寝てしまえば今朝のことが強烈過ぎて夢にまでゴリラが出るんじゃないか?
でも出てきたところで何もないし、どうせ夢なら一発ぐらい殴ってやろう。
そう誓って俺は冷たい布団にもぐりこむ。
目が覚めてからも、しばらく布団の中にいた。
気がつくと2度寝…いや正直に言おう、3度寝をしていたことに気がつく。
さっき昼間だったのに、もう夜中だ。頭が痛いから寝たのに、今度は寝過ぎで頭が痛い。
そういえばなんか夢に黒い物体が出てきたような…そう、ゴリラみたいな。
…ゴリラ。
さすがにもうゴリラはいないだろうと庭を見に窓の前に立ってみる。
…先に部屋を明るくしたから窓の反射で外がよく見えない。そもそもゴリラって黒いし夜じゃ目立たないよなあ。
よし、もう寒いしいい。明日の朝に回そう。
「ゴリラより先に人間様の食事じゃい」
一人しかいない台所にやたら響く自分の声。しかもそれが明らかにすべるようなネタ。ネタって言うのも恥ずかしい。
消したいけど一度言ってしまった以上耳から消滅するのを待つしかない。あれだな、自分の痛い過去がまた一つ増えた。地味に。
いやあ、虚しいという感情を辞書を引かずとも身に付けた俺ってすごいわ。
いつもならいる家族も、今日はクリスマスがどうのこうので外出している。
長年家事担当だった俺は家に一人でも何も痛くない。あれ、でもクリスマスってなんだっけ。
まさかクリスマスをゴリラと一緒に過ごすなんて誰が知っていただろうか。少なくとも俺は自分の人生にそういう意味不明な出来事ことはないと思っていた。
勝手に人生の設計図組み立てるもんじゃないなーとか思っていると、急に携帯が震えた。
なんだよ、俺は今夕飯の準備中だぞ。
でも心やさしい律儀な俺。携帯を開くとメールが来ていた。
『夕飯は好きに食べてね。あとあんたのお土産は料理本です 母』
この俺に対するあてつけがサンタさんからのプレゼントだとしたら、俺はキレる。
クリスマスに一人分の夕食を準備しながら、もういっそゴリラでもいいから相手をしてほしいと思った。
この二日、ゴリラを庭で見てから初めて自らゴリラが恋しくなった瞬間だ。
後にも先にもこんなことは二度とない、と、思いたい。
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