュミレーターと
まったく違う感覚に包まれる…。
テノ:コクピット越しに数値で感じる風の動き、気温、光。どれも仮想の訓練とは全くの
別物だった。
サウド:俺は、俺達は出来る。今までの訓練を思い出せ。皆を、機体を信じろ…。
ミナ:ついに戦場に降り立った3機のワルキューレの初陣が、今始まろうとしている。
サウド:機甲兵団ワルキューレ 第3話 熱砂(ねっさ)の初陣。
二人にいつも通りの実力を出させるためにも…俺が、しっかりしなくては…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続く