スカウトの元締めのような社長はご機嫌だ。

強制的ではあるが、久々にこれだけの人を集められたのだから。

これの状況を楽しまずに、何を楽しめと彼に言えるのだろう。


「では、適当に空いている席に着け

あと20分で始めるからな」


視界の端で、恋愛音痴な俳優と愛を拒否するタレントがいつものようにじゃれ合っているのを確認し、片頬を上げる。


この研修は、彼らの為に思いついたもの。

最近、蓮のキョーコに対してのセクハラまがいのアピールを心配した声が社内から続々と寄せられている。

何故だか1/3は、蓮の好意を独り占めしているキョーコに対してのやっかみという歪曲思考も真っ青なもので性質が悪い。

もちろんその他の相談は、本当に心から彼女を心配する者達からだった。

そんな社員からの熱いSOSに、興味をそそら・・・・・社内検討しなければ!と勢い良く立ち上がったのはつい先程。


本音を言えば・・・

面白そうだから、もう少し放っておきたかった。

「撫でる」以上をしない、へたれた恋愛音痴が、「どう」最強のラスボスを屈服させるのかが、今年度の楽しみだったのに。

「楽しみ」を取り上げるとなると、やはりそれ相応の「何か」が欲しくなってしまうのは、人間の欲望。

それはローリィにとっても例外ではなく、この研修でひと騒動を!と意気込んで、壇上に上がっている。

伸るか反るかは、恋愛音痴の俳優次第。


(さて、どうしたものかな・・・)




**



「つ、敦賀さん!!ここに座ってて下さい」

「え?最上さんは?」

「わ、私は、ア、アシスタント、なんです!」

「ふーん」

「わかって頂けました!?」

「いや、俺、最上さんと一緒が良いから座らない」


にっこりとのたまう彼にキョーコは背中からの汗を止められない。


(私にどうしろっていうの!!???)

(良いじゃない、流されちゃいなさいよ。いつもみたく)

(いやいやいや、職場よ!?そんな破廉恥なこと出来ないわ)

(抵抗するだけ、無駄なんじゃない?)

(いやいやいや・・・)

(だって、逃げられないもの)

(・・・・・・)


「そうだよ」

「(・・・・・ッ!?)」

「うん、ばっちり声に出ていたね?」

「!!!」

「また社さんに心の声だだ漏れだってからかわれるよ?」


いや、声に出さなくなったらなったで、お金切れたのかと思われて200円突っ込まれるかもね?なんて言葉は、キョーコに届かず。


「座ってて下さい」

「い や だ」

「もう!子供ですか!?」

「立派な成人男性です」

「もー!」


少し思考を巡らせて、キョーコは軽くため息をつく。

やはり、自分は相当彼には甘いのだ。

我儘を受け入れる体制を整える為に、少し待っているように伝えると、ぴょこんと尻尾と耳が生えたように嬉しがる。


(か、可愛い。撫でくりまわしたい・・・!!)


セツカとして存在した愛玩欲求は、最上キョーコとして生きる今も、厄介なことに心にいる。

尊敬すべき大先輩なのだ。

なのだ、が・・・・・可愛いと思ってしまうし、カイン兄さんに触れるように甘やかして、甘えたい。

そんな欲求は蓮のあずかり知らぬところで、日に日に大きくなっている。

着々と本懐を達成しうる自分に気付かないのは、ラブミー1号に恋した哀れな男。


「では、ちょっと行ってきますので、ここのオブザーバーの席に座っていて下さい」

「はいはい」

「ちゃんと座ってるんですよ?」

「・・・良い子にしてるよ」


ご褒美頂戴ね、の一言は空気に溶け、無理難題を吹っかけようと画策する。


「ちゃんと、座ってて、ください、ね!」


最後にもう一度、しっかりと念を押して、プロジェクター操作の為に少し離れているローリィの元へと駆け寄る。

すれ違う人たちからの視線を感じるのは、先程の蓮とのやり取りを見られたからか。

それとも、訳もわからず着せられた、このスーツのせいなのか。

どちらにしても居たたまれない。


(この、ぴっちりしたスカートがいけないのよ)


少し歩幅を大きくすると、ぴんっと引きつってしまう薄いピンクのスカート。

下着の線が見えていないかどうか、とても気になる。

この研修の裏方に思惑通りに収まった奏江とのやり取りを思い出す。


(そのエッチくさいスーツ・・・敦賀さんに見つかるんじゃないわよ)

(・・・・どうして?)

(・・・・自分の身が大事なら、そうしなさい)

(・・・・?)


あの時はわからなかった。

わかりたくもなかったのかもしれない。

最近スキンシップ過剰な先輩の、更なる嗜虐心を誘うことを・・・・

しかし、今はそれを言ってはいられない。


誰かが犠牲にならないと、あの先輩は何をしでかすかわからない。

これは、今までの経験から。


そして何とかできるのは、多分、自分だけ。

これは、直感から。


後者を思いついた時には、なんとおこがましい!!と神に懺悔をした程なのに・・・

彼の特別・・・になれているかも、なんて思うと心が浮ついてしまう。

だから、このポジションは他の誰にも譲れない。


逸る気持ちを抑えつけ、ピンヒールで軽やかに人の波をかいくぐる。

研修が終わった後に、問題の先輩にどう食事を取らせるかを考えながら。







(早く、研修なんか終われば良いのに・・・)

















とぅーび-こんてにゅー*






******


ねぇ・・・・

誰かうちのキョコさんに蓮さんを不憫にさせる方法を教えてあげて。(´д`lll)

勝手に好きになっていくんだけど・・・・w


**用語解説**

ざっくり解説なので詳しくは、ぐーぐる先生へ。


・コンプライアンス

法律守るよ!社内ルール守るよ!企業理念は素晴らしい!

社会人だもの!ちゃんと生きます!!っていう感じ?←

今回は犯罪に走りそうな蓮さんに、こーゆーことしちゃ駄目よ?めッ!!っていう話w


・企業理念

その会社がどういう思考の元、運営していくかの宣言。

「雇用を大事にして、社会貢献に勤めます」とか「経営利益増加の為に勤め、一致団結していく」だとか。

これは極端だけどね。

就職する時に、ここを見ておくと会社の色が見えたりします。・・・多分

コンプライアンスで守るべきものの一つ。


・オブザーバー

研修とか会議とかすると、後ろのほうにデンっと座ってる偉い人。(部長とか専務とか)

要するに、、見学??監視??

暇そうな彼らです。

本来ならローリィ先生の席はこちら。しかーし、そんな遠くから見てられっか!?と進行の隣に居座ります。


・プロジェクター

白のスクリーンに映像を映し出すあいつ。

これを設置できる人間は、重宝されますww←



わからない人もいるかなぁ。。と思って。

ざっくりとした解説なので、これが本当の意味ではありません。

悪しからず。

ただ、この思いつきはこの位の理解度で読める・・・・・・・はず。