-Longinuslanze Testament-

Dies irae, dies illa solvet saeclum in favilla.
Teste David cum Sybilla.


テーマ:
こちらの小説は、ルパン三世とDies iraeのコラボ(クロスオーバー)小説です。
ちなみにルパン三世短編『鉄条網の向こう 蒼の祈り』『38』と連作になっていています。
時間軸的に『38』→『鉄条網~』→今作『lose control』という流れです。







 
 1941年。ドイツ、ベルリン郊外。

「なんたってわざわざこんなポンコツで……」

ガタガタと揺れる崩れかけの車内で、そう愚痴ったのは相棒の次元大介だった。
一ヶ月ほど前にドイツのアウシュビッツ強制収容所での一件で再会した彼は、
愛飲の煙草を傍に自分で備え付けた灰皿に押し付ける。
それを横目で見つつ、運転席で同じく煙草を吸っていた大泥棒、ルパン三世は
車を人気の少ない路傍に止めて背もたれに寄りかかった。
ぎしぎしと嫌な軋み音が二人の耳をつく。

「ヒトラーから盗んだ車でドイツに来るのは気が引けたってか?」
「まぁだナチス・ドイツもヒトラーも生きてっしな?
見つかったら追っかけまわされんでしょ~がヨ」
「そりゃあそうだろうが……」

ヒトラーから盗んだ車というのは、メルセデスベンツの往年の名車『ベンツSSK』の事だ。
次元と再会したアウシュビッツにヒトラーが乗り付けてきた際に、ルパンが盗んだ一品。
強制収容されたユダヤ人達を逃がす最中で手に入れたルパンを逃がすまいと、
あの時のヒトラーの激昂ぶりは今でも忘れられない。
確かにそんな彼がいるこのドイツにSSKで乗り付ければ、
見つかった途端有無を言わさず銃殺だろう。

だが、そうは言っても。

「お前がそんな事気にする性質か?ルパン」

次元の言う事も最もである。
ルパンは決して泥棒である事を恥じたり悔いたりはしていないし、
盗む事に対して何か後ろめたい感情や断罪の気持ちを抱いたりもしていない。
盗まれた本人に盗んだモノをわざわざ見せ付ける趣味があるワケでもないが、
それを偶然見られて追い掛け回されようが、見事華麗に逃げおおせてみせるのが彼だ。

首を傾げるばかりの次元に、ルパンは苦笑した。

「まぁ今日だけは勘弁してちょ~だいな、次元。
今日ここに来たのは、言っちまえばお忍びだかんな」
「お忍びだぁ~?」

どこぞの殿様か。

「忍んで行動すんのが泥棒なんだけっども、今回のお忍びは泥棒目的じゃあねぇし」
「?じゃあなんでまたこのドイツに。情報収集か何かか?」
「い~やぁ、人に会いにヨ」
「人に?」

問い返す次元の横、ルパンは自分の懐を手で押さえた。

「俺のワルサーに縁があるヤツ……というか」
「ワルサーに?」

銀色に輝く美しい、ルパンの愛人。

「そ~いや次元にはまだ話してなかったっけか。俺のこのワルサーちゃん、実は貰い物なのヨ」
「もらい物だぁ?」
「そ。俺様の所に突然嫁いできちゃったのよね~この子」

なんて言いながら不敵に笑うルパンに、次元は「初耳だ」と帽子を押さえた。

「言われてみりゃあ、ワルサーP38は今のナチスドイツに正式採用されてる銃だったか」
「俺がコイツをもらった頃は、まぁだルガーちゃんが主流だったけっどもな」
「まだワルサーが新参の時かよ。そいつは驚きだ。
で?大泥棒に最新の銃をプレゼントするなんざどこの物好きだ?」
「ラインハルト・ハイドリヒ」
「ぶふっ!!」

ルパンの迷いない即答とその名前に、次元は思わず噴出した。

「バッ!おま、なんでそんな危ねぇ野郎から!」

次元が取り乱すのも不思議ではない。
ラインハルト・ハイドリヒと言えばナチス・ドイツの4頭に数えられる高官だ。
秘密警察ゲシュタポの長官の任につく男。
しかもその気質は冷静沈着にして冷徹無常。虐殺も謀も仕事とあらば躊躇することなく実行する。
所以、黄金の野獣。
悪魔。死神。

「そんな野郎に会いに行くなんざ自殺行為だぜ、ルパン。
ワルサーもらったからってまさか餌付けされてんじゃねぇだろうな!?」
「ちげぇ~よ!」

確かにとてつもない危険人物だ。
彼はヒトラーに代わって虐殺を行う処刑人にも等しい。
その残忍さに、他の軍人関係者達もハイドリヒには早々近寄らないほどだ。

しかし、ルパンは今一度会いたいと思っていた。
ワルサーを貰い受けたあの時から3年弱。
屋敷に招待され、どうという内容でもない会話をして……。

ルパンはその時の記憶を思い返しつつ、再びアクセルを踏んだ。
走り出すポンコツ車両。横で黙り込む相棒。

向かうは、かつて彼に招待された、彼が住む屋敷。



 ドイツ、プロイセン。
3年前よりも軍人の姿が少なくなったその街は、人気もあまりない寂れた街になっていた。
ルパン達からすれば動きやすい場所にはなったが、なんとも空しい。
壊れて動かない車の窓から吹き込んでくる風は冷たく、その街の暗い風情に拍車をかけていた。

街の外れ。ルパンは記憶を頼りにハイドリヒの屋敷へと向かった。
辿りついた大きな屋敷の前、変わらない景色と屋敷の外観は少しばかり懐かしい。
車を降りて扉の前に立てば、周囲の静寂と屋敷内の気配も無さとで重い。

「……。人の気配が無ぇな。誰もいねぇんじゃねぇか?」
「……」

次元が言うように、ルパンにも人の気配は感じ取れない。
職業柄、気配察知は鋭い方だし、例え気配を隠されていたとしても、
ルパンや次元には直感で察知できる。

しかし……。

「次元はここで待っててちょうだいな。ちょっとばかし中を見てくっからヨ」
「ったく……分かったよ。あんまり時間かけるんじゃねぇぞ。
さっさとこの国とはオサラバしてぇんだ」
「あ~いよ」

苦笑して返事をし、ルパンは扉を押し開けて屋敷内へと入った。
玄関からロビーは広く、二階へと上る階段の下には、かつてハイドリヒが立ち去ったドア。
おそらく居間か私室に繋がっているんだろうが……。

ルパンは周囲を一望し、ゆっくりと歩を進めた。
ロビーの真ん中辺りで足を止めて、階段の方を見上げる。
白く冷たい石の階段が壁をつたうように二階へと伸びていた。

……先も言ったように、人気は無い。
だが、なんだろうか。
直感が、微妙ながらに震える。


人の気配じゃない、何かが―――ざわり、と肌を撫でて。


「久しいな。ルパン三世」


「―――!」

ハッと咄嗟に顔を下げる。
視線を二階部分からロビーへと戻し、階下にいつのまにか立っていた人物へ。

金色の短い髪とナチスの軍服。冴え冴えとしたその蒼い眼は今でも忘れていない。

「―――ライン、ハルト・ハイドリヒ」

呼べば、ハイドリヒは嬉しげに口端を持ち上げた。その、寒気がするような笑み。

「久しいな」

もう一度同じ言葉を繰り返し、ハイドリヒは数歩ルパンへと近づいた。
無意識に、ルパンは警戒を強める。

「一月前は、アウシュビッツで見事総統閣下の愛車を奪ったそうだな。話は聞いているぞ?
華麗な手際だったそうではないか。私もぜひ見たかったが」
「……まぁ~ね。アンタがイイ狙い目教えてくれたんでしょ~が」
「そうだな。しかし実行に移したのは卿だ。賞賛しよう」
「そりゃどーも」

あくまで淡々と返し、ルパンは内心で思っていた事を正直に口にした。

「そんで?そういうお前さんは随分お変わりじゃねぇの。3年の間に何があったワケ?」

かつてはここまで、何かが大きく『外れた』ような、
それこそ人外魔境のような気配をした人間じゃなかった。

「いやなに。私のコレはずっと昔から持ち得ていて……だが表に出せずにいたモノだ。
だからと言って四六時中振りかざす趣味も無い。そう警戒してくれるな」
「するに決まってんデショ。近くにいるだけで寿命が縮まりそうだぜ?ハイドリヒ卿」
「私は昔からこういう類の生き物だ。外れているが故に常人には理解できんよ」

黄金の野獣。
フィーア・ハガル(4つの破壊)。


そう彼を呼ぶ人は多い。
だが、そんな名前という型に押し込めるような、そんな器じゃない。
コイツは、そんなモノじゃない―――!


警鐘が鳴る。鼓動が跳ね上がる。

「ところで、卿」
「!」
「外にいるのは、卿の友人かね。アウシュビッツでの一件でリストに上っていたな。
確か次元大介と言ったか」
「……ッ!」

咄嗟に、ルパンは踵を返して玄関の扉に手をついた。
しかし、いくら押しても扉が開く様子はなく、硬く閉ざされている。

(どんなトリックだよコレ!!)

「あぁ、私の友人も外にいたな」
「……友人だぁ~!?」

それはとてつもなく胡散臭い。
というより、こんな獣が友人と呼ぶ相手なんて、まともなはずもない。

「あれも大概な生き物だが、ああいうモノも世界には在るという事を知るには良い機会だ。
卿の友人なのだろう。信じて待つがいい」
「待てるかぁああ~~~~!!!」

叫び、力を思い切り込めて扉を押すもビクともしない。

「……次元っっ!!」




 屋敷前。
車に寄りかかって煙草を吸っていた次元は、同じく車に寄りかかってきた影法師に愕然とした。
ボロリ、と煙草の先端から灰が零れ落ちるが、次元の視界には映らない。
目を見開き、そこにいる何か解らないモノを見据える。

影法師は黒く長い髪を腰ほどまで流した、綺麗な顔立ちの男だった。
黒いコートが小さく風に揺れる。
しかし、そんな男の影は、地面で何か違うカタチで蠢いていた。

「お初のお目にかかる。ルパン三世の友、次元大介殿で間違いないかな?」

寒気がするような笑みを浮かべて問うその男。

「ルパン三世が私の友と話している間は、私が貴方の話し相手になりましょう。
何、これでも長く生き過ぎて擦り切れている身だが、故に話の種には困らない」
「テメェ、何だ?」
「これは失礼。私はカール・クラフト。あまり意味も無い名前ですが」
「名前なんざどうでもいい」

それは本音だった。次元はこの男の名前が知りたいのではない。


「テメェは―――何だ」


ヒトではないソレに、次元は吐き気すら覚えながらも、問う。
カールと名乗ったその男は、



まるで、蛇のように笑った。






続く
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