市川・高層マンション 鉄筋不足のその後 | ゼネコン君

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某大手建設業社員のブログ

先日、紹介した千葉県市川市に建設中の超高層マンションの柱の鉄筋不足問題で、建て主の一社であり施工会社のS建設は、現在 補修方法を地権者等に説明し、工法変更を含む計画変更の確認を申請しているところです

建物の構造的な問題としては、これで何とか解決に向かうでしょう

しかし、エンドユーザー(=マンション購入者や実際に建物を使用する人 等)は どうしても一度不良部分が発覚し不安を覚えた建物に対して、100%の安心を感じることは難しいでしょう

建て主・監理者・施工者・販売会社は、まだまだ対応に負われる事でしょう


ところで、鉄筋不足が生じた原因について、

①施工会社のS建設は、「専門工事会社が図面を見誤って25階~30階の鉄筋の本数を間違え、当社の担当者も本数が正しいかどうかをきちんとチェックしなかった」と説明し、

②設計・監理者のN設計は、「配筋が適切かは施工者が作成する品質管理記録で確認する契約になっており、この記録によれば配筋は設計図書の通りだった。」として、工事監理で施工ミスを把握できなかった事情を説明している

N設計は施工者の品質管理記録に基づく監理の他に、契約に含まれない自主的な監理業務として、主要な部位の施工状況を目視でチェックしていた様であるが、鉄筋不足が発覚した柱は、このチェックの対象には含まれていなかったと説明している


①に関しては、ゼネコンの一社員として本当は非を認めたく無い気持ちはあるが、全面的にゼネコン社員=ゼネコン君のミスであり、言い訳のしようがない部分である

S建設側としては「専門工事業者が・・・・」と前置き的な表現をしているが、専門工事業者を管理・指導するのが元請としてのゼネコン君であり、その部分の責任を専門工事業者に押し付けるようでは、初めから元請としてのゼネコン君は不要であり、単なる中間マージン搾取者でしかない

同じゼネコン君として身につまされる思いではあるが、ゼネコン君の責任はかなり大きいと思う

②に関しては、近年特に大手設計会社に多い形式であるが、監理者としての責任を低減する為に、権限委譲的に施工者責任の部分を多くし、監理者としては施工者の確認したものを確認するだけ というものである

簡単に言えば、監理者が、施工状況をチェックするのではなく、施工者が施工者の責任でチェックした上で監理者は施工者がチェックしたもの=記録(部分的に現場を確認することもあるが、実質的には書類のみ)を『確認』するだけである

建築主と監理者の契約に基づき、監理者が契約通りの業務をしていたのであれば、契約上監理者には責任はないであろうが、会社としてのイメージは少なからず影響を受けた事でしょう


個人的な意見としては、今回のケースは特異な事でないと思う

直接原因は①のゼネコン君のミスではあるが、現在の建設業界を取り巻く環境も大きく影響していると考える

まず特にマンションのディベロッパ-に多い事例であるが、建築主は、建物の価格を決定する場合に、「材料Aが100個必要だから******円、材料Bが200個必要だから*******円、・・・・・」と必要な金額を積み上げるのではなく、「この部屋(マンション1戸、事務所1室・1フロア)を○○○○円で売りたいから建物全体は○○○○○○円で建てなければならない」と決定する

つまり、建物の原価がいくらではなく○○○○円の建物を作れということである

建築主は、予算が決まっている中で、あれも欲しいこれも欲しいと、要求だけは押し付け、それでいて建物を作る予算は少しでも安く押さえる形をとり、「予算ありき」で、しかも建築主(ディベロッパー)の要求する相場は世間の相場とはあまりにもかけ離れている

このような建設市場の環境が、各工事現場で予算を削減することを強いられる

使用する材料は殆ど値段は決まっている、工事の作業員の労務に対しては今まで紹介したようにヤク●のような交渉で安くはしているが、これも限界はある、最後に削減するのは、工事現場にかかる社員の人件費である

つまり、工事現場に配属すゼネコン君を減らすことである

これにより、工事現場のゼネコン君の一人当たりの作業量は多くなり、各ゼネコン君の能力以上のものが要求されれば、どうしても下請任せになる部分が出てきてしまう

今回の様に、専門工事業者=下請のミスをゼネコン君がチェックしきれ無いということも生じてしまう


また、建築主(ディベロッパー)が財産として残る建物に対して、予算を掛けないのであるから、まして工事監理という形に残らないものに金を掛けるはずがない

つまり、工事監理に関しても安い金額での契約を求める

N設計も工事監理に関して、『施工者の作成する品質管理記録で確認する』だけの契約ではなく、自らがチェックすることも可能である

しかし、自らがチェックするという事はそれだけの時間と労力がかかる=お金がかかるのである

建築主は予算を安く抑えれば、その金額に見合った内容の契約になってしまう

今回のN設計の監理に関しても、このような背景があったと容易に推測できる


今回の鉄筋不足に関して、担当ゼネコン君の能力的な問題もあるが、施工者であるS建設の品質管理上の問題は、確かに言い訳できることではない

しかし その裏には現在の建設業界を取り巻く環境が要因になっていることも、決して否定できない

このような、建設業界の環境が変わらない限り、今回のような事例がまた起こるかもしれない

(勿論、姉歯や遠藤建築士のような『故意』の耐震偽装は別です)