9/4(金)は朝から、リタイアした2009年9月以来6年振りに、ボランティアで営業の仕事を手伝って来た。
会社の後輩に同行を依頼されたためだったが、精神的に疲れを感じた。
そこで、この際、新しいJR「上野--東京ライン」を使って、上野~川崎間を往復してみることにした。
往きは久し振りのラッシュを味わったが、帰りは午前中の上りだったので混んではいなかった。





さて、本題。

未読だった東野圭吾(著) 「夢幻花」(むげんばな)を図書館でゲットし読んだ。

(Amazonで購入)


PHP研究所の月刊誌「歴史街道」に2002年7月号~04年6月号連載。
2011年3月11日東日本大震災にも触れ、大幅書き直し。
単行本(ソフトカバー)2013年4月刊行。2013年度柴田錬三郎賞受賞。



■ 著者のメッセージ

『歴史街道』から小説連載の依頼がきた時、「私に歴史ものは無理です」と断りました。すると編集者は、歴史ものでなくても、何かちょっとでも歴史に関係する部分があればいいといいます。そこで思いついたのが黄色いアサガオでした。御存じの方も多いと思いますが、アサガオに黄色い花はありません。しかし江戸時代には存在したのです。ではなぜ今は存在しないのか。人工的に蘇らせることは不可能なのか。そのように考えていくと、徐々にミステリの香りが立ち上ってきました。面白い素材かもしれないと思えてきました。ところが素材は良くても料理人の腕が悪ければ話になりません。何とか連載は終えましたが、あまりにも難点が多すぎて、とても単行本にできる代物ではありませんでした。おまけに、ずるずると出版を引き延ばしているうちに小説中の科学情報が古くなってしまい、ストーリー自体が成立しなくなるという有様です。しかし担当編集者には、「何年かかってでも必ず仕上げます」と約束しました。「お蔵入り」だけは絶対に避けたかったのです。
結局、「黄色いアサガオ」というキーワードだけを残し、全面的に書き直すことになりました。もし連載中に読んでいた方がいれば、本書を読んでびっくりされることでしょう。 しかし書き直したことで、十年前ではなく、今の時代に出す意味が生じたのではないかと考えています。その理由は、本書を読んでいただければわかると思います。





【感想】


科学の光と影
最先端の生命工学(バイオテクノロジー)も原子力工学も、光と影の部分がある。
影=生命を脅かす部分=負の資産=を隠蔽せず、解決すべき課題として監視し取り組み続けねばならない。
東野圭吾氏の叫び  が伝わって来た。





【登場人物】

蒲生蒼太: 原子力工学・大学院生。
蒲生要介: 蒼太の兄。警察庁キャリア。ボタニカ・エンタープライズ代表と偽る。
蒲生真嗣: 要介・蒼太の父。警察官。肝臓癌で死亡。
蒲生志摩子: 要介・蒼太の母。実は赤子の時に・・・。

伊庭孝美: 蒼太とは中学生時代の一時期にガールフレンド。医者の娘。大学薬学部研究所実習生。

秋山梨乃: 大学三年生。元オリンピック候補の水泳選手。
秋山正隆: 梨乃の父。
秋山素子: 梨乃の母。
秋山周治: 梨乃の祖父。元食品研究開発センター研究者。絞殺死。

日野和郎: 周治の元同僚研究者。
福澤民郎: 周治の元上司。

田原昌邦: 歯科医院長。朝顔の育種家。

鳥井尚人: 梨乃の従兄。大学中退。アマチュアバンドのキーボード担当。飛び降り自殺。
鳥井知基: 尚人の弟、梨乃の従弟。
鳥井佳枝: 尚人・知基の母。正隆の妹、梨乃の叔母。

大杉雅哉: 尚人のバンドのボーカル&ギター担当。
白石景子: 尚人のバンドの新しいキーボード担当。実は・・・。

工藤アキラ: ライブハウスのオーナー。

早瀬亮介: 西荻窪署の刑事・巡査部長。
早瀬裕太:亮介の息子。中学生。






【あらすじ】


1962年の東京下町。
江東区木場に住む中二の蒲生蒼太は、毎年七夕の日に家族揃って朝顔市に連れて行かれるが、興味のない蒼太は退屈で仕方がなかった。
この年は、嘘を吐いて一人になった蒼太は、上野に住む伊庭孝美という同級の女の子と知り合う。
そして頻繁に交際するようになったが、警察官の父・真嗣に仲を裂かれる。


*

10年後。

大学生の秋山梨乃は、オリンピックを目指す水泳選手だったが、体調不良で止めた時期に、
アマチュアバンドのキーボード担当、従兄・鳥井尚人が、デビューを控えていながら自宅マンションで飛び降り自殺する。
梨乃は、尚人の葬儀で祖父・秋山周治に再会する。
一人暮らしの周治が花を育てるのが趣味と知り、梨乃は、そのブログ開設を手助けする。
その中で謎の「黄色い花」を育てていることを知るが、とても貴重なものだからブログに載せないでくれと頼まれた。
ところがその後、何者かに絞殺された周治の遺体を、梨乃が発見するとともに、周治の庭からあの「黄色い花」が消えていることが非常に気懸りとなり、敢えてブログにアップする。

大阪の大学院生となった蒼太は、原子力工学を学んでいたが就職を目の前にして自分の進むべき道に迷っていた。
早世した父・真嗣の三回忌で、江東区木場の実家に帰ると、警察庁のキャリアである兄・要介は、何と仕事を優先して出かけてしまっていたのだ。
これまでも他界した父と兄・要介とに深い溝を感じて来た蒼太。
そこで要介を訪ねて来た秋山梨乃と、蒼太は知り合う。
要介が警察という職業を隠してまで梨乃に接近していた。
そして彼女に幾つか忠告していたというのだ---ブログから「黄色い花」の写真を直ちに削除するよう、「黄色い花」は或る研究機関が開発した極秘のものでなぜ漏洩したか、MM事件という謎の言葉、危険だからあの花には関わるな---と。
要介の真意は何だったのか?
謎の「黄色い花」が関係していると知った蒼太と梨乃の二人は、その謎と周治殺害事件の解明に向けて行動を起こす。

*


その頃、西荻窪署の刑事・巡査部長の早瀬亮介は、息子・裕太の窮地を救ってくれたことのある、正義感の強い周治が、所轄の殺人事件被害者だと知って驚く。
手掛かりが少ないが絶対に迷宮入りにはさせない、必ず犯人を逮捕してやると捜索を続ける。


蒼太は、死んだ尚人に代わって新しいキーボード担当となった女性が、あの伊庭孝美にそっくりなので驚愕する。
しかし白石景子と名乗っていた彼女は、蒼太に会った直後にバンドを突然辞めて姿を消す。
「黄色いアサガオ」を追っていた梨乃だったが、蒼太の初恋の女性を探す羽目になる。

二人は、周治と長年、新種の花の研究開発をしていたという日野和郎に紹介された、朝顔の研究者で歯科医師の田原昌邦を訪ねる。

*


「黄色いアサガオだけは追いかけるな――」。
禁断の花を巡り、驚愕の真相が明らかになる・・・。

50年前。
日下部真一・和子夫婦は、錯乱した通り魔・田中和道に襲われるMM事件(マリリン・モンローの死が動機)が発生。産まれたばかりの赤子・志摩子が遺されていた。
 




【夢幻花を追うプロセス---原作の抜粋】

p87
どう考えてもおかしかった。誰かの悪戯とは思えない。なぜあの鉢植えが消えたのだ。気になるのは例の黄色い花だ。あれは一体何の花だったのだろう。梨乃がブログに写真をアップしようというと、周治はあわてた様子でやめてくれといった。あのことも今回の件と関係しているのではないか。ベッドから起き上がり、机の上のパソコンを立ち上げた。周治が撮影した花の写真は、梨乃のパソコンにも保存してあった。あの黄色い花の写真も、いつでもアップできるように入れておいた。問題の花の写真をモニターに表示させた。花びらはあでやかな黄色をしていた。その形は細長く、何かの触手のように四方八方に伸びている。人によってはグロテスクな印象を抱くかもしれない。

p115
「どう?」梨乃が訊いてきた。蒼太は唇を舐めてから口を開いた。「これは、もしかしたら・・・アサガオかもしれない」「アサガオ? これが? 嘘でしょう? アサガオの花って、もっと丸いじゃない」「よく知られているのはそうだ。でも、アサガオにはいろいろなものがある。変化アサガオという突然変異を起こしやすい種類があって、組み合わせ次第で様々な形態の花ができる。昔、家にあった本で見た。こういう形のアサガオもあったと思う」 ただ、と蒼太はいった。「もしこれが本当にアサガオなら、たしかに大変なことだ。人工的に作られたという話は本当かもしれない」「花や葉の形が変わっていても、どうってことはない。問題は色だ。黄色いアサガオは存在しない」

p125
「さっき、例の黄色い花に該当するものは見当たらなかったといったけれど、それは現存する植物にかぎればってことだ。黄色いアサガオは存在しない。でも、かつては珍しいものではなかった。江戸時代にはアサガオの栽培が盛んだった時期があって、有名な資料が残っている。それらの中には黄色いアサガオも載っている」 タブレット端末を見ながら、蒼太は説明を始めた。

p170
「秋山さんが何か画期的な方法を編み出したとか」蒼太は食い下がってみた。日野は首を傾げた。「仮に私が黄色いアサガオを作れと命じられたら、まずやってみるのは交配でしょうね。かけあわせず、細胞融合という手はあります。あるいは遺伝子組換え。これらの方法でだめならば、放射線を当てて強制的に突然変異を起こさせます」

p185
「それ、アサガオでしょうか」梨乃が訊いた。田原は顔を上げ、「ナンテン、クルマザキ」といった。えっ、と梨乃が聞き直した。「ここに書いてあるだろ。写真の花を見たところ、葉の特徴は南天というものだ。車咲きは、アサガオの八重咲きの一種だ」

p189
「じゃあ、どういう色素が必要なんですか」蒼太は訊いた。(田原)「濃い黄色を発現させるには、カロチノイド系の色素が不可欠なんだ。こいつは現存するアサガオには含まれていない。だから幻の花なんだよ」

p191
「黄色いアサガオは禁断の花、という話だ」「禁断・・・」蒼太は梨乃と顔を見合わせた。(田原)「私がアサガオに興味を持ったのは、叔父の影響だ。いろいろな変化アサガオを咲かせるのを見ているうちに自分でもやりたくなった。だが叔父は私にいったんだ。どんな花を咲かせてもいいが、黄色いアサガオだけは追いかけるな、とね。理由を訊くと、あれはムゲンバナだからだ、といわれたよ」「夢幻花という意味だ。追い求めると身を滅ぼす、そういわれた」

p343
(蒼太)「何だよ、夢幻花って」(要介)「一言で言うと幻覚作用をもたらす植物の総称だ」

==以下、夢幻花の謎が解かれて行く==





■ 「夢幻花」の舞台・入谷散歩


■ 入谷朝顔市・変化朝顔に関する私のブログ

今年も入谷鬼子母神の朝顔市がやって来た(2015/07/04記)
入谷から根岸の里を歩く(2014/01/12記)
変化朝顔展示会(日比谷公園)を訪れる2013/07/31(記)

 



■ 2014/10/10付け基礎生物学研究所、鹿児島大学、サントリーグローバルイノベーションセンター(株)の共同発表。
「幻のアサガオ」といわれる黄色いアサガオを再現。キンギョソウ由来の遺伝子をアサガオで機能させることにより、幻といわれる「黄色いアサガオ」を咲かせることに成功した。

 






■ 東野圭吾氏の著作(2010年以降)と私のブログ


カッコウの卵は誰のもの(2010年1月 光文社 / 2013年 光文社文庫)
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11657909015.html
プラチナデータ(2010年6月 幻冬舎 / 2012年 幻冬舎文庫)
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11488903191.html
白銀ジャック(2010年10月 実業之日本社文庫 / 2011年 実業之日本社)
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11903558906.html
短編集・あの頃の誰か(2011年1月 光文社文庫)・・・収録作品:シャレードがいっぱい/玲子とレイコ/再生魔術の女/さよなら『お父さん』/名探偵退場/眠りたい死にたくない/二十年目の約束
http://blogs.yahoo.co.jp/tsn_take/6066159.html
<追加2015/1/20> http://ameblo.jp/aauasks/entry-11979441448.html
加賀恭一郎シリーズ・麒麟の翼(2011年3月 講談社 / 2014年2月 講談社文庫)
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11441688721.html
ガリレオシリーズ・真夏の方程式(2011年6月 文藝春秋 / 2013年 文春文庫)
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11564211802.html
マスカレード・ホテル(2011年9月 集英社 / 2014年 集英社文庫)
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11559534320.html
笑小説シリーズ・歪笑小説(2012年1月 集英社文庫)
http://ameblo.jp/aauasks/entry-11990904697.html
ナミヤ雑貨店の奇蹟(2012年3月 角川書店 / 2014年 角川文庫)・・・中央公論文芸賞
http://ameblo.jp/ashhrr/entry-11348432242.html
ガリレオシリーズ・虚像の道化師 ガリレオ7(2012年8月 文藝春秋)
http://blogs.yahoo.co.jp/tsn_take/7004795.html
ガリレオシリーズ・禁断の魔術 ガリレオ8(2012年10月 文藝春秋)
http://ameblo.jp/aauasks/entry-12050587259.html
夢幻花(2013年4月 PHP研究所)・・・柴田錬三郎賞
http://ameblo.jp/aauasks/entry-12069523992.html
加賀恭一郎シリーズ・祈りの幕が下りる時(2013年9月 講談社)・・・吉川英治文学賞
未読
疾風ロンド(2013年11月 実業之日本社文庫)
http://ameblo.jp/aauasks/theme2-10085035856.html
虚ろな十字架(2014年5月 光文社)
未読
マスカレード・イブ(2014年8月 集英社文庫)
http://ameblo.jp/aauasks/entry-12016877109.html
ラプラスの魔女(2015年5月 KADOKAWA)
未読