九条探偵の怪奇ファイル

このブログは、架空の街「帝都」で発生する怪奇事件の調査ファイルを公開する≪妄想小説ブログ≫です。

見えない壁に囲まれた帝都の秘密とは!? 自分の影を失った男・九条探偵の過去とは!? めざせ週一更新!!


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「さあ若いの、迷っている暇はないぞ。私を博士のところへ連れていくか、それとも<ドクター>たちの暴挙を見逃すのか……。私にはこの状況を遅らせる手段がある。しかしモタつけばその分、手段は効果が薄れていく。どうだ、今ここで決めろ」

 僕はひび割れた空を再び見上げる。すると迷っている暇はないぞとばかりに、今度は地面が跳ね上がるように揺れた。

「貴方が大河たちの仲間ではないという確かな証拠はありますか、ご老人」

「そんなものはないよ」

「では……」

「信じてもらうしかないね。現象を遅らせることができるのは私だけだ。それは保障しよう」

 顔を包帯で覆った断面男を僕はまっすぐに見た。目の奥は包帯の影になっているものの、真剣な眼差しは爛々と輝きを放っている。それは酒臭く泥まみれのスーツ姿とは正反対の揺らぎのない意思を宿しており、僕の視線を逃げずに受け止めていた。

「……瑠璃子さん」

「はい」

「お手数ですがご老人の着替えを用意してください」

「九条さん……?」

「……お願いします」

 瑠璃子さんは最初こそ戸惑いを見せていたが、やむを得ない状況を納得したのか、「はい」と短く答えてパタパタと廊下を駆けていく。その様子を横目で見送りながら断面男が言った。

「いい判断だ、若いの。さあ行こうか」

 電人博士の地下研究室では、博士とレイがすでに裏返り現象への対応策に取り掛かっていた。鋼鉄の巨大な顔をした博士の本体が見下ろす室内では、瑠璃子さんの背丈ほどある円錐形の装置が中央で鎮座しており、レイがそれを難しい顔で睨んでいる。

 壁際には移動式の黒板。訳の分からない数式で埋め尽くされており、博士とレイの努力を滲ませるように、数式を何度も書き直した跡が見受けられた。おそらく裏返り現象への対抗作だと思われるが、一筋縄ではいかない現実がそこにはある。

 しかし断面男にとって、博士たちの苦悩など取るに足らないものらしい。僕の先に立って室内に突入すると、珍入者に目を丸くする博士とレイを尻目に黒板と対峙したのだ。そして呆気にとられたままの僕たちの目の前で、スラスラと数式を訂正していく。

「……私とはロクに話をしなかったのに、いったいどうなっているんだ」

 愚痴をこぼすレイに、僕は断面男の作業を眺めながらため息をついた。

「振り回されているのは僕も一緒さ。ところでこの装置は?」

 それに答えてくれたのは電人博士だった。頭上の巨大な顔が、断面男の集中力を削がないよう声のトーンを落として告げる。

『次元の穴をつなぎとめる、いわゆる電磁のホチキスさ。でも波長が安定しなくてね、せっかく本体はできているのに10%も稼働しない』

「ではこの数式が完成すれば……」

『すぐにでも使えるよ、それに突貫工事だが3台まで完成している。帝都のすべての穴をふさぐには数が足りないが、被害の大きな穴に使えば充分に時間を稼いでくれるだろう』

「ふむ……」

 僕は装置をまじまじと眺めた。

「対症療法はこれでいいとして、原因は判明したのですか?」

『雷音寺たちの研究だよ。私は時空獄の研究に携わったことがあったから、<ドクター>だった頃に彼らの研究に対する見解を求められてね。その時に見せられたレポートに今回と酷似した現象が記されていたよ』

 博士によると、ふたつの空間を入れ替えるには基点となる装置を、対象となるエリアの中心に設置する必要があるのだという。今回で言えば帝都の中心にひとつ、そして『壁』の向こうの世界にひとつ。そこでレイが警官を総動員して装置を探しているのだが……。なにせ帝都の中心部とは言っても建物が多く捜索は難航しているらしい。

 空間の断裂を防ぐ作業と装置を探す作業。このふたつの作業が今やるべきことだ。そしてその障害となっている数式と格闘しているのが正体不明の断面男。本当に任せていいものかとレイがチラチラとこちらを見ているが、僕たちに選択肢がないのも事実である。

 そうしているうちに断面男の着替えを取りに行っていた瑠璃子さんが研究室にやって来た。それとほぼ同時のタイミングで断面男が「……よし」とチョークの粉を払いながら一歩下がり、黒板いっぱいに記された数式を見渡す。

『うむ、完璧な仕上がりだ。実に美しい……』

「ではこれでやっとこの機械が使いものになるわけですね、博士」

 レイが内線の受話器を手に取りながら巨大な顔に振り向く。

『ああ、早速取りかかろう』

 電人博士のひと言が作戦開始の合図となり、レイが受話器の向こうで待機している巡査に、組み立て中の機械をひとつでも多く使える状態にしてトラックに積み込むよう指示した。その間に瑠璃子さんが断面男に着替えを手渡し、「奥にある宿直室を使って下さい」と伝える。そして自身は断面男の提案を受け、ここで治療中の<『壁』の向うから来た男>を『壁』の向こうの世界へ避難させるべく研究室を出ていった。

<壁』の向うから来た男>は大河たちに襲撃され負傷している。だから断面男の提案はもっともであり、この混乱で再び襲われないよう安全を確保する必要があった。

 レイはすぐに了承し、瑠璃子さんが<『壁』の向うから来た男>の病室に到着する前に手筈を整えようと、再び内線で部下に搬送方法を指示する。これら一連のやり取りは迅速であり、断面男が数式を解いて3分も経たないうちに僕たちは次の行動に移ることができた。

「私は機械を載せたトラックで帝都に戻る。九条はどうする」

「電人博士と一緒に行くよ。基点となる装置の近くには状況を把握するために大河たちが潜んでいるはずだ、彼を見つける」

「私も行くぞ、若いの!!

 宿直室から声を上げたのは断面男だ。

「きっと役に立つ!」

『彼のお目付役なら私が引き受けよう』

 そう言って巨大な顔が急に沈黙した。そして顔の中央から真っ二つに割れ、中から身長2メートル程の人型ロボットを吐き出す。彼も電人博士で、ここにある巨大コンピュータとつながっていた。いわば博士の分身である。

「それなら博士、段取りについて少し話しませんか?」

『少し待ってくれたまえ、レイ。その前に九条くんに渡したいものがある。こいつだ……新しいオモチャだよ』

 博士が棚から持って来たのは2丁の拳銃だった。僕が今まで使っていたシリンダータイプとは大きく異なり、全体をカバーで覆ったような“四角い”形状をしている。

「こいつは……自動拳銃じゃありませんか。使えるんですか?」

 僕はグリップの下からマガジンを引き抜いたり、スライドを引いたりして早速、一通りいじってみる。

『これまでそのタイプは部品数が多く故障も多かったからね、懸念は当然だ。それにコストがかかりすぎて、とてもではないが使える代物ではなかった。やっと改良に成功したのだよ』

「……うむ、確かに挙動が素直だ。それに軽くて扱いやすい」

『キミが使っている骨董品もこれでお役御免だね』

「ええ……まあ……」

 僕は金属繊維のコートの下にブラ下げた警部の拳銃にそっと触れてみる。確かに命を預けるとなれば武器として優秀な方が安心できるだろう。ちょっとした感傷が穏やかにこみ上げてきた。

 そんな僕の異変に気付いたのか、博士は取り繕うように声のトーンを一段上げた。

『帝都警察でも採用される予定の最新型だよ。シリンダータイプと違い、グリップの下からマガジンを挿入するタイプだから弾の補充が楽になり、また装弾数も6発から7発になっている。キミにも同じものを用意してあるよ、レイ。だから羨ましそうな顔をしないでくれたまえ』

「……べ、別に私はそんな。子供じゃあるまいし……」

 その時だった。再び大地が震え、立っていられない程の震動が床を突き上げた。棚やら装置やらが倒れ、天井に吊るされていた電灯が右に左にと大きく触れる。今度の地鳴りは今までで一番大きい。いよいよ裏返り現象が本格的に始まったのだろう。

 さらにそこへ帝都警察の巡査が駆け込んでくる。

「み、見つかりました! たった今、装置を見つけたとの報告が!」

「どこだ!」

 レイが壁に手を突きながら声を上げる。

「帝都電波塔の3階、ラジオ局のスタジオです!」



……つづく。


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 DVDの映像特典に収録される映画のメイキングはおもしろいもので、それ自体がドキュメント番組として楽しむことができる。特にCGIを使用したり爆発や合成が不可欠なVFX大作は、映画本編に勝るとも劣らないドラマがあるのだ。

 本日、例として取り上げる映画『トランスフォーマー』は、マイケル・ベイ監督とスピルバーグ監督がタッグを組んだ2007年の映画。

 物語は、悪の金属生命体と正義の金属生命体が地球を舞台に一大バトルを展開するというもの。見どころは車や戦闘機から人型ロボットに変形する金属生命体で、そのためにCGIが欠かせない作品である。

 この手の映画はなんでもCGIで作られていると思われがちだが、実は大作映画こそ実写とCGIを細かく使い分けており、「実写でできる部分は実写でやる」を共通認識に、派手に爆破させたり、車を空中に跳ねあげたりと、手の込んだ装置を使って迫力あるシーンを実際に撮影しているのだ。

 そのためメイキングシーンもアクションたっぷりで、見ていて飽きない内容になっている。

 実際に飛ばした車がビルに突き刺さるようなアクシデントが起こることもあれば、カーチェイスシーンではカメラを搭載した改造ゴーカートで縦横無尽に走ったり、巨大な金属生命体の等身大模型を作成したり……。

 またロケも大がかりで、砂漠でセットを組んで村をでっちあげたり、実在の広大な格納庫にセットを立てこんで作品に合う施設に改造したり、そのあたりのスタッフの仕事ぶりを見るのも楽しい。

 また本作では米軍が全面バックアップしており、軍の広報官がインタビューでどんな協力をしたか話してくれるし、本物の兵士たちのアクションシーンの撮影風景や、実機を飛ばす様子も収録されていて、映画がいかにリアルに作られているのかが伺える。

 もちろん撮影の様子だけではなく、マイケル・ベイ監督にイタズラをするスタッフ陣の様子も挿入されるなど、ただ淡々と進む作業を見せているようで、実は緩急がついていてエンタテイメント性あるメイキングになっているのだ。

 狭いスタジオで演技をするだけの映像がなく、大勢のスタッフがそれぞれのセクションでアイデアを出し合い、一致団結して一本の映画を完成させる過程が見られるので、物語として楽しめるし新たな発見ができて楽しい。

 しばしば「小難しいことを考えずに、肩の力を抜いて見られる映画」と消費物のひとつとして見られがちなVFX大作。しかし観客を何も考えずに楽しませるには、途方もない努力と技術の蓄積があるからこそなのだと、改めて「楽しませることの手間と難しさ」を感じさせてくれた。


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 空間が裂ける断面現象は大河たちが去った後、一晩経っても尚続いていた。

 ある建物の壁面はまるで巨大怪獣にでもかじられたかのように消失し大きく抉り取られている。普通に考えればそこからポキリと折れてもおかしくない状態なのだが、なぜかそこには消失したはずの壁面が見えない形で存在しており建物全体を支えていた。

 またある街灯は土台部分が消失したのに、その場に浮くようにして倒れることなく立っている。こちらも前者と同様、見えなくても確かに存在しており、土台としてちゃんと機能していた。

 帝都全域で断続的に発生するこの現象は確認されただけでも6箇所。ほとんどが人的被害のないものなのだが、中には運悪く空間に飲み込まれた者もいたという。そのため区画封鎖が必要となり帝都陸軍に出動が要請された。

 空間に飲み込まれた者は本当に悲惨な末路だった。

 まるで八方から強力な力で引っ張られたかのように四散する者。

 腹のあたりからぱっくりと割れ、そこから人体を裏返しにされる者。

 確かにそこに存在するのに透明化し見えなくなる者。

 現象には前触れとして、空間から突如として細い火花が線香花火のように散るのだが、一瞬の出来事であるため気付く者は少ない。そのせいで現象の半径5メートル以内にいた被害者は、時空の裂け目に引っ張り込まれ悲惨な末路を辿る。

 気付いた時にはもう遅い。あっという間に異質な空間の深淵へと消えていくのだ。叫び声さえ飲み込む、深い深い闇の底へと――。

 そんなものが帝都のあちこちで出現したのだからたまらない。今はまだ6つ程度で、そのどれもが帝都陸軍によって管理されているからいいものの、もしもこのまま現象が続けば、いずれ帝都はバラバラに引き裂かれてしまうだろう。大河たちは帝都と『壁』の向こう側の世界を入れ替えるなんて言っていたが、果たして中にいる人間のことをどれだけ考えているか分かったものではない。だから早急に対応する必要があった。

「とりあえずあんたはここで治療に専念してくれ。あとは僕たちでやる」

 大河たちに襲撃され満身創痍になっていた<『壁』の向うから来た男>を、安全が確保された美影精神治療院に運び込んだ僕は、無表情な看護師に彼を預けてそう言った。

 <『壁』の向うから来た男>は言葉を喋ることができないくらい憔悴していたが、約束をすると全身の力を振り絞って弱々しく頷く。

「それで……僕に会いたいというのは、どこの誰なんですか、瑠璃子さん」

 救急救命室に運び込まれる<『壁』の向うから来た男>を見送りながら、人気のない廊下で僕は踵を返した。

「さあ、身元を証明するものは何も持っていませんし、私が会った時には泥酔していたので何も……」

 帝都警察の再建に伴い、かつてそこの資料室で働いていた瑠璃子さんと、装備開発課を取り仕切っていた電人博士が復職した。……とは言っても、電人博士がここ美影精神治療院に研究室を構えることに変わりはないし、帝都警察と僕の橋渡し役である連絡員に命じられた瑠璃子さんも、特に変わったことをするわけでもない。今までと同じように僕と共に怪異を調査するのが仕事だ。

 その矢先に帝都警察にもたらされたのが、今の会話で登場した、僕に会いたいと訴える謎めいた人物の情報だった。

 その人物は断面現象に巻き込まれたにも関わらず、運よく一命を取り留めた唯一の人物だ。泥酔して暴れていたところを警ら中の巡査に確保され、公園の柵に手錠で繋がれていたという。おかげで断面空間に飲み込まれずに済んだのだが、さすがに無傷では済まず、顔の全面を空間に舐め取られ、見るも無残な姿になってしまったのだ。

 筋組織や眼球が露出し、まるで人体模型の仮面でも被っているかのようになってしまった彼の顔。それは切り取られたのではなく、他の建築物のように透明化しただけなので苦痛はないが、見ている方が痛々しい気分になる。しかし彼はそんな姿になっても、あまり現状を悲観していないようだった。

「やっと来たか、待ちくたびれたよ、名探偵」

 病室に到着するなり、彼は人体模型のような顔を僕に向け、ため息混じりにそう言った。そして彼を世話していた看護師から包帯を受け取ると、年輪を感じさせる老いた声で「ありがとう、お嬢さん。こんな化け物でよろしければ、お礼に今度お食事でもいかがですか」と上品な笑みを浮かべた。しかし看護師が戸惑うような素振りを見せるとすぐに、「いや冗談です。あなたにはもっと相応しい紳士がいるでしょう、非礼をお詫びします」と訂正した。

「それで……僕に話したいこととはなんですか」

「まあ待ちなさい、モノには順序がある」

 男はそう言いながら頭に包帯を巻きはじめた。

「こんな顔では人を怖がらせてしまうからね。いやはや私としたことが……なんと情けない」

 物言いが丁寧で育ちの良さを伺わせるが、彼の乱れた服装はその印象から大きくかけ離れたものだった。ヨレヨレで泥まみれになったスーツに、だらしなく開けたYシャツの首元。ジャケットのポケットにはシワだらけのネクタイが無造作に突っ込まれている。おまけに酒臭い。

 やけに顎のあたりを気遣っているところから察するに、きっと顎鬚をたくわえているのだろう。今は透明化して見ることができないが、どこか収まりが悪いのか、何度か包帯を巻き直している。

 声の感じから推測すると年齢は50代から60代か。重低音のよく通る品のいい声だ。人物像だけを見れば紳士という言葉が一番しっくりくるが、ヨレヨレのスーツと酒臭さがその印象を疑わしいものにしている。とにかく掴みどころのない人物だった。

 彼は包帯を巻き終わると、最後に胸ポケットから丸眼鏡を取り出してそれを掛けようとした。だがレンズ部分に亀裂が入っているのに気付き、ふと手を止める。

「ああ、あの警官だな……。くそっ」

 忌々しげに呟く彼の姿から想像するに、きっと昨夜の大捕り物で破損したのだろう。しかし彼はそれ以上何も言わず、仕方なしに眼鏡をかけてからようやく僕に向き直った。

「……さあこれでいい。行こうか」

 そして戸惑う僕と瑠璃子さんを追い抜いて病室を出ると、慌てて追いかけようとする僕に「電人博士がいるのはここだね、さあ研究室まで案内してくれたまえ」と要求した。

「電人博士ですか? あなたは一体、博士とは……」

「同じことを言わせるんじゃない、若いの。無駄口を叩いている間に帝都が裏返っちまうぞ。電人博士はどこにいる、1階か? 2階か?」

「申し訳ないが、ご老人」

 僕はあえて語気を強める。そして続けた。

「いいですか、博士の研究室は帝都警察の管轄です。許可がない限り一般人を通すことはできません」

 しかし彼は場の空気の悪さなど少しも気に留めず、飄々と言い放つ。

「それなら私は別だな」

「なぜ?」

「お前さんが一緒だからさ」

 そしてニヤリ。包帯の下の口元をほころばせた。

「さあ分かったら早く案内しなさい、若いの」

「ご老人、あなたは一体……。一体、誰なんです?」

「……。さあな、忘れた。全部忘れちまったよ。そう……記憶喪失ってやつさ」

「記憶喪失?」

「ああ、何も覚えていないね。だから質問をしても無駄だよ」

 僕は廊下でその男と睨みあう。だが現実は彼の言う通り一刻を争う状況にあった。

「……九条さん」

 瑠璃子さんに促されて窓の外を見上げる。そして戦慄した。

 空に大きな亀裂が走っている。さらに僕の見ている前で空の一部がはじけ飛び、まるで割れたガラス窓から顔を覗かせるように『壁』の向こう側の光景を晒した。

「……思ったより早いな」

 男が緊張した面持ちで呟く。

「さあ若いの、迷っている暇はないぞ。私を博士のところへ連れていくか、それとも<ドクター>たちの暴挙を見逃すのか……。私にはこの状況を遅らせる手段がある。しかしモタつけばその分、効果が薄れる。どうだ、今ここで決めろ」

 その声は有無を言わさぬ迫力で僕へと突き付けられた。



……つづく。

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