ハチャメチャな警察官・両津勘吉を主人公に、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の看板漫画として長く愛された「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が、1度の休載もないまま、40年の歴史に幕を閉じた。
最終話を掲載したジャンプ42号とコミックス200巻が、17日に同時発売。
サヨナラから1週間あまり、“両さんロス”に陥っているファンも多いようだ。

「特装版」と「通常版」の2パターンで出版された200巻は、売り切れ店が続出。
特装版は20・7万部、通常版は3・8万部の売り上げを記録した(オリコン調べ)。
こち亀のコミックスとしては、過去最高セールスだった164巻の12・1万部を大きく上回って、有終の美を飾った。

“終わりの始まり”は突然だった。
今月3日に東京・神田明神で、連載終了が電撃発表された。
もともと、原作者・秋本治氏が手掛けた絵巻物の奉納式として、マスコミには取材案内が送られており、終了発表の事前告知はもちろんのこと、『重大発表あり』などのあおり文句も、一切なかった。

出席者は秋本氏と集英社スタッフのみ。
タレントはいなかったため、芸能マスコミの数は少なかったが、私は“世紀の発表”に立ち合うことができた。
あの日の衝撃と、秋本氏が見せた人情味を振り返る。

厳かな雰囲気の中、全長8メートルの絵巻物の奉納を終えた秋本氏は、会見を開いて報道陣と質疑応答。
この時点でも、連載終了については伏せられていた。
「どれくらい連載を続けて、2020年の東京五輪ではどんなストーリーを描きたいか?」。
今思えば間の悪い私の質問に、秋本氏は「日暮は出したいですね。
今年は無事に出ましたので」と返答。
4年に1度、五輪イヤーに登場する名物キャラクター「日暮熟睡男(ひぐらし・ねるお)」の名前を挙げ、構想を明かしたこともあり、連載が4年後も続いていることに疑う余地はなかった。

ほかの記者からは「最終回について考えてますか?」という質問も。
秋本氏が「ギャグ漫画の最後を考えてると言うと、どういうギャグですか、となりますから。
両さんが昇進したら、とかは考えてないです」と答えて、“ポーカーフェース”だった。
その後、「週刊少年ジャンプ」瓶子吉久編集長が関連商品のPRをして、会見は終了…と思いきや、編集長の口から「40年の連載に幕を閉じることになりました」と仰天報告が飛び出した。

ざわつく会見場で、再びマイクを握った秋本氏は、「ビックリさせて申し訳ないんですけども…さっきも『いつまで続きますか?』と聞かれて、心苦しいです」と第一声で謝罪。
「40周年をお祝いされ、おめでたい日に、僕からじかに作者の声で話そうと思って、今日集まっていただいたので発表になりました」。
神田明神はAKB48が毎年、成人式の舞台としているが、お株を奪うようなビッグサプライズだった。

会見を終えて退室する際、秋本氏はわざわざ私のそばまで来て、ひと声かけてくれた。
「本当に申し訳ない!!。
日暮出せなくてスミマセン」。
ドッキリにはめられたような感覚だったが、おわびの言葉を何度も向けられることで、下町人情を描いてきた漫画家の温かな人間性に触れた気もした。
記者冥利(みょうり)に尽きる取材になった。

もともと40周年記念で、9月はこち亀イベントがめじろ押しだった。
ラサール石井が両津役の舞台が、東京と大阪で上演され、8年ぶりにテレビアニメも放送(すでに終了)。
東京・日本橋高島屋では、「こち亀展」が開催された。
この展覧会の目玉は、“もうひとつの最終回”を読むことができること。
秋本氏の21ページの書き下ろしが特別展示されている。

ジャンプ掲載の最終話は、笑いにあふれるこち亀らしいオチだった。
対照的に「こち亀展」書き下ろし作品のタイトルは、「想い出」。
両さんと主要キャラの絆が描かれ、“離れていても心はつながっている”と感じさせる展開は、読者と両さんの今後の関係のようで涙を誘う。
さらに最後のコマの欄外には、スタッフに向けた秋本氏のメッセージが、さりげなく添えられている。

感動ストーリーが味わえる「こち亀展」の最終日は26日。
惜別の思いが加わった、こち亀イベント月間の“グランドフィナーレ”にもなる。
くしくも同じ日に、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が掲載されていないジャンプが、40年ぶりに発売される。

(デイリースポーツ・丸尾匠)