ara40のブログ

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青嶋ひろの


■環境が許したトリプルアクセルへの挑戦

四大陸選手権で2位となった浅田真央。トリプルアクセルは回転不足の判定を受けたが、その後の演技はまとめた
四大陸選手権で2位となった浅田真央。トリプルアクセルは回転不足の判定を受けたが、その後の演技はまとめた【Getty Images】

 ショートプログラムのトリプルアクセルは、両足着氷。
 フリーではうまく着氷したかに見えたものの、惜しくも回転不足の判定。
 なかなか試合で成功できないトリプルアクセルに、ショートでもフリーでも挑み、優勝を逃してしまう――。
 そんな状況だけを考えれば、ここ数シーズンと何も変わらない。
 しかし四大陸選手権。見守る側の受け止め方も、浅田真央本人の気持ちも、昨シーズンまでとはまったく違っていた。
 まず今大会、報道陣は以前のように、「なぜまた無理をしてトリプルアクセルに挑んだのか?」という質問を、本人や佐藤信夫コーチに向けることはなかった。そして試合後の浅田真央の表情にも、まったく悲壮感がない。ショートでもフリーでも、取材エリアに現れた彼女の表情は、こちらが「お!」と驚くほどさっぱりとして明るく、言葉も前向きだった。

 その原因は、二つ。一つは公式練習でも6分練習でも、気持ちの良い、そして気圧の低い高地ならではの素晴らしい高さのあるトリプルアクセルを、何度も着氷していたから。「全日本の前までは、なかなか回転不足が直らなくて、試合で入れても意味がない、という状態でした。でもその後は何度も何度も練習して、だいぶ回るようになったかな。そしてコロラドに来たら、急にちゃんと回転できるようになったんです! これを跳べたらちゃんと得点がもらえる、というジャンプになって、信夫先生からも『まだ試合でやってはいけないよ』の指示がなかった。『あ、跳んでもいいんだ! ようやく入れられるな!』『きっと試合でもできる!』って思ったんです」
 にこやかに語る様子からも、ずっと苦しんできた佐藤信夫コーチの下でのジャンプの再構築が、少しずつ完成に近づいていることがうかがえる。特にショートプログラムの6分練習で跳んだトリプルアクセルは、かつて見たことのない、女子のジャンプとは思えないほどの大きさ! 当地の子どもたちは「ワーオ! トリプルアクセル!」と大喜びだった。これだけ練習でいいジャンプを跳べているのなら、試合で挑むことに何の疑問もない。むしろ、試合で挑むその瞬間を、わくわくしながら待ってしまったほどだった。


■「呪縛」からの解放

 そしてもうひとつは、今の浅田真央はバンクーバー五輪シーズンとは違い、たとえトリプルアクセルに失敗してもルッツやサルコウなどで得点を得られる選手になっていることであり、さらに、ほかのエレメンツも演技も、トリプルアクセルに引きずられることなく、気持ちを切り替えてプログラム全体を完成させる姿勢を、彼女が見せていたことだ。

 ショートプログラム、「シェへラザード」は、身体も心も軽やかな「お姫様ではなく真央自身」を舞い、笑顔で踏んだストレートラインステップでは大喝采を浴びた。フリー「愛の夢」は、伸びのあるスケートが音楽に寄り添うようで、ただ美しいだけでなく、少し愁いの含んだしぐさや表情で会場を魅了した。
「プログラムを滑るときは、強い気持ちと力強いスピードがあれば大丈夫、と思っています。信夫先生も、いつも練習から『スピード!』って声をかけてくれる。今回のフリーでも先生の声を聞いて、『スピード!』って思い出しながら滑ったんですよ。それから先生は、『笑顔を忘れないで』っていつも言うので、今日も笑顔で(笑)」
 もうトリプルアクセルばかりにこだわり、跳べないことで暗い表情を見せてしまう浅田真央はいない。かつて、プログラムをどう表現したいかを問うても、「ジャンプを跳べなければ、何も始まらないです」などと、演技内容を語れなかった浅田真央もいない。
 試合での完璧な成功は、まだない。しかしそれより先に、浅田真央は「トリプルアクセルの呪縛」から解放された――そんなことを確信できた、うれしい四大陸選手権だった。

■「自分を強く持つために必要な、大事なジャンプ」

演技後、表彰台での満面の笑みがトリプルアクセルの完成が近いことをうかがわせる
演技後、表彰台での満面の笑みがトリプルアクセルの完成が近いことをうかがわせる【Getty Images】

 五輪シーズン前後、アクセル、アクセルと追い込まれていく彼女を見て、浅田真央は何とかしてトリプルアクセルを諦めることはできないものだろうか、と思った。軽々と、どんなジャンプでも跳べていた少女時代とは体つきが違う今、無理にアクセルにこだわる姿勢だけが美しいとはいえない。トリプルアクセルなど跳ばなくても、浅田のスケートには彼女のキャラクターそのものの、あたたかく見るものを包み込むようなオーラがある。アクセルではなく、プログラムから外していたルッツやサルコウを取り戻すことだって大事だ。アクセルなしで戦っていけるスケーターになることを、浅田真央はなぜ選ばないのだろう、と。

 しかし彼女は、すべてを諦めなかった。オリンピック後、ルッツやサルコウも練習して、正しい形を取り戻しつつある。プログラムは笑顔でいっぱいにして、信夫コーチの指導のもと、深いエッジワークやそこから繰り出すスピードも手に入れた。ここまでの努力だけでも、大変なものだっただろう。そしてそのすべてがそろえば、もう彼女にトリプルアクセルはいらないはずだ。それでも浅田真央は挑むという。それも以前のような悲痛な表情でではなく、完成に近づいていることがうれしくてしょうがない、というように、満面の笑顔で。
「トリプルアクセルは、自分を強く持つために必要な、大事なジャンプ。それがこうやって今シーズン、少しずつ自分のものになっていること。コロラドに来て、自分の納得のいくものが跳べるようになったこと。大きな一歩だと思っています。でも先生からは、トリプルアクセルだけがすべてじゃないよ、っていつも……フリーの日にも言われました(笑)。自分でも、トリプルアクセルだけではダメなんだ、って思っています」
 まったく、彼女から「大事なジャンプ」を取り上げることなく、挑戦して失敗してもほかの部分で戦える選手へと導いた佐藤信夫コーチの手腕は見事なものだ。

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