水っぽくもなく、かといって乾きすぎず、塩漬けし水切りした後の白菜にヤンニョムを塗り込んでいく。
その手に伝わってきた感触だけで、大概その味は予想できる。
「今回は最高のできや」
隣にいたかみさんに、珍しく呟いた。
キムチはまさに生き物。
慎重に食材や調味料の分量を量り、ほどよいタイミングも図りながら調理していくのだが、元々季節によって食材の味は変わるし、肝心の唐辛子だって毎年出来が異なる。
そこにその日の気候や温度、湿度といった要素も加わり、自身の体調だって重要な影響を及ぼす。
したがって自信など持ちようがないし、元々の腕だってたいしたことは無い。
だからこそ、ただ真剣になれ、フロー状態になって漬けられるのだ。
また、このキムチの素を仕込むのが、私の店で1番手間の掛かる仕事といってよい。
少し前までは、時には朝方まで掛かってひとり仕込んでいたが、今はスタッフにも恵まれ、みなの力を借りて一気に仕込む。
それでも何時間もかかる。
1回の仕込みに3キロ使うニンニクが途中で切れそうになり、買い出しに行く者、皮をむく者、フードプロセッサーにかけ、ヤンニョムに混ぜ込む者などなどと、仕事を分担し共同作業で念入りに作った。
今後も、今よりも美味しいキムチを作ることが終わりなき永遠の目標となる。
それを続け、達成するためのコツは、これまでのやり方を変えることだろう。
がしかし、不満に感じているのは、仕事や店をこれでよしとする自分がいることだ。
利益はともかく、売上と客数が順調に伸びているのを良いことにし、つい安住したところで都合の悪いことや苦手な分野からは目をそらし、見てみないふりで傍観者を決め込む。
これからまだまだ先にあるステージへ上がる努力を怠る。
忘れてはならない。
美味しい料理を提供し、お客さんの利益を確保すると共に、店の利益を重要視することを。
それはお金の問題だけではない。
経営者の資質に問題があるのなら、会計長のかみさんをはじめ、税理士や誰かの協力を得れば良い。
私が向き合うのは焼肉料理であり、最終的にはお客さんなのだ。
その過程において良否を決定する自分磨きがある。
そこを蔑ろにはできないが、「そんな奇麗事ばかり言ってないで、もっと現実を見つめて」という、同志だからこそきついことを言うかみさんの声が耳朶を離れない。
結局のところ、経営者でもなく、料理人オンリーでもなく、総合的な人間力が試金石となり、これからの店の行く末を決めることになる。
まずは手始めに、長年なおざりのままのメニュー改正に踏み切りたい。