紗絵子さんと同棲し始めてから、爽太はもう、えれなと二人でいた時、どんな気持ちだったのかも思い出せない。
あの頃は現実になるとは思っていなかったから。
でも、紗絵子さんが何を考えているのかわからないから、抱きしめている時でも孤独。
六道は、えれなから話を聞いて、相手の男が爽太だとは夢にも思わず怒りまくる。
えれなは「元々、彼女ではなかったのだから自分は怒れる立場ではない。彼にとって私は、その程度の相手だったって事だと思う」と言う。
そんな、えれなを六道は「チョコレートって元々は薬だったのよ」と言ってチョコレートを食べさせて励ます。
そして、今度、えれなが出るファッションショーの招待状を、その男に渡すようにとアドバイスした。
六道は「その男がノコノコ現れたら、髪の毛を引っこ抜いてやる。呪いをかけてやるわ」と言って、えれなを元気づけてくれた。
その時、えれなにチョコレートを運んだ関谷は、薫子のメールの文面を思い出して、
あれから、爽太・人妻・えれなの恋が、逆方向へ進展してしまったのだなと思う。
翌朝、薫子が、ショコラ・ヴィの前の道を掃除していると、えれなが現れた。
「爽太君、もう来てますか?」と聞くえれなに「…いますよ」と薫子が答えると、
えれなが店内へ入ってゆこうとするので、薫子は「営業時間外なので入らないでもらえますか」と言い、
それを止める。
そこで、えれなは薫子に謝り「今度、私が出るショーの招待状を渡したくって…」と事情を話す。
仕方なく薫子は、爽太が一人ではなく、転がり込んできた本命の人妻と二人で一緒にいる事、
もう二人は寝食を共にしていて今もいちゃついているかもしれないので、入ったら邪魔になるかもしれない事まで、ズバッと教える。
えれなは萎れるように俯いて「…そうなんだ」とポツリと呟く。
「お友達なのに(←薫子なりに気を遣ってセフレなのにの言い替え)ちゃんと話してもらえなかったって酷いですね」
けれど「はっきり言ったら私が傷付くだろうって気を遣ってくれてたんだろうって思うし…」と爽太を庇うような事しか言わないえれな。
そんな彼女に「バカなんじゃないの?!」と辛辣な言葉を浴びせかける薫子。
そして更に「そうやっていい子な態度、貫いたって、結局は彼女に負けたじゃないですか!
無駄なんですよ!結局ずうずうしい女が勝つんだって!」と吐き捨てるように言う薫子であった。
「そうかもしれないけど…」と萎れたままのえれなは薫子に一礼すると
「ありがとうございました。爽太君の事を教えてくれて、よくわからない状態でいるのが一番キツかったから、事実を教えてもらえて良かった!」と言って
去った。
その後、薫子は爽太をアホ王子に例えて、オリヴィエ・トレルイエ(溝端淳平)に、
シンデレラの王子の従者の立場からの愚痴を言う。
「私はガラスの靴を叩き割ってあげたんだよ。正しい事をしたんだよ」と言う薫子に、
「ガラスの靴を叩き割った従者は、正しくても間違っていても、色んな事をよくよく考えた上でしたのであれば仕方ないし、それでいいと思う」と言ってくれた。
紗絵子は、爽太とベットでいちゃつきながら
「落ち込んでいる時にバックバック食べられて、気分がよくなるチョコレートを作って下さいな」と頼む。
爽太は、もう自分の気持ちを抑えずに、好きなら好きと言ってもいい今の環境に満足しながらも、
「この恋が罪なら紗絵子さんと俺はもう共犯者なんだ」と、恋の罪に酔いしれていた。
爽太は、早速「バックバック食べられるチョコ」という紗絵子の希望を商品化しようと構想を練り始める。
それを厨房でみんなに相談して「新作のチョコバーでいこう」と話が纏まるが、またしても紗絵子の要望とわかり薫子は不愉快だった。
薫子には、店に人妻を住まわせて爽やか笑顔でいられる爽太の神経も、
平気な顔で人の職場をチョロチョロしている紗絵子の神経もさっぱりわからなかった。
ショコラ・ヴィの風紀は乱れっぱなしで、このままでは店の将来も危ぶまれる事から、
まつりと相談して「二人で協力して紗絵子さんを追い出そう」と決める。
この時の薫子の脳内では、吉岡が爽太の略奪愛に怒って、雑誌に暴露を書き、その結果ショコラ・ヴィは潰れ、
爽太はホストに身を落して…でも、そんな爽太を自分だけは見捨てずに「一生支える」と宣言し、
ようやく爽太も薫子の愛情の深さに感激し、二人は固く結ばれるという妄想が展開されていた。
だがそれは陳腐の極みな妄想だという事は自分でもわかっている。
しかし…その後、オリヴィエとの事を相談するうちに、
まつりは紗絵子の名恋愛アドバイザーぶりにすっかり懐柔されて、薫子の紗絵子追い出し作戦は、
呆気なく頓挫する。
紗絵子に相談した結果、まつりとオリヴィエは春休みに、京都へお泊り旅行をする事に決める。
人の恋愛相談には適格なアドバイスが出来る紗絵子なのに、彼女自身の恋愛観は依然、謎のままであった。
爽太すら未だに、紗絵子が、自分の事をどう思っているのかわからないのだが、
爽太は、それでも未だに、その核心の部分を紗絵子に聞く事が出来ないままでいた。
紗絵子と毎日一緒にいられる事は夢のようで嬉しいが、彼女の本心を計り兼ねている今の状況は不安で、
抱き締めていても一人でいる時以上に孤独を感じていた。
えれなといる時には、こんな気持ちにはなった事がなかった。
それは互いに何でも話し合えて、その時々のお互いの気持ちをよく知っていて共感、共有が出来たからなのだが…。
薫子が小動DNAの壊滅状況に落胆していた朝、もう忘れていた関谷からのメールのレスがようやく来た。
ところが、文面は「くわしく」とそれだけ。
関谷は、爽太と紗絵子とえれなの三角関係がなぜ、このような顛末になったのか?という部分に興味を持っただけのようだ。
薫子は何週間も経ってから届いたその4文字にムカついてならない。
ついに吉岡が紗絵子の消息を聞きにショコラ・ヴィを訪ねて来た。
爽太はホワイトデーの前日を最後に、紗絵子には会っていないと嘘をつくと同時に二人は腹の探り合いをする。
だが、この時吉岡が、爽太が紗絵子にホワイデーにあげたチョコレートを一緒に食べたという嘘を付いたので、
爽太の心の中に再び紗絵子に対する不信感が広がる。
しかも、紗絵子は、
爽太が、吉岡が店に来た事を告げると
「ごめんね。爽太君、巻き込んじゃって」と言い、爽太は再び自分が紗絵子にとって、
ただの外野としか思われていなかったと知らされたような気になる。
いてもたってもいられなくなり、遠回しに紗絵子の心中を探ろうとして「そろそろ帰った方がいいんじゃない?」と
心にもない事を言ってみる。
もし紗絵子の気持ちが自分の方にあるのならば「帰らない」と言ってくれるのではないか…と一抹の期待を込めて言ったのだが、
爽太の儚い期待は呆気なく敗れ去った。
紗絵子の細かい事情を何も知らなかった爽太に「
爽太君とはそんな話するような関係じゃなかったからね」と言った紗絵子の一言が爽太の心を凍りつかせた。
「明日帰るよ。今まで、ありがとね」
背中を向けたままで、そういう紗絵子に「突き放さないでよ!」と訴えかける爽太。
振り向いた紗絵子の顔は表情もなく知らない人のようだった。
紗絵子の事を知る事が出来なくても、紗絵子がどこの誰でも、結婚していようがいまいが、
自分がどんな仕事をしてようが、この恋が正しいとか間違いとか、
もうそんな事どうでもいい…ただ、俺は恋をしている…と、
理屈で考える事をやめて、ただ自らの恋の中に漂うだけの男になってしまう。