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私はうつむいたままそれを聞き流していました。


やがて、音がやみ、静けさが訪れました。
今日はあきらめてくれたのでしょう。彼とは話したくありません。


ふたたび音が聞こえはじめました。


私は顔をあげて、しつこいなとつぶやきました。先ほどと同じ五コール目で音がやみました。
今度こそあきらめてくれたのでしょう。彼とは話したくないのです。


耳障りなメロディが閉め切った部屋に木霊しました。


私は呆れた顔で電話を見ていました。なんなのでしょうか、あの男はいつもタイミングが悪すぎるのです。
私は手を伸ばして電話を手に取り、着信ボタンを押しました。

「あっ、やっとでてくれた。今日、すごい話を仕入れたんですよ! あのですね――」

彼の怪談がおもしろくないのは、話す前に風呂敷を広げすぎるからだと思うのです。
子供に読み聞かせるように丁寧かつゆっくりと話したほうがよっぽど恐ろしいでしょう。
私の白けた空気を読んだのかどうかはわかりませんが、彼がしゃべるのをやめて質問をしてきました。

「なにかあったんですか」
「別になにもない……。なんでそう思ったの」
「なんとなく、ですかね。昨日変な夢をみたんですよ」
「夢?」
「はい。ほんと変な夢です」
「話して」
「えっ、でも怖い話は……」
「夢のほうが気になるからいい」


彼はため息をすうぅと吐いて呼吸を整え、ゆっくりとした口調で話しだしました。


「俺は都会の交差点にいて、ケータイでだれかに電話をかけているんです。
昼間だと思うんですけど人通りが激しくて皆歩くのが早かったような気がします。

普通だったら暑苦しかったり、ぶつかって不快になったりするんですが、
不思議と彼らは俺と一定の距離を保って通りすぎていくんです。

一メートルぐらいですかね、俺と通行人とのあいだに透明な壁があるみたいな感じです。
そこだけぽっかりと空間ができていて、まあ、歩くぶんには楽だったんで、ずかずか進んでたんですよ。
そしたら透明な壁がどんどん広がって、最初は手を伸ばせば届くようなところに人がいたのに気づくと
まわりにいた人間がみんな消えていたんです。


さすがに怖くなって他にだれかいないか探しはじめるんですけど……。


あっ、ここから急展開なんですけど変に思わないでくださいね。
なんというか……そこに人間はいなかったんです。

代わりに信号機とかアスファルトにひかれた白線とか、そいつらが話しかけてきて――」

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