このマンガの原作を書いた武論尊は、「北斗の拳」や「ドーベルマン刑事」を代表作にもつ原作者で、昔から最初の引き付け方がとにかく上手く、作画の池上遼一もオリジナルはたいしたことないが、原作がつく事で画の上手さが引き立つ、「男組」や「サンクチュアリ」などを代表作にもつ、漫画家というより絵師という感じの漫画家。

このコンビによる作品は多数あるが、これまでの現代ものから方向性を180度変え、三国志を題材とした前作「覇-LORD-」に続き、真田幸村を主人公とした歴史もので、元服(成人)前、織田信長の人質となった信繁の時代から関ヶ原の合戦までを描き、全4巻完結となっている。
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真田幸村というと、猿飛佐助や霧隠才蔵などの真田十勇士を中心に据えたものが多いが、このマンガは真田幸村を中心として物語は進んでいく。

前半は「本能寺の変」による織田信長の死と明智光秀の斬首までを描き、後半では海外に出た幸村が信長と異国の女性との間に産まれながら、海外に放逐され、信長を憎み心をなくした息子、ミノウとの戦いを中心に描かれていく。

歴史ものというと史実に基づいた合戦を中心にしたものが多く、その為登場人物が多くなり、そのわりに、人物の描かれ方が浅く、関係性がわかりづらい為、歴史に興味がない人には受け入れられにくい。

殊に大人のマンガ読者の多くがマンガに求めるのはあくまで娯楽であり、難しいものを嫌う傾向にあるが、このマンガは、エンターテイメント色を強める為、登場人物を絞り、歴史に興味がない人にもわかりやすくなっていると思う。

歴史を題材にしつつ、このコンビの作品に共通している「義に生きる男」、「漢(おとこ)」というテーマは健在で、真田幸村から見た織田信長をはじめとする漢達は時に間抜けで、時にぶざまでありながらもどこか男臭い。

織田信長といえば、武田軍との長篠の戦いにおいて、戦にいち早く鉄砲を持ち込み、以後もこれを用いて僧兵などの大量虐殺をした非情な武将としても有名だが、このマンガでは敵とはいえ人を刀で斬る嫌な感触を味わわずに済むように鉄砲を使用するという人間らしさをもった漢として描かれている。

また、明智光秀と豊臣秀吉との関係もよくある功名心から競い合うどろどろした関係ではなく、互いに認め合い、信長を将と仰ぐ良好な間柄として描かれている。

それにたいして徳川家康は、武将としてではなく野心をもつ腹黒い政治家として描かれている。
史実にもあるように、ふだんから影武者を立て、天皇家に取り入り、官位を欲する。そのうえ忍者の頭領・服部半蔵と謀略を巡らせる。

「本能寺の変」については、明智光秀の謀反ではなく、家康の謀略説を採用。
光秀に化けた服部半蔵が明智軍を動かし、一切の問答を禁じた上で本能寺に攻め込む。
信長のお供についていた信繁は一緒に死のうとするが、森蘭丸に脱出させる。
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信長は切腹する前に光秀に一矢報いようと光秀に矢を放ち、それを受け止めた姿からすべてを悟る。

光秀が気づいた時、すでに遅く、謀反の汚名を着せられていたが、家康に天下を握らせぬ事と盟友秀吉の今後の邪魔者を排除する為に、敢えて反乱軍を募って秀吉に挑み、頃合いを見て自分の首を差し出す。
信繁は「謀反人」として晒された首に貼られた紙を「漢」と書き直す。
この人の描く信長はしなやかな獣っぽい雰囲気で好きだなあ。

ここまでは、このマンガ、おもしろかったが、この後海外に出てから殺伐とした展開が続き、つまらなくなっていく。前半がおもしろかった分、残念な作品である。
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「リングにかけろ」や「風魔の小次郎」、「聖闘士星矢」などのヒット作を描いた車田正美の半自伝的マンガ。160309_111338.jpg
このマンガ、車田正美が中三の時から「リングにかけろ」が人気作品となるまでを描いているのだが、友達をはじめ、何年原稿を持ち込んでもデビューできない漫画家志望、一度は人気作家となりながらあとが続かず廃れていった漫画家など、とにかく毎回人が死んでいく。
そして本来なら重いはずの人の死に、なんの重さも感じられないのがこのマンガの特徴である。

身近な人の死が実体験なら、その死を描くと自然に重さが加わると思うが、このマンガからはまったくそれを感じられなかったので、このマンガに出て来る友人達の死はおそらく演出に過ぎないと思っている。

またこのマンガが掲載されたのが週刊少年チャンピオンだったからか、車田正美が実際デビューしたのは週刊少年ジャンプで、当時編集長だった西村さんを週刊少年チャンピオンの壁村さんに変えているのも自伝的要素を薄っぺらいものにしてしまった感じがする。

自伝マンガを描く以上、そこからなにかしらのメッセージを感じるものだが、このマンガからはただ、売れるまでの日々をなぞっただけの印象しか受けず、読む価値がまったくなかった。
車田正美は、その時々におもしろいマンガは描けるが、その中身に濃さをもたせる事はできない漫画家だとあらためて感じさせられた一冊となった。
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この作品を描いたのは、昭和の時代に手塚治虫の等身大のロボットを描いた「鉄腕アトム」にたいし、日本で初めて巨大ロボットを扱った「鉄人28号」を描いた横山光輝。

横山光輝は、後年こそ「三国志」や「徳川家康」などの歴史ものばかり描いたが、もともとは「魔法使いサリー」などの少女マンガから「伊賀の影丸」などの少年マンガまで多伎にわたって描いた漫画家である。

自分から見た横山光輝は、kagemaru-1.jpg
「伊賀の影丸」、
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「仮面の忍者赤影」
などの忍者ものと
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「鉄人28号」、
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「バビル2世」
などのSFものを中心に描く少年漫画家だった。

その横山光輝が「バビル2世」の後に描いたSFものが、今回読んだ「マーズ」である。

この「マーズ」は
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全5巻完結で、「六神合体ゴッドマーズ」としてアニメ化もされたが、
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自分はアニメは観てないが、マンガとはまったく違うストーリーだったようである。

「マーズ」は、活発な噴火活動をする、秋の島新島で発見されたひとりの少年が救助されるところから始まる。
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秋の島新島に取材に来ていた新聞記者の岩倉
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によって救助された少年は、記憶がなく、言葉も話せない状態だった。

少年は検査の為病院に入院したが、健康そのもので、だが少年の身体がレントゲンに写らない事を不思議に思う院長はその事を伏せ、療養を兼ねて自宅に住ませて娘の春美に
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看護を任せながら様子を見る事にする。

新聞記事からマーズの100年早い目覚めを知った監視者達は、
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本当にマーズなのかを確認する為、ラーが
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日本に向かう。

同じ頃、マーズの目覚めると動き出す、地球人の破壊兵器のデータを取る為の偵察ロボット・タイタンが行動を開始する。

ラーは日本に着くと、海外の新聞記者としてマーズが入院してた病院を訪れ、マーズの正体がわからぬようカルテを焼いてしまう。
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続いて院長の家に現れ、春美と岩倉の会話を覚え、話せるようになっていたマーズを外に連れ出す。

ラーは自分の人間離れした身体能力にマーズがついてこれる事から、足りないのは記憶だけと判断し、記憶を戻そうと秋の島新島に連れて行くが、火山活動の影響で地形が変わっており、マーズが出て来た場所が見つからない。

そのため、ラーは自分達が遥か昔、地球に来た宇宙人が地球人の知能指数の高さと好戦的な性質から、やがて宇宙に進出し侵略者となる事を危惧し、世界各地に監視者と一体で一国を滅ぼす力をもつ六神体と呼ぶロボットを置き、100年後、マーズが目覚めるまでは地球人のデータを収集し、万一危険な実験をする国があれば、神体でその国を滅亡させる役目を担っていた事、偵察ロボットのタイタンを倒すと地球を爆発させる力をもつロボット・ガイアー
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が動き出す事、マーズが目覚めた時、地球人が宇宙を侵略する危険を感じたらマーズによりガイアーを爆発させ、地球を消滅させる事になっていた事などを教える。

マーズとラーが日本に戻ると、自衛隊がタイタンの進行を阻止する為に攻撃しているが、まったく効かず歩みは止まらない。

戦車を次々と操縦者ごと踏み潰しながら進むタイタンを見ていて、マーズはたまらず飛び出しタイタンを制止し、海に帰すが、そのタイタンを自衛隊が攻撃するが効かず、支援に来ていたアメリカ海軍は遂に水爆を使用し、タイタンを爆破する。

ガイアーが動き出したのを確認したラーはマーズにガイアーを爆発させるよう促すが、記憶が戻っていないマーズは多くの人間達が暮らす地球を爆発させる事を迷い、決断を一ヶ月先に延ばす。

一ヶ月後、監視者達は集まり、地球の終末と自分達の役目の終わりを迎えようとするが、約束の時間になってもなにも起こらなかった。

監視者達は、マーズの心変わりにたいして、マーズを倒す事で目的を果たそうと、それぞれが六神体を操りマーズとガイアーに挑む。
六神体とマーズとの戦いは地球全体を巻き込んで行われ、多くの犠牲を払いながらもマーズが勝利を収める。

それによって地球は爆発しなかったのだが、生きのびた人々が暴徒と化してマーズを襲い、マーズを守ろうとする軍との間に争いが生じる。
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混乱の中、記憶が戻ったマーズはその醜い光景を目にし、
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ガイアーを爆発させる。
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地球は消滅したー。
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救いようのない物語。
読み終わってまず感じた印象である。

自分達が少年時代、このマーズ以外にも人間性悪説や神性悪説をテーマとしたSFマンガがいくつかあり、それを見る度に人間の愚かさや怖さを感じたが、地球が消滅するラストは「マーズ」以外では見た覚えがない。

「マーズ」が連載されたのは、自分がちょうど週刊少年チャンピオンを読んでいた小学生の頃で、横山光輝最初で最後のケンカもの、「あばれ天童」
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が好きだったので、その次に描かれたSFものを当時は好きになれず、その後もきちんと読む機会がなかった為、全巻通して読んだのは今回が初めてだった。

この歳になって読むと、最初の方で張られた伏線がストーリーの進行とともに明らかになっていくのがわかり、それも含めて楽しめた。

あらすじにも書いたが、レントゲンに写らないマーズは、はじめから人間っぽくないと思っていたが、いくら使命とはいえ、地球を爆発させれば自分達も死ぬというのに、それを気にもしない監視者達に違和感は感じたが、宇宙人だからかと勝手に思っていた。

マーズはガイアーを使って、六神体を倒していくが、激しい戦闘を繰り返すうちに傷つき、入院する。

しかし、地球人でないマーズに地球の治療は効き目がなく、とうとう身体が腐り始める。

そこで、マーズは自分が発見された島に戻るのだが、ここで地球を救う為に調査団と行動をともにし、噴火に巻き込まれ、偶然マーズがセットされていた場所を発見したが島に置き去りにされ、救助が来るまで衰弱しながらもマーズをセットした宇宙人について勉強していた岩倉と再会する。

岩倉によると、マーズは人工細胞から造られた人造人間で、しかもマーズだけでなく、監視者達もそうである事がここで明かされる。
はじめの方で、ラーがマーズに「兄弟のようなものだ」と言うくだりがあるが、その意味がここで繋がる。
それだけでなく、監視者に感じた違和感、恐怖心がなかったり、大量の殺戮を簡単に行える非情さなども感情をもたない人造人間ならば合点がいく。

マーズの唯一の武器である鋼の硬さをもつ髪の毛による攻撃(ゲゲゲの鬼太郎の髪の毛針にちょっと似ている)も人造人間ならではだろう。

ではなぜ本来感情をもたないマーズが感情をもったのか?
これは自分の想像だが、記憶を失ったマーズがはじめに覚えた言葉は、院長の娘春美と岩倉との会話からであった。
記憶がない白紙の状態だったからこそ、言葉とともに人間のもつ心も同時に吸収してしまったのではないかと思っている。

救助されたものの栄養失調で死んだ岩倉によってもたらされたのは、マーズ達の正体だけでなく、ガイアーの爆発はマーズの命令とマーズが死んだ時以外に六神体がすべて破壊された時にも起こるという情報だった。

日本政府は地球の存亡の為にマーズを騙し、核シェルターに閉じ込めたりするが、神体にたいして無力であり、結局はマーズに頼るしかない。
神体が残り一体となった時、攻撃できない軍は神体が暴れる様を見ているしかなく、人間にも多くの犠牲が出た。

岩倉の残したメモから、神体を内部から破壊すれば故障と認識される為、ガイアーは爆発しないとわかり、マーズとラーの戦いが始まるが、横山光輝の描くロボットはどれも機械的で動きもぎこちない。
それなのにロボットらしく感じさせるのがこの漫画家の凄いいところだ。

そしてクライマックス。ようやくラーを倒し、平和が訪れるかと思いきや、最後の神体を倒してもなにも起こらなかった事で、民衆のこれまで我慢していた怒りがマーズに向けられる。
これにたいしてマーズが死ぬとガイアーが爆発する事を知っている軍はマーズを守ろうとし、争いが勃発する。

これと似たケースが4巻でも描かれている。
神体の五体目を倒した後、マーズは帰途、暴徒と化した民衆を軍隊が射殺してる光景を目にし、この時に自分の行動が正しいのか迷いが生じる。

そして地球人同士が争う中、マーズは記憶が戻り、疑問を口にする。
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マーズの疑問の答えは、発見されて間もない頃の春美との短くも温かな日々や、島に戻った時の、自分も死にかけていながらも懸命に人工細胞液に浸け蘇生させようとしてくれた
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岩倉の強さと優しさにたいしてだったのだろうと自分では思っている。

前回も書いたが、現在の、人気があるからとダラダラと続けるのではなく、描きたいもの、訴えたいものを丁寧に描いたものは長さに関係なく内容が濃い。
だからこそ心に残るのだ。
そしてそういうものには必ずなにかしら学ぶものがある。

「マーズ」のように、昔の少年マンガには現在読むと、より深く理解できるものがあり、だからこそ現在でも別の漫画家によりリメイクされたり、オリジナルをベースにサイドストーリーが描かれ、青年誌でも通用するのではないだろうか?
今のおもしろい、楽しいだけの少年マンガにそういうものは感じない。

今の少年マンガで画の上手さ以外で影響を与え、将来漫画家になった少年が挑戦したくなるマンガはあるのだろうか?

これは余談だが、「マーズ」の春美のように、物語のはじめの方で主人公に絡んでいながら、いつのまにか消えてしまっている事が横山光輝の少年マンガではよくある。

この事から、横山光輝は実はラブコメっぽいものが苦手で、戦いの場に女性を関わるのが嫌だったのかな、と勝手に思っている。
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