『ウエッ!!何やここ、汚ったねえなあ~もおおお~っ!!』
少ない・マズい・愛想悪いの三拍子揃った店を出て(多分、スリウォンホテル前にあるDUKE'Sという店)、チャンクラン通りとロイクロー通りの交差点を少し北に向かうと、夜はカレーナイトバザールで賑わうビルの前辺りに一軒だけ屋台だか食堂だか分からない朝メシ屋が出ているのだが、ここで働いているタイ人というのはゴミ箱という文明の利器を知らないのだろうか?
とにかく残飯という残飯をテーブルの下から横から撒き散らし放題なのである。
『ウエ~ッ…よくこんな場所で平気な顔して食えるなぁ…
生ゴミ臭もハンパねぇぞ』
『ススス、凄いれしゅねぇ~…』
『こりゃ無理やな。よし、やっぱりハンバーガー買って帰ろうや、京ちゃんもハンバーガーなら喜んで食うやろ』
チェンマイのナイトバザールに行った事がある人なら、スリウォンホテルと、ル・メリディアンホテル前の交差点にあるバーガーキングとマクドナルドが目に浮かんで来るだろう。
ここら辺の早朝というのは、旧市街にあるゲストハウスエリアとは違い本当に食べる場所が限られている。
あの夜の賑わいは一体何なんだろうか?
『あら?まだ営業前なんやろか?』
バーガーキングのドアを開けるも、静まり返った暗い店内。
従業員らしきタイ人二人が、突然入って来たオレ達の姿を見て、何やら気まずそうな表情でこっちを凝視している。
朝っぱらからチョメチョメな事でもしてたんか?アンタら。
『ソーリー…』
『Close?…何や、ほな閉めとけや…。
しゃあない、マクドナルド行こか』
何かおかしい。
何だか分からんが、何かおかしい。
『あれ?マクドも暗いやんけ。でも客はおるなぁ…節電中か?』
『エエエ、エアコンも入ってないスねぇ…あっつ~』
『まぁエエやん、持ち帰りなんやし。
ええ~っと、オレはチーズバーガーにしとくか…ってマフィンとかしか無ぇな、しゃあないか。
すいませ~ん、このマフィンのセット二つと~…』
『Sorry もうアップルパイしか出せないんです…』
『へ?でも、今の客、マフィン買うてたやん』
『あれで最後なんです』
『どういう事?』
『ア~…、Power、Power Down…』
『パワーダウン?………あ!もしかしたらさっきの雨で停電してんのか?
Black Out?』
『イエースイエース!Black Out!
Too much rain』
『ああ~、やっぱりか。
それでバーガーキングの方も暗かったんやな?
あ~あ、しゃあないなぁ…』
タイの田舎というのはウンザリするくらい停電が多い。
その原因の八割方が雨によるもので、雨期になると下手すれば一日一度はブレーカーが落ちる始末である。
『しゃあないな、帰り道に何か探してみるか』
それにしてもチェンマイという街は不思議だ。
これだけ大きなホテルが建っていたり、ゲストハウスが乱立するほど観光客が押し寄せる様になったロイクローでさえ朝の屋台が出てないのは、バンコクなんかと違ってイマイチやる気が無いのだろうか?
ラオス並に店が出てねえぞ、マジで。
『あ!アソコに屋台あったの忘れてたわ』
ロイクロー通りとカンパンディン通りが交差した所を少しだけ北に入ると、四軒ほどだけだが昔から屋台が出ているのを思い出すオレ。
強く降り出した雨で忘れていたが、そうそう、この辺りで屋台と言ったら夜中でもここくらいしか無かったはずだ。
『あ~、あったあった!
何で通り過ぎてたんやろうな~?
ホレ、チャーハンやろうがラーメンやろうがレバニラやろうが何でもあるぞ!
いや、レバニラはどうか知らんけど、夜と同じメニューで一通り揃ってるわ、何にする?』
『ジュジュジュ、順さんは何食べるんスか?』
『オレ?オレはバミー(ラーメン)』
『ままま、またラーメンすか?』
『さっきのはライスヌードルやろ?
オレあんまり好きやないねんなぁ…
やっぱ麺は小麦やろ』
そうなのである。
オレはあのフォーとかラオスのカオソーイとかの米麺を、どうしても美味しいとは思えないのだ。
な~んか食い足りないというか、あっさりし過ぎて腹の収まりが悪いのである。
『じゃじゃじゃ、ボボボ僕も同じでいいです』
間もなくしてオレ達のテーブルに運ばれるバミー・ナーム。
この屋台、前にも何度か訪れているが、相変わらずタイの屋台にしては量が多い。
つか、ワンタンだのつみれだのチャーシューだのと、具もかなりのボリュームである。
『ありゃ?前はこんなに香草とか入ってなかったと思うんやけどなぁ。
これじゃラオスのカオソーイやんけ。
まぁエエか、どれどれ……うん、マズい。
こりゃ唐辛子山盛りにせんと食えへんわ』
真っ赤に染まっていくスープを見て、突然警戒の目付きになるイサオ。
それもそのはず。この旅に出てからというもの、イサオは毎日の様にオレが差し出す激辛唐辛子に悩まされており、ヤツの肛門は破壊される寸前の所まで来ているらしいのだ。
『大丈夫大丈夫、自分の分しか入れへんって。
…でも、ちょっとだけ味見してみ?』
『ええ~っ………ズズズッ……プガッ!オウエッヘ!ウヘッ!ウヘッ!……かかか、辛いスね~。
またケツが…』
『ウハハハハハハッ!これ全部飲んだら、今日のバス移動は地獄になるな~、ウハハハハハハッ!
………おい、イサオちゃん…』
一瞬にして汗まみれになるイサオに爆笑しながらも、オレのコンドルの様な目はそこに訪れた一人の日本人女性の姿を捕らえていた。
歳の頃は30代前半て所だろうか、しかもなかなかの美形である。
『アー、ウーン…え~っ…と、ホワット・イズ・ディス?』
(あーどうしようかなぁ?説明しに行ってやりたいけど、ナンパと思われへんやろか?つかナンパなんやけど、う~ん…)
『Fish ball』
『ん??』
(フィッシュボールも分からへんのかいな?
もお~、言ってくれれば朝から晩までマンツーマンでレッスンするのに!
肩寄せ合って…)
『Soup Noodle?』
『あ~、はい!イエス!スープヌードルプリーズ』
(このオバハンもホンマに気が利かへんなぁ。
ここに一人だけおるやんけ!
タイ語で注文出来るジェントルジャパニーズが!
こっちに振ったらんかいっ!
お釣りは要らんからっ!)
長い節性を強いられているイサオの気持ち…
それが、ほんの少しだけだが分かった様な気がした。
あ~あ、普通にナンパ出来る男になりたいなぁ~…

分からんなぁ。
誰と連絡を取ろうとしているんだろう。
つか、女の子ってナンパされたら嬉しいんかな?
としたらナンボでもするで、イサオ先生に任せて。