『トゥクトゥク!トゥクトゥク!』
メコン川を渡ってすぐの場所にある緊張感ゼロのイミグレーション。
さすがに京ちゃんとイサオの二人も要領が分かって来た様で、適当に書いた入国審査票で無難に再入国完了。
さあ、果たしてこれからメーサーイ行きのバスがあるのかというところなのだが…
『トゥクトゥク!トゥクトゥク!パイナイカップ?(トゥクトゥクはどうだ?どこに行く?)』
『メーサーイ』
『メーサーイ?マイミーレェーオ!(メーサーイ?もう無いよ)』
トゥクトゥクのさえない運転手が指差した、看板に書いてあるバスの時刻表。
メーサーイへの直行バスが無い事くらいは知っていたので、とりあえずチェンラーイまで出れば何とかなると思っていたのだが、やはり考えが甘かった様だ。
あと少し早かったらというところで、チェンラーイ行きのバスは既に終了していた。
沈めたろか、渡し舟。
『しゃあないなぁ、今日は泊まるか、チェンコーンに…』
『!!!!!』
『イェーイ!ラッキー!』
思った事を迷いも無く口に出すカオリと、口には出さずとも小さくガッツポーズでもしそうな安堵の表情を浮かべる京ちゃんとイサオ。
そりゃそうだろう、今日はみんな朝四時半から起きているのだ。
ま、薄々だったがこんな事になるんじゃないかという気がしていたオレは、こういう時のためにプランBを考えていた。
ビエンチャンやルアンパバーンでも達成出来なかった当初のミッション。
そう、「日本人宿」と呼ばれるゲストハウスに泊まる事である。
『ネットで調べといたんやけどさ、ここら辺にヒロコさんっていう日本人女性が嫁いでて、パパイヤヴィレッジっていう名前のゲストハウスを経営してるらしいんだわ。
部屋数が少ないとか何とか書いてたと思うんやけど、とりあえず行ってみっか?』

『パパヤーゲスハーオ、ルゥマイ?(パパイヤゲストハウス知ってる?』
『ルゥルゥ、ヒロコー!(知ってる知ってる、ヒロコね)』
『チャーイ、ヒロコー。パイ、パパヤーゲスハーオ、タウライカップ?(そう、ヒロコ。パパイヤゲストハウスまではいくら?)』
『80バーツ』
舐めてんのかコイツは?
場所が分からんから一応値段を聞いてみただけなのだが、こんなクソ田舎の近距離でもぼったくろうとする根性が気に喰わん。
『要らん。どっちだ?』
『あっちだ』
結局、歩いて5分くらいの場所に見つけたのだが、コイツらトゥクトゥクドライバー連中の頭の中は、一体何が詰まっているのだろう(何も詰まって無い)?
バンコクやアユタヤーみたいな観光都市じゃあるまいし、こんな狭い街でぼったくったりしたら連れて来てもらったヒロコさんの方が気が悪いと思うのだが…
ま、それを言えばキリが無いか。
そこはやっぱりタイ人だ。トゥクトゥクの運転手なんかにろくなヤツはいない。
『あ、コレかぁ?』
進むにつれてどんどん寂れて行く様な田舎道。
ぼんやりしていたら見落としてしまいそうな民家の前に、パパイヤヴィレッジと手書きで書かれた看板はあった。
『サワディーカップ、ヒロコー、ミーマイカップ?(こんにちは、ヒロコさんいますか?』
『ミー(いる)……〇×#▲◎□◆■▽!!』
民家のテラスみたいな場所で作業をしているタイ人のオバハンに声を掛ける。
特に愛想がいい訳でもない所をみると、この宿とは何の関係も無いのか?
とにかくこいつらは他人の家だろうが何だろうが、知り合いの知り合いとかいう強引な理由でメシまで食って行く様な人種なのでよく分からんが、とりあえずヒロコさんを呼んでくれている様だ。
『こんにちは~』
『あ、は~い…』
メコン川に面した斜面の下にある、これまた手作り感丸出しの共同スペース(?)。
そこからネットで見覚えのある顔の日本人女性から、何となくちょっと困った様なリアクションの応答が返って来る。
『すいません、部屋は空いてますか?』
『………』
下の共同スペースに座ったまま、何やら誰かと話しているヒロコさん。
どうでもいいけど挨拶くらい返してくれ、オレ嫌いだから、そういうの。
『あの~、何名様ですか~?』
『4人です』
またしばらく間があった後、やっとという感じでこっちに向かって斜面を上がって来る、なでしこキャプテンの様な感じのヒロコさん。
横に幼い子供を連れているがお子さんだろうか?
『すいません。あの~、部屋はあるんですけど、一つしか空いてないんですよ。そこに4人イケない事もないんですけど…。
元々四部屋しか無いんで…』
(あぁ…やっぱりアカンかぁ。
そういえば四部屋しか無い様な事が書いてあったな~…
ま、しゃあないか、予約してた訳でも無ぇし…
それよりヒロコさん、
お子さんなんですけど大丈夫ですか?
さっき石段の所で思いっ切りズッコケて頭を強打してましたが、打った時に変な音がした気がするんですけど…)
『あ~、じゃあ他を当たってみます。ごめんなさい』
その時だった。
『すいませーん!あのー、誰かタバコ吸う人います?』
ヒロコさんと下で話し込んでいた若い日本人の男。
坊主頭にガッシリとした身体つき、この田舎町には不似合いな金のネックレス。
学生には見えないが、挨拶も無しにいきなり話し掛けて来る所をみると、ただのバカパッカーだろう。
『はーい!』
バカにはバカが呼応するのか、馴れ馴れしいバカ男の呼びかけにすぐ反応するバカ女。
どうでもいいけどイサオ、何でオマエがタバコ恵んでやってるんや?
サッサと仕舞え!アホか貴様は。
『アハハ、何かすいませんねぇ。
いきなりタバコだけ貰う格好になっちゃって』
プツン
『行くぞ、こんなバカ相手にすんな』
来た道とは逆方向へ歩きながら、さっきから怒りのプルプルが止まらないオレ。
溜まりに溜まったストレスのせいもあるにはあるが、オレはああいう無礼なガキを見るとブン殴りたくなるのである。
『オマエも何であんなヤツにニコニコしながらタバコなんか恵んでやってんねん!
日本で同じ事されたらどないすんのや?やる訳ないやろが!
挨拶も出来ひん様なクソガキなんかコジキよりタチ悪いんやから物なんか簡単に恵んだりすんな!
一本売るか自分で買って来させたらエエねん。
アホかっ、オマエは!』
『わわわわ分からなかったんで……』
『ごめんなさい。アタシが最初に返事しちゃったから…』
『チッ……』
ガキが旅に出て調子コキたくなる気持ちは分かる。
それは多分、欧米人のガキの方がもっとタチが悪い。
が、日本のガキのアホなところは、海外に出たらこういう事もアリだと勘違いしてしまう所だ。
イサオにも言ったが、日本にいる時に同じ様な真似をするか?普通。
身体ばっかりデカくて脳みそガキなヤツは保護者同伴で旅行しろ!
クソが。

反省中のイサオちゃん。
が、顔がニヤけてる。
めっ!