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あれから1日に1度、携帯電話から着信音が聞こえてくるようになりました。



彼と話す内容は大学のことや心霊体験のことまで色々でした。
彼は怖がりらしく、ありがちな怪談を話すとおおげさに驚いていました。

他にも、私はその日の気分によって電話にでないことがあり、
でたとしても無言電話のように一切口を開かないこともありました。
そんな悪戯をしたときも彼は声をひきつらせながら一方的に何かをしゃべっていた気がします。

怖いのが嫌ならかけてこなければいいのに、と意地悪く言うと、怖いけど楽しいんですと返してきます。
私は別に楽しくないと続けると、じゃあこんな話はどうですかと調べてきた怪談を披露するのですが、
話下手なのでまったくおもしろくありません。

それを伝えると彼は落ちこんでしまい会話が途切れるのですが、次の日になるとめげずに電話をかけてくるのです。


彼とはたくさん話をしました。
しかし、私の病気や休学している理由について彼が質問してくることはなく、私からも話すつもりもありませんでした。


暗黙の了解とでもいうのでしょうか、触れてはいけないと彼も思っていたのでしょう。
そんな奇妙な関係が変化したのは春が終わり、梅雨に入ろうかという頃のことです。

私は部屋の真ん中あたりに座り、窓から聞こえる雨音に耳をかたむけていました。
雨戸の隙間から霧状の細かい水が入ってきて室内を優しく満たしています。
暑くもなく寒くもない、夏のはじめにあるわずかな時間が好きでした。

手近なところに携帯電話と空になった薬剤の袋が置かれていました。
通院していた心療内科の医師から薬はもう必要ないだろうと言われたのです。
今後は心理治療を行いながらもとの生活サイクルへと戻し、経過を看ていくのだそうです。


喜ばしいことなのでしょう。

ただ、私にはそれが実感できないのです。

なんのために、私は生きているのでしょうか。

なんのために、私は生きなければならないのでしょうか。


発作に苦しむため、予期不安に悩まされるため、息をするため、雨音を聞くため、
窓から吹く湿った風に肌寒さを感じるためでしょうか。


私の本当の病は治ってなどいないのです。


私は立ち上がり、半分ほど開けていた窓を閉めてカーテンをひきました。
部屋の真ん中に腰をおろし、体育座りをしてひざに顔をうずめました。

このまま飲まず食わずでいれば世界を閉じられるでしょうか。
不安や虞のない場所へと行けるでしょうか。



世界は――私に優しくないのです。

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