Enron and Japanese Companies doing business in the U.S. (English subtitle)
前回は、アメリカで起きた日系企業の2つの著名なケースについて説明しました。 今回は、
それに引き続き、エンロン事件というアメリカの監査に大きな影響を与えた事件について
簡単に説明して、それが在米日本企業にどのような影響を与えるのにいたったのかについて
説明したいと思います。
エンロン事件:
私自身も元アーサーアンダーセンで監査に携わっていたこともあり、事件のことは鮮明に覚えています。
事件は、テキサス州のヒューストンに本部を置くエンロンで起きました。エンロンは、エネルギーの自由化政策
を利用した当時のエネルギー産業のなかの花形企業でした。フォーチュン誌の「アメリカで最もinnovativeな企
業」に5年連続で指名されたそうです。(注)1 売上げ高も当時としては屈指でした。もちろんアンダーセンのヒュ
ーストン事務所のトップレベルのクライアントでした。
事件は、スペシャル・パーパス・エンティティ (SPE) と呼ばれる関連会社に損失を移すことで、
連結対象からはずし、損を外に出さないという手法が使われたことで有名です。 ワールドコム事件というのが
この後に起きるわけですが、エンロンの手法というのは、比較すると非常に巧妙で、会計事務所、弁護士事務所
を撒きこんで、つまり彼らの専門的な意見を取り入れることを行いながら、起きました。 このSPEの
問題は、後に何度も変更されたことで有名なFIN46という会計のルールを生み出すのですが、ここでは
説明は、割愛します。 とにかく複数のSPEを使用した、非常に複雑な不正技法でした。
最終的に、エンロン事件は、以下のようになりました。(注)2
「負債総額630億ドル、水増し所得額5億8,600万ドル、株価下落額450億ドル、損失隠し10億ドル、401(k)
年金損失額21億ドル、破綻前従業員数3万人が13,000人に縮小、債権者24,000社、資産総額500億ドルから
120億ドルに減少、5万名の損失株主に対する推定和解金100億ドル、アメリカ企業史上最大規模の倒産で
ある。」
もちろんアンダーセンは、事実上の破綻、そして解体、ビッグファイブ会計事務所がビッグフォーになりました。
(筆者 注:まだアンダーセンは事件の処理を主目的として会社としては存在しています。)
これらの事件は、2000年から2001年の終盤にかけてメディアを騒がせたのです。
日本企業にエンロン事件の与えた影響
(1) JSOX法の制定
エンロン事件とそれに続くいくつかの不正事件が起きたためにブッシュ・ジュニア大統領時代のアメリカ
議会は、凄いスピードで新しい法律の制定に取り掛かります。その結果が
上場企業会計改革および投資家保護法(Public Company Accounting Reform and Investor
Protection Act of 2002: サーベンス・オクスリー法:SOX法)と呼ばれる法律です。 この法律は、
ご存知の通り、この法律は、世界に大きな影響を与え、各国でこの法律を参考にした法律が
制定されました。日本版のSoxはJSOXと呼ばれております。SOX法のエッセンスは、
以前からある財務諸表の会計監査から、独立させるかたちで、財務諸表に関連する内部統制
の有効性を企業に意見表明させて、それを外部監査人が評価し、意見をつけるという制度です。
日本版SOXのルールについての詳説は筆者の専門ではありませんので避けますが、この法律の導入によっ
て、多くの在米日系企業が影響を受けています。影響の受け方は、大まかに言うと二つで、最終的に日本で連
結される財務諸表に与える影響度で、在米子会社の全体レベルでの内部統制を問われる場合と、重要なプロセ
スで内部統制の仕組みを理解、文書化して、自社評価のあとに、監査を受けるというケースがあります。
いずれにせよ、結論は、エンロン事件が、JSOXをもたらしたのです。 さてそれより甚大な影響があった
点についてご説明します。
(2) SAS 99 (Statement on Auditing Standards) - Consideration of Fraud in a Financial
Statement Audit (AICPA, Professional Standards, vol 1, AU Section 316) の制定
エンロン事件は、SOX法を作るのと同時に、従来の会計監査の手法も変えたのです。これが、SAS 99
と呼ばれる不正のリスクを会計監査にどう取り入れるかを考慮した監査基準になります。 ここで言う不正のリス
クの定義とは、不正が起きたことにより、財務諸表が大きく間違うリスクです。
この基準が発表された直後の監査を行う会計事務所は、てんやわんやでした。変化が広範囲であり、
かつ不正そのものにさほど焦点を当てていなかった会計監査人に不正調査の取調官の役目の一旦を
担うような改定がなされたのです。また、通常は、クライアント、カスタマーとして良好な関係を
保っている企業のマネージメントを、一歩引いて、「中立でかつ疑った目で見てみる」という態度も
要求されることになり、われわれは、以前のメンタリティーの変化を要求されて、面食らったものです。
端的に言いますと、従来の監査基準は、不正のリスクに対する踏み込みが足りませんでした。 エンロン事件
から、会計監査の信頼性を回復するための基準として作られたのですが、その範囲は、広範囲で、影響が
非常に多くあります。 大きく言いまして、4つないし、5つの面で従来の会計監査が大きく変化しました。
この基準は、企業規模の大小に関わらず会計監査を受ける場合は、守らねばならない基準のひとつに
なります。したがって、この基準がアメリカにある日系企業に与える影響というのは、JSOXよりはるかに
大きく、アメリカの日本企業の不正を考える上で、理解を欠かしてはいけない基準なのです。
このSAS99は、2002年の10月にAICPA(アメリカ公認会計士協会)によって発表されました。
アメリカで会計監査を行う人に最も大きな影響を与えた監査基準のひとつと言っても過言ではありません。
エンロン事件は、従来の会計監査の基準も大きく変えたのです。
さて次回は、このSAS 99について、わかりやすく解説してみる予定です。 オリンパス事件を考える
上でも、SAS 99の考え方は、非常に重要な示唆をしてくれると思います。
粉飾決算
(注)1:「エンロン事件とアメリカ企業法務」高柳一男 (中央大学出版部) ページ6
(注)2:同上 ページ2+







