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2010-02-10 06:35:43

【碧いキャンバス】■第18章■“私の故郷”

テーマ:恋愛小説

■第18章■ “私の故郷”


あえて告げるような間柄ではなかったけれど、これを機会に、
マルコとの曖昧な関係をはっきりとした形で、
圭子自身が認識しておきたかったから…、
セルジオも彼との関係の聞く耳をもっていると思ったから…、
だから、帰りの車の中で圭子は未だ話していなかった
マルコとの関係をセルジオに告げた。


相思相愛の恋人同士ではないけれど、少なくとも単なる
友人ではないことを告げた…。同時にこの二年間、
彼の家族とも家族同然の付き合いをしてきたことも告げた。
その中で、お互いに異性として感じ合うこともあったけれど、
いつもそれよりもより強い家族のような愛情が見え隠れして、
彼は異性として愛の対象にはなりえなかったことも正直に話した…。


話し終えた後、第三者には理解し難い関係だけに、
セルジオがどう思うか気になった。
そんな圭子を優しく見つめたセルジオは
「二人の関係は圭子たちを少しの間見ている段階で、
僕には理解できていた。圭子が思っているように、
兄妹のような愛情が二人の間にあることを感じていた。
僕にはうらやましいほど仲良しの兄妹に見えた。
だからその後、僕はマルコの存在を気にしないで
圭子への思いを育てたるkとができたが…。
しかし、彼は心の片隅で女性としての圭子を
愛しているのではないかと思う…。
だから彼を無視して僕たちの関係は成り立たないし、
圭子の家族も含めて周囲の人たちに祝福されて結婚したい。
もしよければマルコには僕から話そうか?」
圭子はセルジオが話してくれればそれに越したことはなかったが、
自分たちの関係を聞かされたときのマルコのショックが解るだけに、
言い難くても自分が言おうと思った。


アパートの前まで来たセルジオは、車を止めて改まった口調で別れを言った。
「いずれ僕の家族と食事をすることになると思う。
日程が決まったらすぐ知らせるから、待っていてくれるね?
今日はこのままプレネスティ―ニへ戻って、ゆっくりと過ごすつもりだ。
本当に今日は幸せだった…。圭子と夢のような時間を過ごせるなんて
思ってもみなかったから、僕は今最高にうれしい…。今までの人生の中で、
こんなに気持ちが安らいだ日を送ったことがない…。
圭子に出逢えたことを神様に感謝しなければいけないね。
…圭子には心からお礼を言いたい。ありがとう…。
身体?大丈夫だ。もう大丈夫だよ。だから、この先、
なにがあっても僕のことは決して心配しないで。いいね?
約束をしてほしい…。何があっても僕を信じていてほしい…」
そう言って部屋に入る圭子を見届けて去って行った。


部屋に戻った圭子は、セルジオの顔が青ざめていたことが気になった。
それと今生の別れか長期間の別離が待っている
かの様な大げさな最後の言葉が気になった…。
そして、彼がなぜかこのまま遠くに行ってしまような気がした。
根拠はなかったが、僅か数日の逢瀬であったが、
プレネスティ―ニの丘でも、ローマのホテルでも、
いつだって愛の確認をする度に、
嫌な予感が脳裏を横切り、不安を募らせた…。
幸せの女神に会う度に、圭子の心には、
凍りつくような不安が襲いかかった…。
圭子はいったんはソファに身を託したが、心配の余りその場に
じっとしていられなり、すぐに立ち上がった。
そして、部屋の中を意味もなく歩き回った後、決心をした。
彼の声を聞いて安心したかったけれど、
運転中に電話を掛けることはできなかったし、
たった今別れたばかりで、電話を掛けるのも少しだけ
恥ずかしかったから、メールを書くことを決めた。


「あなたはもしかしてこのまま遠くへ行くつもりではありませんか?
なぜか私はそんな気がしてならないのです…。気のせいであればいいのですが…」
圭子は焦るあまり、短い文面で一通目のメールを送った後、
すぐに二通目をしたためた。
「もしかして、あなたは私に今のすべてを話してはくれなかったのでは
ありませんか?私との約束を破って、あなたの苦しみの中に、
一人だけで埋没しようとしていませんか?」
二通目は中途半端な形で、圭子の意思ではなく勝手に送られてしまった。
それでも言い足りなくて、三通目を書いた。


「あの碧い部屋に入ったとき、私はなぜかとても懐かしく思いました。
不思議な感情でしたが、それはローマのホテルで初めて会ったとき、
あなたの香りを懐かしく思ったそのときからの続きのような気がします…。
めぐり逢った最初のあの日から、あなたは私の生きる場所
だったって気がついていました・・・。
だから、あなたが僕の故郷だと言ったあの村を初めて訪れた昨日、
この村は私の故郷にもなるのかもしれない、
という予感さえ私には既にあったのです。
村もあなたも私には既にかけがえの故郷になっていたのです。
だからあなたと共にいるとどんなにか安らぎ、心が癒されることか…。
あなたといるとこんなにも優しく不思議な気持ちになるのです。
あなたは私の生きる場所だった…。だからお願い…」


圭子はメールを送信しながら、もしかして、手遅れなのかもしれないと思っていた…。
セルジオは最後の別れを言った後は、既に旅路支度をして去る準備をして
いるように見えたから…。
それを解っていながら、自分は止めることができなかったから…。
だから、圭子は今、とても後悔をし、哀しみの涙の中を彷徨い始めていた…。
そして、そんな自分にもどかしくなって、セルジオの携帯に電話を掛けたけれど、
何度掛け直しても電話にはつながらなかった…。


★第19章に続く★

【あなたが生きた街】市川昭子著作が文芸社より出版。

皆様の応援の賜物と存じます。

ありがとうございました。


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