★智笑ポエム「早苗饗さなぶり」(おうちに帰ろう)
テーマ:智笑ポエムこんな濡れたやうなピアノの曲が奏でられると
垣根に一斉にアカメモチの秀先ほさきが輝きはじめる
高圧線の下をツバメが飛び交う
山の麓に続く田の田ごとに
青い空と雲とが映り
田植え機に乗った男性がしづしづと苗を植えてゆく
家から走り出た五月女さおとめは苗を軽トラから降ろし
田の畔に腰を下ろすと携帯を広げた
長い長い暗号をどこか知らない国に向かって打つのだ
田ごとの蛙
遠田のかはづ
下の方で鳴き出すと上の山の麓の瀬戸際まで
それこそ一斉に鳴きはじめる
あゝ、喜んでいる
無性に、
嬉しくてたまらない
ピアノ曲が濡れた音律を奏でると
ひとつひとつが確かになる
苗の列が水面に光り
微かな風に身震いする
村の上に続く長い長い一本道に
高圧線の鉄塔の下をツバメが飛び交ひ
アカメモチは赤々と輝き
すべてこの季節に
緑緑も明らけくなってきて
地に働くすべての人たちに
嬉しき気持ちが
湧きあがる
急に、
この歌を唄いおはったら
家に帰らうと思ふ
この歌を唄いおはったら
家に帰り牛の世話をする
お祈りもする
アカメモチが輝きだす
ピアノの濡れたやうな調べ
高圧線の下にツバメが飛び交い
しつしづと苗が植えられてゆく
このとりまく空と田と景色と
すべては良からうと思ふ
携帯からのお返事だった
倉石智證









