新垣隆さんの「現代作品」を聴く

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「ゴーストライター騒動」で、一躍世間にその存在が知られることになった現代作曲家新垣隆さん。世間では、「ゴースト作品」の是非については議論が紛糾している最中のようですが、新垣さんの本業、つまり所謂「現代作品」についてはまだあまり本格的な紹介や評価が話題となっていないようです。



筆者も、この騒動は基本的には佐村河内氏の悪質な詐欺と現代日本の音楽産業、マスメディアの腐敗というのが背後にあると思いますが、しかし所謂「現代音楽」界のみならず、クラシック業界全般教育活動においても高い尊敬を得ている作曲家新垣隆さんにしてあれらの作品に「一抹の喜び」を持たれていたという限りにおいて、音楽に関わるすべての人が何等か考えさせる点を含んでいると考えています。


筆者としては、騒動の背後には現代社会そのものの問題点と共に、(バッハの頃からあるいはそれ以前から存在する)クラシック音楽が昔から抱えていた問題所謂「シリアスとイージーの対立」が行きつくところに行きついたという現実。そして、たとえ如何に独創的な作曲家と言えども何らかの「物語」ないし党派的な思考と無縁には生きられないという限りにおいて、作曲家、演奏家、聴衆それぞれの「無関心」が深刻な様相を帯びているという重い現実を改めて問い直す必要を感じています。


今回、筆者も新垣さんの「現代作品」は動画として初めて拝聴させていただきました。その率直な感想は「ものすごく庶民感覚に溢れた作品」。ある意味で氏が通われていた桐朋学園の仙川の商店街を思い起こさせるような、人びとの営みを時にシニカルに、特に愛情深く見つめているとても愛すべき作品だと感じました。


現代作品特有の風変わりさは印象としてはあるかもしれませんが、けっしてこれは「分からない」というようなものではなく、新鮮な感覚と共に実に暖かい息吹が注がれています。この新垣さんの作品に現れている「心」は決して知性的な冷たい音楽などではなく、人々の営みへの愛で溢れていると思います。


世間では「新垣さんこそ現代のベートーヴェン」と叫ぶ動きもあるようですが、このような騒動の後で何ら内省的になることもないという社会の現実にはつくづく情けない思いがします。分かったつもりになって「次のネタ」を探すのではなく、そもそも、「ベートーヴェンとは何か」という問いと共に、そのような叫びが新垣さんご本人にとって本意かどうかということも考慮する必要があるでしょう。もしも、新垣さんを評価しようということならば、彼の本業、つまり現代作品にこそ光が当てられるべきであり、新垣さんの「仕事」を全体として評価すべきではないでしょうか。(「ゴースト作品」については新垣さんの「仕事」を見做すべきではないという見方もあるかもしれません。またご本人はこれらの「仕事」についての著作権は放棄されています。ですが、これらの「仕事」に何らの意義も認めないというのは無理があるだけでなく、社会全体はやはりこれらの「仕事」を紛れもない作曲者当人であり新垣氏に帰すことにはならざるを得ないでしょう。要するに、「現代曲」を無視するのは論外としても「ゴースト作品」を完全に無視してしまうこともできないのではないか、ということです。)


しかし、そのように「作品をそれ自体として全体的に正当に評価する」という動きは専門家によっても未だ十分に行われているとは思えません。もちろん、聴衆はそれぞれの思いで作品に親しんで良いわけですが、専門家の役割とは長い歴史と反省の上に立って、聴衆に対して全体としての価値判断を示すことにあるのではないでしょうか。また、その上で私たち自身の音楽文化について何らかの問題意識を共有できるのかどうか、これを機会に互いに関心を持てるのかどうか、というところが重要だと筆者は考えます。


そして、筆者自身、この「現代作品」を聴いて、かつては全く評価していなかった「ゴースト作品」の価値も再考しました。作品としての不完全性や構成の緩慢さ、取ってつけたような嘘くさいフレーズの拙劣さは置くとして、現代作品にも通じる大衆臭さ、同時代人への共感がそこにも宿っていることがわかったからです。


しかし、これはあくまで筆者の個人的な経緯と感想にすぎません。まずは、新垣隆さんの現代作品にも興味を持って頂きたく、一筆ものさせて頂きました。


是非、お聴きください。






(日本人的庶民感覚と現代感覚、高度な音楽センス、ユーモア、アイロニーが結合した傑作として興味深く拝聴しました。通常の合唱曲の枠組みを超えたパフォーマンスのでありながら、日本語合唱曲において歴史的に共有されてきた喜びを損ねることなくむしろ増大させることに成功していると思います。ハーモニーも美しい。日本人であること、現代に生まれたことに誇りと幸運を感じます。)






(演奏者とお客様が一緒になって楽しんでいるのがわかります。冒頭、「現代音楽」の一般の反応を見越したように硬質なパッセージが繰り出され、それに対する一連の身振り(フリージャズ、日本の唱歌、ジャンベ?など)がユーモラスに展開されています。アイロニーたっぷりでありながら、全体としてもとても美しく纏まっていると思います。)現代作品は、背広を着てコンサートホールに出かけるクラシックのイメージを大きく覆すジャンルを超えたさまざまな試みがあることがわかります。)


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