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T県の中央に位置する町に、とある廃病院がありました。

開業していたころの正式な名前は忘れられているのか、
今は町の名前をかりて『旧T病院』と呼ばれています。



小高い丘にひっそりと立つそれは片田舎にあり、まわりを田園やゴルフ場に囲まれていました。
昼間にやって来ればのどかな印象を受けそうですが、夜は街灯のたぐいがないため暗く湿っていて、
枝葉のこすれる小さな音でさえおぞましさを感じさせる場所になっています。

霊現象も多岐にわたっており、自殺した院長の霊やそこで亡くなった子供の霊が目撃されたり、
内部を探索している最中に激しい爆発音が聞こえたりするらしく、
地元だけでなく県外にも知れ渡るほど有名な心霊スポットでした。


かなかなかな、と夏の終わりをつげる蝉が鳴く午後6時。


心霊研究会という大学のサークルに所属していた私は、サークルのメンバーとともにこの場所を訪れました。
車を降り、汗ばむような外気を肌に感じながら空を見上げるとあたりは夕闇に包まれ、
鮮やかな橙を夜の黒が飲みこもうとしています。肝試しをするにはうってつけの日和です。

「小夜さん。本当に大丈夫ですか?」

運転席から降りてきた晃が声をかけてきたので、私は伏目がちに心配しないでとつぶやきました。

車酔いをおこしたようで、ひどく不快な気分です。
できることなら胃の内容物をすべて吐き出してしまいたいと思いました。

「あまり無理しないでください。病み上がりなんですから」
「うん。ありがと」


彼は震えていた私の肩を優しく抱いてくれました。


少しはなれたところに停めてある車から梓と留衣、耕太が降りてきました。
梓は私たちを一瞥して不機嫌そうに腕組みをしながら「ちょっと、こんなとこまで来て見せつけないでよ」

私は晃からはなれて彼女らのもとへ歩み寄り。

「ごめん。ちょっと気分が悪くて」
「だから出発する前に酔い止めを飲んでおいたほうがいいって言ったのよ。意地を張るからそうなるの」
「うん」
「晃くんとふたりでここに残ってる? 私たちだけでも行ってくるけど」
「ここまできたんだから、ちゃんと行く」

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