ガードランサーの空回り ~駆け回り編~ (B)
テーマ:WT&PBWガードランサーの空回り ~駆け回り編~ B
ある日、廃工場の中、ばったり出くわした自縛霊、通称、多碗ダルマ―さんを大学生さんご一行から引き剥がすように、インスピレーションと方向感覚でじりじりと時間をかけて後退したボクらは、工場入口に止めてあったゼファーに飛び乗り、時間稼ぎの為にそこかしこを走り回っていた。
自縛霊は基本的に自分のテリトリーから出る事は無い。大学生さん達がこの工場の敷地内から脱出してくれれば、あとは時と世界結界が記憶を補正してくれる。
そんなこんなで十数分、せまっ苦しい悪路を右往左往と駆け回る。
いい加減、時間を稼いだ頃合だと判断したので、我ながら惚れ惚れする重心移動とハンドル捌きで、ほぼスライディング同様に倒れ掛かった「徐行」の標識の下を潜ったボクは、工場の入口の方向へとバイクの進路をはじき出した。
「雄介さん、脱出しますよ。騎乗状態での射撃の成功率は殆ど零ですが、牽制程度にはなるはずです。撃っちゃって下さい!」
「そんな君に残念なお知らせが二つある!! 軽い方と重いほう、どっちから聞く!?」
「…軽い方で」
「さっきのスライディングで銃を落とした!!」
「それは素敵なサプライズですね。…聞きたくないけど、重い方は!?」
「ああ、俺の視力が」
「視力が?」
「確かならば」
「確かならば?」
「入口が」
「入口が?」
「閉じてるな」
「は?」
「先ほどの大学生が閉めていったようだな。うむ、戸締りはきちんとする彼らの常識力と撤退成功は把握できた。是は中々喜ばしいことだと思わないか、フレンド?」
絶叫する暇さえ無いほどに、締め切られた高さ1m程の門が近づいていた。
周囲はその3倍以上のさびた金網に囲まれていることから、幾ばくかはマシな気分にはなるが、それでも、心構えの出来ていない状況で、二人乗りのバイクのボクには、生身なら軽々のその1mは高い高い壁に見えた。
ともあれ、脳内でアドレナリンが大量分泌される中、直感的に取った行動は、能力者の補正で増大された筋肉で、ハンドルを思いっきり持ち上げる事だった。
辛うじて走馬灯のようなものは浮かばなかったが、以前に見たあの有刺鉄線越えのシーンが明確に脳内にフラッシュバックした。
前と上に慣性を同時に加えられたバイクは、前輪を盛大に空回らせながら仰け反るように地面から離れ、ブースター代わりに雄介さんが放った後方下斜め55度の粉塵爆発がそれを助けた。ボクの愛車はテールランプの端っこを爆発に引き千切られながらも、爆炎と舞いあがる塵を背に3m以上の大ジャンプを見せ、奇跡的に転倒を免れて着地した。脳内で、スティーブさんが、良くやったと肩を叩いてくれた。何故か隣に腕組みして頷く仮面ライダー(初代)も居たが、二度とやらないぞ。
流石に衝撃を逃しきれず、暴れるハンドルを押さえつけ、ドリフトかスピンか分からない回転を見せて踏み止まる。
停止したバイクを足で支え、再び具現化させた槍を手に、工場の方を見やると、爆発で門はぶっ飛んで居るも、多碗ダルマーはこちらを憎悪に満ちた目で睨み付けてるだけで、敷地内から出ようとはしなかった。
「どうやら、助かったようだな」
「はあ、相手が縄張り意識の強い自縛霊で助かりました」
「全くだ。時に、お前はアイツに何発撃ち込んだ?」
「思念を練って気の弾丸を三発、後、腕を二本槍で切り落しました」
「俺は眉間に銃弾を一発、バレットレインの弾を居れると全身に数十発…。少なくとも、二人で挑むような相手じゃなかったな。やれやれ、命あってなんとやらだな」
「ええ…。兎も角、もう2度とご免です。こんな経験は」
ボクの呟きに、同意してくれたのか、それとも抗議の声か、愛車のエンジンはぶるるるおんと甲高い音を立てた。。
その時ようやく、ヘルメットを落としてきていた事に気が付いた。
…………あの自縛霊とネズミトリ、どちらが怖いかと言われれば言わずもがなだ。
「……っ! 戻りますよ、雄介さん!!」
「正気かフレンド!?」
「当然です。自縛霊は罰金は取りませんもの!」
「………命は取るぞ」
○
「で、雄介さんはあの工場で何を探そうとしたんですか?」
雄介さんがどっからか調達してきた(この際、経路は問うまい。うう…明日ちゃんと返しに行かなきゃ)ヘルメットをかぶり、鎌倉に帰るなり真っ先に寄った学園で、報告書だか反省文だか分からない文を書き終え、深夜だと言うのに、多碗ダルマ―の討伐申告書を運命予報士の友人自宅にファックスして開放された。
それから、雄介さんの奢りのファミリーレストランで遅い遅い夕食を取った。
その席で、中々の味だが冷凍食品丸だしのハンバーグを突つきながら、ボクは疑問をぶつけてみた。
最も、彼の感性から来るノウハウを理解できる事はあまり無かったが、雄介さんは、口の中の大量のコーンをもぐもぐと租借した後で、難しげな顔をした。
「宗慈、残留思念とは、何所に宿るのだろうな?」
「そうですね。残留ですし、その場に残って留まるのですかね」
「…前から思っていたんだが、そこから一部を切り取った場合、そこには思念は存在するのだろうか?」
「はい?」
「ほら、神木から削り出した木刀って、霊力を帯びるだろ。理論的にはあれと一緒だ」
「……ああ、成る程…。読めましたよ。えーと、例えるならば、プレハブが良いかな。プレハブ小屋は、組み立てられて立っていれば、内部は立派な「場所」ですけど、解体されてパーツにされれば、そこは場所から無数の「物」に存在が振り分けられる。そういうことですね? 最も、是は思念が残る場所が「土地」では無く「場所」であった場合の過程ですがね」
ボクの回答に雄介さんはにんまりと笑みを浮かべた。
「そうとも、以前に付き合ってもらった富士の樹海では、自殺者の首を支え続けた縄を探しに行ったんだ。自殺場所から遠ざかっても、恐らく一番の思念の向き先である縄ならば、そこに思念が寄るファクターになのか知りたくてね」
「まあ、ゾンビに囲まれて逃げ出したんですけどね…」
「それを言われると情けないな。どうだ。再チャレンジする気は?」
「是っぽっちもございません。そんな暇が出来たら、みーちゃん抱っこして昼寝します」
「おお。ノロケかね。フレンド」
「話を戻しましょう」
咳払いをしてウーロン茶を一口、隣にあの子が居れば一緒に照れてくれそうだね。
「まあ、つまりだ。先ほどの廃工場の自縛霊だが、あの工場が無くなった後は何所に行くんだろうな」
「自分で特殊空間でも作り出すんじゃないですか?」
「入り口をぶっ壊されて永遠に隠居だがな。…無論、工場が解体される前に解体業者の社員が皆殺しになるとは思うが」
「うーん。難しいですね。自縛霊は死に場所を自分の縄張りにしますから、工場で死んだという明確なイメージの具現…。鎖で縛られていますし」
「ああ、だから、その工場が綺麗さっぱりとこの世から消滅した場合、その場所があった土地に居つくのか、それとも、一番思い入れのあった場所の破片と共に御引越しするのか、果てはばらされた工場の破片の数だけ存在が分散するのか。一番都合が良いのが、その場所と共に綺麗さっぱり消滅だがな」
「3番目の仮設ですと、至る所から小型化したあのダルマが出てきそうでヤだなぁ」
「いやいや、個人的には3番目の説に正解希望を一票だぜ? つまり、例えばだが、お前のゼファーをあの場所に持って行って、「○○工場所有」と書いて、持ち主のお前が寄与を認めれば、晴れてその場所の一部、テリトリィの1つ、ヨリシロカケラに早代わりだ」
「人のバイクを勝手に変なモノにしないで下さい。と言いますか、仮説4が一位じゃないんですか」
「まあ、な。テリトリー全部ミサイルでぶっ飛ばす事態になるの目に見えてるし。…とにかく、3の仮説、これが黒ならば、自縛霊限定で、戦闘がグッと楽になる」
「寄り代となる場所を解体して持ち去って、霊の力を拡散させると?」
「ああ、霊に数学が通じるかは知らないが、100を分散させるのに、コンクリートブロック99個をその場でテリトリィ化させ、別方向に全部持ち去れば、対等的な配分で戦闘能力1の雑魚を百回蹂躙虐殺する素敵事態が発生するかもしれないぞ? 手間が問題と言えば問題だが」
「と言いますか、コンクリートブロックが飛んでった場所全部がテリトリー化したりして」
「そう言うなよ。百個は無しにしても、戦闘能力100の相手が99と1になれば、違うんじゃないか?」
「理論はもう良いです。つまり、貴方はあの工場に何を探しにいったんですか?」
「炭だな」
「すみ?」
「ああ、人が場所の一部になるには、腐って土に混ざるか、炭になって建物の炭と混ざり合うくらいしかないだろう。それを持ちかえって詠唱銀と混ぜて見たかった」
「……一人でやって下さいね。と言いますか、一番の疑問は、そもそも何で一般人の方を追い返さなかったんですか」
「そりゃお前、常識人が居れば、世界結界効果で自縛霊の出現を遅らせられると思ってな。出来なかったが」
「………………・・何か居付いてること、知ってたんですか?」
「勿論だとも、情報の事前収集は基本だからな」
開いた口が塞がらないというのを経験した瞬間だった。
小難しい話を永遠を繰り返し、ボクが自宅の駐車場でバイクを停止させた時には既に朝型になっていた「もう走らんぞ」と言った感じで不機嫌にマフラーから排気ガスを吐き出し、愛車君は眠りについた。お疲れ様でした。
その時からしばらくの間、無駄遣いしたガソリンの清算を無理やり合わせる為にバイクを使ってなかったのだが、その為に、その時の無茶苦茶で、愛車君がイカレていたのに気が付かなかったのだ。
よりにもよって、遅刻寸前の朝にキーを捻った際、断末魔の悲鳴のような音を立て、そして、彼は永遠に沈黙した。
なんてこった。
あの時…。アイツ(雄介さん)を降ろせなかった俺の甘さが…。
お前を殺した…!!
⑥ ガードランサーの空回り ~アルゴリズム編~ に続いたりする。
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