【あなたが生きた街】市川昭子著が文芸社から出版の運びとなりました。
■下記のブログで作品をご覧頂けます。
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書店以外、ネットショップ多数でご購入頂けます。
【茜色のマリオネット】の連載を始めました。
美しいラヴェンナの街と穏やかな時間が流れる北イタリアの湖畔の村、
モルヴェーノを舞台にして二人の愛の軌跡を綴ります。
下記のURLは私の作品一覧です。
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■第12章■ 紗香の思い
紗香(さやか)は聞こえるはずのない“いいね?”という声で目が覚めたが、
部屋にはベルナルドも両親も看護師もだれもいなかった。
紗香はうつろいの中で風に揺らぐ窓のカーテンが気になり、
点滴のチューブを下げながらベッドから起き上がって窓辺に近づいた。
すると、少しだけ開いていた窓の隙間から煌煌と光り輝く
満月の輝きが目に飛び込んで来た・・・。
紗香は月の光を思いきり浴びたくなり窓を全開すると、
月明かりのシャワーと共に、まだ熱のある顔に夜風が当たった。
初夏の宵の風は、紗香に生きている実感を味わせたばかりではなく、
心地良さのためか、風の中に歓びを探す自分が見え隠れしていた・・・。
不思議だった。紗香は静寂の中で生きている実感を味わっている
自分が不思議で仕方がなかった・・・。曖昧な空気の甘さに惑わされている
ような、悦楽の境地に陥ったような・・・。そんな心地良さは
今までに経験をしたことがなかったから、不思議だった。そして、
しばらく考えた末、その不思議な感覚は、幸せの世界に埋没する
予兆であることに紗香は気が付いた。
今朝から続いていた落ち着かない気持ちの理由が
満月の宵の風の中で彷徨っているのに紗香は気付いた・・・。
それは風の中に隠れていたベルナルドの姿が見えていたからだ。
早朝、事故に遭ったあの時から心に焼き付いて離れない
ベルナルドの姿があった。理由はなにもない。
逢った瞬間から自分の身体はベルナルドに託すように
神様が仕向けていたのだと今、紗香は思っている。
運命的な出逢いを導くために神様は事故を引き起こしたのだとも
思い始めていた。馬鹿げている発想であっても、紗香は今信じて疑わなかった。
そして、まだ何も知らないベルナルドという一人のイタリア人男性に、
夢を見、自分の未来を見つめようとしていた。
寒さで現実に戻り胸元を合わせながら紗香は、再び満月を眺め、
日本では今日は中秋の名月だったかもしれないと思った。
そして、母の言葉を思い出し、夜空に向かって祈りと願いを捧げた。
「私に真実を下さい・・・。私の真実の世界はここにあるのですか?
ベルナルドにとても逢いたい、この気持ちは真実なのですか?
もし、そうであるなら神様、この気持ちをむげにしないで・・・。
今までずっと探していた時間がここに今あるのです」
ベッドに戻った紗香は、ベルナルドに恋をしている自分を認めた。
もしかしてとは思わず、はっきりと恋をしている自分を知った・・・。
初恋だったジュリオとの恋とは違って、密かに育まなければならない
ことも、直感的に感じていたから、先行きがどうなってゆくのか、
心配もあったが、今はベルナルドが残した甘い香りにすべてを託したく、
そっと目を閉じた。
目の中で背の高い青い目のベルナルドが、わがままを通そうとする自分の頭を
小突きながら、でも、黒髪を撫でて優しい笑いの中に自分を誘っている・・・。
病院を抜け出したあの時の彼の表情であることを思い出した。
そして、アパートの前で彼のくちづけを受けたときの、胸のときめきを
思い出した紗香は、軽い眠りの中でベルナルドにささやいた。
“私を愛して下さるのですか?あのくちづけは愛の証しなのですか?
もし、そうだったとしたら、私たちは愛し合うことができるのですね?
このまま愛し合い、幸せの時間の中で生きることができるのですね?”
しかし、遠い夜空の先から茜色の染まったのマリオネットの視線が
紗香とベルナルドの接近を拒むかのように、二人の前に立ちはだかっていた・・・。
紗香はカーテンで遮られた満月の光を再び見ることがなく、
再び熱に冒されたかのように、うなされながら眠りの世界に埋没していった。
★第13章に続く★
【あなたが生きた街】市川昭子著作がこの9月に文芸社より
出版の運びとなりました。皆様の応援の賜物と存じます。
ありがとうございました。
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