pierce

平成23年5月28日開始!
異世界迷い込み系の、アクションあり、ラブあり?な物語です。
予定では、週1回更新です。


2012.01.07 4.その力、未知数(5) 更新

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 固くつぶっていた目をおそるおそる開け、九条倫子は自身を庇う日比野ユウキの背中ごしに、今起こったことを確認した。佐川露樹が力一杯押しているのに両者に動きがないのは、日比野ユウキが手にした何かで攻撃をしっかりと受け止めているからだ。だがそれも、彼の腕が小刻みに震えているので防ぎきれるのは時間の問題に思えた。

 武器どころか、防具すら持っていなかったはずだ。

 九条倫子が初めて少年を発見したときから、Tシャツの上からパーカーをはおっただけのカジュアルなジーンズ姿で、荷物は持っていなかった。若者がよくやるように、財布はジーンズの尻ポケットに。そして時々、パーカーのポケットから取り出して確認していたものは──。

 彼の手にあるのは、手のひらに収まる大きさの、黒光りする、とてもよく見慣れたものだった。

「はい、時間切れー。答えは携帯電話で、し、た!」

 易々と攻撃を受け止め余裕綽々の少年を前に、佐川露樹は事態を把握できないのか、戸惑いの表情を見せた。その一瞬の隙をついた日比野ユウキの右拳が、彼女の鳩尾にきれいにきまる。

「く……っ!」

「相手が丸腰だと思って油断したら駄目だな。武器や防具になるものって、どこにでもあるんだ」

 むせる息を整えるべく一定の距離を保とうと離れかけた相手の腕を、日比野ユウキはしっかりとつかんでいた。

「だめだめ。短槍はこんなふうに使ったら。誰も倒せない」

「ふん、携帯がおしゃかになるほうが早い!」

「ならないよ。俺、コレで攻撃する気ないし。ただ……」

 九条倫子からは、少年が腰を低くして、佐川露樹と身体を接したかのように見えたが、果たして何をしたのかまでは分からなかった。

 気づいた時には、短槍は持ち主の手を離れ、少年の手の内にあった。

「へえ。これ、意外と重みあるんだな。よくもまあ、器用に振り回してたもんだ」

「返せ、それは私のものだ!」

「こんな物騒なもの、女の人は持っちゃいけないな」

「──戦闘神に向かって言うセリフではないな。戯言に過ぎん」

「そんなの、嫌だって断ればよかったんだ」

「誰が、戦闘神が嫌だと言った。何も知らないピアスごときに、指示される筋合いはない!」

「佐川露樹さん、あなたの太刀筋には殺意とか負の感情が感じられないんだ。そういうものが人を強くするとか、敵を倒す力になるとは思ってないけど……。佐川露樹さんの太刀には悲しみしかない。それじゃ、駄目だと思う」

「だから、貴様に指示される覚えはないと言っている!」

「──覚悟、できてるんだ? じゃあ、これは持ち主に返すべきかな」

 少年が白珠を差し出したその手に、とんできた白い何かが突き刺さったのは一瞬のことだった。


「ユウキくんっ!」


 九条倫子の悲鳴を帯びた叫びとともに、日比野ユウキと佐川露樹は何かの飛んで来た方向を凝視した。狭い路地裏の、とある古びた倉庫の非常階段に、彼らはいた。

「駄目だよ。君もピアスなら、KINGがどれだけ覇剣を欲しているか知ってるはずだろ? ソレはこっちに渡すんだ」

「一緒にいるのは九条倫子じゃない? その僕、新人の上にクアドラ側の人間ってこと? 面倒ね。覇剣のこと、まだ十分にレクチャーされてないんだわ。だったら、今の行為も仕方ないんじゃないかしら」

 日比野ユウキは短槍を自らの肩に立てかけると、手の甲に突き刺さった何かを抜いて、天にかざして仰ぎ見た。

「トランプだったのか。刃物じゃなくてよかった、これがナイフだったら、俺の手、使い物にならなくなるとこだった。当然、お兄さんは刃物も使う人なんだろ?」

 九条倫子は突然現われた襲撃者たち、黒いスーツと黄色いシャツに身を包んだ男女の二人組をよく知っていた。声の主に向かって笑顔を振りまく少年の厚かましい度胸が信じられず、声にならない悲鳴を上げた。

「理解は早いみたいだな。素直にソレをこっちによこしな」

「これは佐川露樹さんのものだから、勝手にお兄さんたちに渡すわけにはいかないな」

 言いながら、身体を少し動かして純白の短槍の重心を佐川露樹に向かって傾けた。自然と佐川露樹に向かって白珠は横倒れになり、そして静かに、彼女の手中に納まった。驚愕に目を見開く一同を尻目に、日比野ユウキは手にしたトランプをまっぷたつに破ってつぶやいた。

「もう……ホントムカつく! そういう自分勝手な態度ばっか続けてるから、ピアスだ後藤だで揉めるんだろうが! ちゃんと折り合いつけるべきじゃないのか!? いつまでもガキの喧嘩みたいにねちねちと!」

「──そう言うお前もピアスだろうが。なに、その中立的な意見吐いて偽善者ぶる根性──気に入らないな」

「やる気? いいよやろう」

「駄目よ、ユウキくん!」



To be continued.


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「ずっと思ってたんだけどさ。リンコさんって、ほんと、かわいいよね」

 振り向き様に突然そう言うなり、日比野ユウキの手が九条倫子の肩を力強くつかんで脇道へと連れ込んだ。

 予想外の相手に意外な言葉をかけられて、怯まない女はいない。九条倫子も、一瞬頭の中が真っ白になり、判断が遅れた。いつの間にか少年に手を引かれ、細い路地を走っていて我に返った。その時にはもう、逃げ道を失っていた。

 敵に気づかなかった落ち度は、新人ピアスを先導する役目を任されている、九条倫子にある。失敗を嘆く前に、二度目の訪問を果たした貴重な存在を危険に晒した自分に腹立たしさを覚え、九条倫子は舌打ちをした。そして、追いかけてきた敵に向かって、鋭い視線を投げかけた。

 なにか武器を持っているのはわかるが、逆光のせいで、それが何かわからない。敵は一人きりだった。どうにかして逃げ道さえ確保できれば、逃げ切ることも可能だと判断する。

「まさかその武器で斬るの? 私たち、誰にも害を及ぼしてないわよ! 無抵抗の善良なピアスに武器を向けるわけ?」

 敵の姿は黒い影にしか見えないが、着実にこちらへ近づいている。

「なんとか言いなさいよ!」

 弱者の喧噪にしか聞こえない叫びをあげるしかない現状に追いやられながらも、九条倫子は必死に敵の隙を伺い、逃げ道を探していた。だが細い小路の行き止まりでは、闘わずして逃亡する手段はないように思えた。


「リンコさん。俺、試したいことがあるんだわ。任せて?」


 そう言って、日比野ユウキは敵から九条倫子を庇うように立ちふさがる。

 影は、無言のまま、一歩一歩近づいてくる。

「初対面なんだし、一応自己紹介しよう。俺は日比野ユウキ。短槍使いのお姉さんは?」

 彼の言葉で、九条倫子は敵が女なのだとようやく理解した。ピアスを狩る女で、手には短槍を持つといえば、思い当たるのは一人だけだ。


「まさか、白珠のツユキなの!?」


「──私も有名になったものだ、下層のピアスにまで名が知れているとは」

 影がようやく口にした言葉は、最悪の状況を肯定するだけに留まらなかった。

「日比野ユウキ、貴様は何者だ? これまで対峙したピアスとは、なにかが違う気がする。なんだろうな、ずっと危険信号が点滅している気がする」

「だからさあ、名前。自己紹介しようって言ってるんだよ。こっちが名乗ったんだから、ちゃんとそっちも名乗れよ。礼儀は大切だろ?」

 置かれた状況をきちんと把握しているのかいないのか。日比野ユウキはやけに礼儀にこだわる。いや、自己紹介にだろうか。もしかして名乗り合った後にあのいたづらまでやってのけるのでないかと、内心焦りを覚える。

「──佐川、露樹。人は私を『白珠のツユキ』と呼ぶ!」

 吐き捨てるようにつぶやくと、白珠のツユキは手にした短槍を構え、二人に向かって突進する。

 危ないとわかっていながら、身がすくみ動けなくなっている九条倫子を尻目に、日比野ユウキが盾となり短槍の軌道を塞ぐ。

 武器も防具も手に持たない丸腰で覇剣の使い手の一人と闘うなど、無謀としか思えない。

 もう駄目だ、九条倫子がそう諦めかけた時。甲高い音が耳をつんざき、その後、場は瞬時に静かになった。静寂の中、日比野ユウキが得意げに言った。

「さあ問題です。これは一体なんでしょうか?」

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