2008-12-08 12:16:27

4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する

テーマ:書籍レビュー

 

 105m×68mのピッチ上に描かれるデザイン。

 

 著者の杉山茂樹氏はヨーロッパサッカーの取材歴が豊富で、長年見続けてきた「欧州サッカーのシステム(フォーメーション)はどういったものなのか」を過去の大量の事例を挙げながら「それこそ刑事や探偵になった気分で(「はじめに」より)」問題点を指摘していく快作。

 

 第1章で「サッカーは布陣でするものか」という副題がついているが、世界中の監督のほとんどがベンチでは戦術盤(作戦ボード)を手にし、ロッカールームなどで白板に大量のフォーメーション図が書かれているのを見れば、「布陣ありき」とまでは行かないまでも、重要なものの一つであることは否めないだろう。

 

 「最後は勝ちたい、という気持ちを持った方が勝つ」は真実だが、「人事を尽くして天命を待つ」というように、システムを含めた戦術面で最善を尽くした方が勝つ。足で行うスポーツ、主審という人間が行うジャッジ、スタジアムの熱狂、そして運など不確定要素が左右することもあるが、「勝率を限りなく高める」という意味においては重要なことであることは間違いない。

 

 

■サイドアタックの重要性

 4バックにしろ3バックにしろ、杉山氏が重要性を説くのは「サイドアタック」である。どれだけサイドで優位性を保てるか、それはサイドプレーヤーの力量であったり、数的優位に持ち込むかという戦術面であったりする。

 06-07シーズンのチャンピオンズリーグ、PSVvsアーセナル。ロナルド・クーマン率いるPSVの「ゼロトップ・2ウィンガー」とも言えるシステムの分析は秀逸である。

 またデフォルト・ポジションから「サイドで勝負する選手」と「中に絞りたがる選手」の、試合に対する影響などの分析も面白い。94年ワールドカップ・アメリカ大会を制したセレソン(ブラジル代表の愛称)と、2006年ワールドカップ・ドイツ大会のセレソンの違いは、正にこの点にあったと描かれている。

 

 

■ヒディンク・コリアとトルシエ(&ジーコ)・ジャパンの比較

 98年ワールドカップ・フランス大会のヒディンク・オランダから、2002年ヒディンク・コリアへの「4-2-3-1」の継承。韓国は、ヒディンクという“伝道師”から欧州最先端の戦術を得て、大会ベスト4を勝ち取った。

 一方の日本は、フィリップ・トルシエを招聘。95~98年をナイジェリア、ブルキナファソ、南アフリカ代表で指揮を執ったトルシエは、欧州スタンダードでは“浦島太郎状態”になっており、「時代遅れ」とも言える「3-4-1-2」…ともすれば「5-2-1-2」に陥りがちなシステムを採用。決勝トーナメント1回戦で不完全燃焼に終わった。

 

 そして4年後のワールドカップ・ドイツ大会。

 今度はオーストラリアを率いたヒディンクと、ジーコが監督になった日本がグループリーグで対戦。

 「あっオシムって言っちゃったね」とは川淵前会長の有名な失言だが、ジーコは豪州戦を前にスタメンを公表したらしい。結果は1-3の逆転負け、この試合の分析も妥当である。

 

 

■3バックと4バック

 決して「3バックよりも、4バックが上である」というものではない。戦況によってシステムは変わる(変える)し、その時代の流行というものがある。ただ「日本代表が、ことごとく世界の潮流から遅れた」という見方に同意できる。    

 かつてはワールドカップが流行の最先端だったが、現在は毎年行われるチャンピオンズリーグが最先端になっている。3バックは少なく「4-2-3-1」「4-3-3」「4-4-2(中盤ダイヤ型は減り、フラット型が多し)」の3つがほとんど、という印象だ。

 

 日本代表は「3-4-1-2」から、「4-2-3-1」の布陣を敷くことが増えた。

 浦和は「3-2-3-2」が基本だった。浦和は昨季ACLを制覇したが、攻守分断に陥り気味であり、攻撃はポンテとワシントン頼みになっていた。高い個人能力を有する浦和だが、その個人の調子に影響される。ワシントンとはタイプが違う高原は、本領発揮できず日本代表からも遠ざかった。

 今季は闘莉王の得点力の高さが目立ったが、「本来点を取るべき人が取っていない」ことの裏返しでもある。これで勝てていれば良かったが、結果は無冠に終わる。

 そんな最近の浦和は「4-2-3-1」を採用している。

 

 

■柔軟にシステムを

 かつてバルセロナでフランク・ライカールトの右腕として、リーガ・エスパニョーラとチャンピオンズリーグを制覇。チェルシーではアブラム・グラントの参謀として活躍。現在はパナシナイコスの監督であるテン・カーテ。彼の言葉が印象的だ。

 

 「まず布陣ありき、4-3-3ありきではないんだ。攻撃サッカーをしたいのだ。それにふさわしい布陣として4-3-3を選択しているんだ」

 まず、やりたいサッカーありき。哲学、理念ありき。布陣はそのための手段。

(本書111ページより抜粋)

 

 国によって、クラブによって、哲学・理念によって求めるものが異なるのは当然である。

 選手によっても、監督によっても、戦術浸透・理解度によっても異なる。

 

 ティエリ・アンリがかつてユヴェントスで失意の時期にあったのは、左サイドアタッカーに据えられたからともいう。そしてバルセロナではサミュエル・エトーという存在のために、左ウィングに置かれて輝きを失っていた――が、今季は徐々にフィットしてきている機運もある。

 同じ選手でも、時代・経験・監督によって、あるいはその選手自身の努力や資質によって「そのシステムに適応できるか」は千差万別なのである。

 

 「鶏が先か、卵が先か」――現有戦力からをシステムを導くのか、システムに選手を合わせるのか。それもクラブの理念次第、監督の手腕次第ということになる。

  

 私のようなサッカー観戦歴が浅い人間には必読の書。何十年と欧州現地でサッカーを見続けた杉山氏の知識を借りるには、あまりにお手軽な文庫本である。まず読んで損をすることはない。 

  

 


4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する (光文社新書)/杉山 茂樹

¥903
Amazon.co.jp
 
 
↓ランキング参加中。クリックお願いします!
人気ブログランキングへ
 
AD
いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)

サージさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

コメント

[コメントをする]

2 ■三毛ネコさん<

ようこそお越し下さいました。
 
仰る通り、気持ちも戦術もどちらも欠けてはならないものでしょうね。
しかし観戦する上では、是非とも身につけておきたい基礎知識や歴史が散りばめられた良書だと思います。
  
あ、これもご縁だと思いますので、相互リンクをお願いしても宜しいでしょうか?こちら既に張らせていただきました。

今後とも宜しくお願い致します。

1 ■無題

トラックバックしてもらったので、うぇばーさんのブログを見に来ました。私はこの種の戦術書を読むのが初めてだったので、興味深く読ませてもらいました。この間のカタール戦を見ると、勝つためにはやはりシステムよりも気持ちのほうが大事なのだと思います。あの試合は、選手の絶対勝つという気持ちが90分間切れませんでした。ああいう試合をすれば、W杯でもいいところまでいけると思います。

といって、システムの重要性を否定するわけではありません。やはり、相手に合わせてシステムを柔軟に変えていかなければ勝てないでしょう。この本は、観戦する時に役立つので、売らずに置いてあります。

同じサッカー好きとして、これからもよろしくお願いします。

コメント投稿

AD

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

      ランキング

      • 総合
      • 新登場
      • 急上昇
      • トレンド

      ブログをはじめる

      たくさんの芸能人・有名人が
      書いているAmebaブログを
      無料で簡単にはじめることができます。

      公式トップブロガーへ応募

      多くの方にご紹介したいブログを
      執筆する方を「公式トップブロガー」
      として認定しております。

      芸能人・有名人ブログを開設

      Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
      ご希望される著名人の方/事務所様を
      随時募集しております。