正月休みには縁が無い。

それこそ猫の手も借りたいくらい多忙を極める職場だから。

人がどうあれ、俺はずっとそうなんだと思う。

この仕事をやっている限り。

楽しむ余裕なんて無い。

そう思っていた。

その時までは……。




……新春特別読み切り小説……

 【届ける思い】



郵便配達員になって結構経つ。

安定して働ける所に就職したいと思ったら、消去法でこうなった。

そんなだから、あんまり向上心とか意欲も無くて、

ただ毎日、仕事をこなせればいいやと、そう思っていた。


「刈谷(かりや)君、今年も頑張ろうね」


声をかけて来たのは、同じ郵便局で働く畑山(はたやま)さんだった。


「はい」


適当に頑張ります、と心の中で付け足しながら返事をした俺に、

彼女はにっこりと微笑みかけてくれた。


(相変わらず、いい人だなぁ)


彼女はどんな時も明るく笑顔で、たまに現れる嫌な客にさえ、

実に礼儀正しく接していた。

まさに郵便局員の鏡のような人だと思う。


(俺とは大違い)


とにかくノルマをこなせればいい。

そんなふうだから、熱意も無ければ誠意も無い。

せいぜい配達先を間違えないように気を付けているくらいで、

これといった事はしていない。

御客様への思いやりとか誠意とか、そういう特別な意識は何も無い。

畑山さんみたいな局員ならきっと、

俺とは全然違う意識を持って働いてるんだろうけど。


「う~、寒ぃ」


思わずぼやきながら、束ねられた年賀状を手に取る。

次の配達先へと向かったその時だった。


「ゆうびんやさん!それ、うちの?」


小さな女の子が、白い息を吐きながら尋ねて来た。


「ああ、そうだよ」


はい、と渡すと、女の子は、ぱぁっと顔を輝かせた。


「ありがとう!ゆうびんやさん!」


そう言って、嬉しそうに家の中に駆けて行った。


「ねえおかあさーん!ねんがじょう、とどいたよー!」

「あらまあ」


朗らかな空気がこちらまで伝わって来るようで、

何だかちょっと嬉しくなった。


(何だろう、これ)


郵便配達員になって数年。

こんなふうに直接年賀状を渡したのは初めてだ。


(こんな感じなのか)


届けた先の家庭で、年賀状がどんなふうに喜ばれているのか。

実際に感じたのは、これが初めてだった。


「おっし!!」


残りの配達も頑張ろう。そう思えた。


正月休みに縁は無い。

それはこれからも変わらない。

それでもいいかと、心から思った。


これからはきっと、今までと違う気持ちで仕事が出来る。

そんな気がする今年の正月なのだった。


<了>



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