私は、吟遊詩人じゃないから、歌は歌わないんだ。
私は、語り手。
だから文章を、物語を、語るんだ。
悲しいお話も、楽しいお話も。
理不尽なお話も、不思議なお話も。
そのすべてを私は語ろう。
物語は、作り手がいて、語り手がいて、聞き手がいるから、存在するんだ。
だから、私は語り手。
沢山の物語を語るんだ。
だから、今日も、私は物語を語る。
今日のお話は「バベルの図書館」
とてもとても、広大な図書館の一人の司書のお話。
それじゃ、開幕、ね。
一冊の本があった。
物語はそこから始まった。
その本は、まだ何もかかれていなかった。
だから、彼、はそこに文字を書き入れていった。
少しの単語がやがて、文になり、本を形成していった。
本は、世界を作った。
数多の物語を作る、世界となった。
数多の歌を歌う、世界になった。
やがて、世界は数多の本で埋め尽くされた。
とてつもなく広い世界に、本、本、本。
彼、はそこに一人の司書を作る。
働き者の、自身の役割を理解した人だった。
彼女は、多くの本を並べる。
同時に、不要な本を削除する。
そういった仕事をしていた。
長い、とても長い年月が過ぎる。
彼 はいつしか多くの本に埋もれて消えてしまう。
同時に「世界の始まりの本」も
世界はいつしか本で埋まっていて、彼女は別の空間へと世界をつなげた。
バベルの図書館。
そういわれる場所だった。
彼女は自らを、バベルの司書、と名乗る。
それは与えられた役割ではなかったけれど、彼女はやるべきことを見つけた。
始まりの本、を探す。
あまりにも多くの本が、ありすぎた。
あまりにも多くの物語が、ありすぎた。
バベルの図書館は無限に広がっている。
もう彼女にも世界の始まりはわからない。
いつか、そこにたどり着ける人を求めて、彼女は世界を開いた。
広大な。
あまりにも広大なバベルの図書館。
「すべての物語が集う場所」
そう、呼ばれる場所だった。
彼女は、今も「始まりの本」を探している。
けれど、見つかることはない。
それは、物語が定めているかのように。
それを、物語が定めているかのように。
とても広大な図書館。
とても広大な世界。
今はその最奥にたどり着くことはできない。
まるで、そう、誰かの心の中のような。
触れること、繋がること、知ること。
でも、最奥には達することなんてできないんだ。
彼女、バベルの司書はそれを知っている。
だからこそ、誰かを招く。
その誰かが彼であることを信じて。
その誰かが「始まりの本」を見つけてくれることを信じて。
バベルの図書館は今日も人を飲み込む。
決して戻れない深い闇に。
少しずつ、歯車は狂っていく。
バベルの司書はやがて少しずつ狂う。
自分が書かれている本を探し始める。
それが「始まりの本」だと信じて。
バベルの司書は今日も本を探す。
時折来る人々を案内しながら。
物語は、まだ終わらない。
物語は終わることを知らない。
物語が終わるのは、きっと彼女がバベルの司書じゃなくなったとき。
それはいつ?
それはどこ?
それは……。
矛盾してる。
でも、それがこの物語。
悲しいことじゃないよ。
苦しいことじゃないよ。
嘆くことじゃないよ。
彼女はきっと幸せなんだ。
自分のすべきことがあるから。
自分のなすべきことがはっきりとしているから。
同じことをぐるぐる回る。
同じときをぐるぐる回る。
繰り返し、繰り返し。
彼女は書架の中を探し回る。
迷い続けながら、それを終わらせることを願いながら。
バベルの図書館のお話は、これでおしまい。
終わることのない世界で、終わることを知らない彼女の、少しだけ悲しい物語。
でも、彼女にはきっとそれはわからない。
だって、それは…ね。
それでは、また、いつかどこかで物語を語る、その日まで。