"琵琶法師、音楽流浪" &“国立戦前アフロ・アメリカン音楽同好会”

薩摩琵琶演奏家後藤幸浩のブログ。音楽ライター・大学非常勤講師等の経験から音楽関連の記事を中心に。演奏は水島結子との、琵琶デュオを中心に活動中。教室も!http://www.biwahosi.com/ 後藤敏章くんとの“国立戦前アフロ・アメリカン音楽同好会”のご報告もこちらに!


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タイトルが大仰ですが、ぼく (後藤幸浩) も参加させて頂いた、レコード・コレクターズ誌2016年6月号の特集「20世紀のベスト・キーボーディスト/ピアニスト100」では戦前アフロ・アメリカン音楽系ピアニストのランクがあまりにも低く、あらー、と思い今回の企画を考えた次第。ランキングものは遊びの要素も多く、筆者さんも各々熟考して選ばれているので、別に喧嘩を売るとかではなくタイトルのネタとして使わせて頂きました (笑)。

ちなみにぼく個人はデューク・エリントン1位、ファッツ・ウォラー4位、ナット・キング・コール6位に選出しましたが、総合ランキングではエリントン66位、ファッツ72位、キング・コールは着外の結果に(^o^; 。



さて、今回一番ご紹介したかったのはファッツ・ウォラー。1904年ニュー・ヨーク生まれ。裕福とは言えない家庭でしたが、幼少よりピアノを習い学校でもオーケストラ・メンバーで活躍。アマチュアのピアノ・コンテストでも優勝、リンカーン劇場のパイプ・オルガン奏者もつとめ、ストライド・ピアノの祖=ジェイムズ.P.ジョンスンに入門、都市型アフロ・アメリカン・ピアノの基礎を学ぶことに。

20年代初頭から録音を残しましたが、マネージャー=フィル・ポンスの力もあり徐々に頭角を現わし34年、ビクターと契約。それ以降の“ファッツ・ウォラー&ヒズ・リズム”で大ブレイク。戦前アフロ・アメリカン音楽を代表する名ピアニスト、オルガニスト、ヴォーカリスト、ソングライター、バンド・リーダー、そしてエンタテイナーとなったのです。

ジェイムズ.P.ジョンスン譲りの奏法をさらに進化させた、強烈にドライヴする左手を軸に、パーカッシヴな奏法から甘美な音色、息の長いメロディアスなパターンまで、戦前アフロ・アメリカン音楽のピアノの良さを凝縮した演奏を展開。このピアノで小編成のバンドからビッグバンド編成までぐいぐい引っ張ってゆく、バンド・リーダーとしての存在感も唯一無二でした。

さらに喜怒哀楽溢れた味わい深い歌を歌い、「浮気はやめた」「ハニーサークル・ローズ」他後年に遺る名曲も多数書いたシンガー・ソングライターの要素も。ソングライターの面では、飲みすぎたりでお金が無くなると、曲作りの相棒の作詞家=アンディ・ラザーフとの曲をどんどん売りまくっていたらしい (譜面として、です) 。登録は別の人の名になっていても実はこのコンビの曲というのは相当数あるそうです。

諸々鑑みると、後のリトル・リチャード、ファッツ・ドミノ、リオン・ラッセル、エルトン・ジョン、果てはキャロル・キングあたりの元祖とも言える人でないでしょうか。ファッツの曲ではありませんが、彼の曲でもとりわけヒットした名バラード「手紙でも書こう」はポール・マッカートニーも歌ってますので是非。また後藤敏章君がまとめでも触れているように、その後のルイ・ジョーダンに通じる、スウィング、ジャイヴ、ジャンプ、ブルーズ、歌謡…を包括した戦前アフロ・アメリカン音楽を代表するポップ・スターだったととらえると、ファッツの面白さはより理解しやすいと思います。

ヒズ・リズムのメンバーのアル・ケイシー、ジェイムズ・スミスのギターは間違いなくジャイヴ風味にあふれたものですし、曲名にジャンプ、ジャイヴ、ブルーズ…を冠したものもある。タップのビル・ロビンスンと共演もあるし、自作以外のカヴァ曲は小唄他ヴァラエティに富んでいます。



今回はキャリア前半から選びましたが、ファッツの多彩な面白さを伝えるコンピレはなかなかありません。全曲聞いて(笑)、国立戦前アフロ・アメリカン音楽同好会ならではのベスト選曲でもう一度特集をやりたいと思います (むかしは椙山雄作氏選曲によるアナログ5枚組なんてのもでてました。写真下の箱です)。



♪ファッツ・ウォラー (ピアノ、ヴォーカル、オルガン、チェレステ他)

1. Fats Waller Stomp (1927)

Fats (pipe organ), Thomas Morris (cornet), Charlie Irvis (trombone), Eddie King (drums)

2. Ain't Misbehavin' (1929)

piano solo

3. I'm Crazy 'Bout My Baby (1931)

Fats (piano, vocal)  others unknown

4. How Can You Face Me? (1934)

Fats (piano, vocal), Herman Autrey (trumpet), Mezz Mezzrow (clarinet), Floyd O'Brien (trombone). Al Casey (guitar), Billy Taylor (bass), Harry Dial (drums)

5. I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter (1935)

Fats (piano, vocal), Herman Autrey (trumpet), Rudy Powell (clarinet, alto sax), Al Casey (guitar), Charles Turner (bass), Harry Dial (drums)

6. Dinah (1935)

Fats (piano, vocal), Herman Autrey (trumpet), Rudy Powell (clarinet, alto sax), James Smith (guitar), Charles Turner (bass), Arnold Boling (drums)

7. I'm a Hundred Percent for You (1935)

Fats (piano, celleste), Bill Coleman (t
trumpet), Gene Sedric (clarinet, tenor sax), Al Casey (guitar),  Charles Turner (bass), Harry Dial (drums)

8. Rosetta (1935)

Fats (piano, vocal), Herman Autrey (trumpet), Rudy Powell (clarinet, alto sax), Al Casey (guitar), Charles Turner (bass), Harry Dial (drums)

9. 12th Street Rag (1935)

Fats (piano, vocal), Herman Autrey (trumpet), Rudy Powell (clarinet, alto sax), James Smith (guitar), Charles Turner (bass), Arnold Boling (drums)

10. Christopher Columbus (1936)
11. It's a Sin to Tell a Lie (1936)

Fats (vocal, piano, celleste), Herman Autrey(trumpet), Gene Sedric (clarinet, tenor sax), Al Casey (guitar),  Charles Turner (bass), Arnold Boling (drums)

12. Honeysuckle Rose (1937)

Fats (piano,), Herman Autrey(trumpet), Gene Sedric (clarinet, tenor sax), Al Casey (guitar),  Charles Turner (bass), Slick Jones (drums)

♪カウント・ベイシー

1. Live and Love Ttonight (1939)

Basie (piano), Buck Clayton (trumpet), Lester Young (tenor sax), Freddie Green (guitar), Walter Page (bass), Joe Jones (drums)

2. How Long Blues (1942)

Basie (piano), Freddie Green (guitar), Walter Page (bass), Joe Jones (drums)

♪デューク・エリントン

1. Money Jungle (1962) …オープニング

Ellington (piano), Charles Mingus (bass), Max Roach (drums)

2. Sophisticated Lady (1940   Live@Crystal Ballroom  Fargo)

Duke Ellington Orchestra

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後藤敏章選曲・文

♩Big Maceo  

① Worried Life Blues 録音:1941年7月24日 シカゴ
② Chicago Breakdown 録音:1945年10月19日 シカゴ
メンバー:Big Maceo (p,vo)、Tampa Red(g)、Ranson Knowling(b①)、Chick Saunders(ds②)  

1905年ジョージア州アトランタ郊外に生まれる。1940年代シカゴでギタリストのタンパ・レッドと共にブルーバード・レーベルに残した録音は、ブルーズ・ファンに人気が高い。ヒットした①はメイシオの初録音であり、彼の代表曲。多くのブルーズマン、そしてエリック・クラプトンらロック・ミュージシャンも後に取り上げた。

重いピアノと繊細に紡がれるギターのサウンドと、メイシオのシブいヴォーカルが絶妙にマッチして、琴線に触れる。そして破壊力抜群のインスト②。左手の強固なブレないブギウギのビートのもとで、右手が豪快に鍵盤を叩き聴き手を煽る。アフロ・アメリカンのブギウギ恐るべし。  




♩Teddy Wilson  

① Once Upon A Time 録音:1933年10月10日 ニューヨーク
メンバー:Teddy Wilson (p)、Max Kminsky(tp)、Benny Carter(tp,as)、Floyd O’Brien(tb)、Chu Berry(ts)、Lawrence Lucie(g)、Ernest Hill(b)、Sidney Catlett(ds)
② More Than You Know 録音:1936年4月24日 シカゴ
メンバー: Teddy Wilson (p)、Benny Goodman(cl)、Gene Krupa(ds)
③ Blues In C# Minor 録音:1936年5月14日 シカゴ
メンバー:Teddy Wilson (p)、Roy Eldridge(tp)、Buster Bailey(cl)、Chu Berry(ts)、Bob Lessey(g)、Israel Crosby(b)、Sidney Catlett(ds)
④ These N’That N’Those 録音:1935年12月3日 ニューヨーク                               メンバー: Teddy Wilson (p)、Richard Clark(tp)、Tom Mace(cl)、Johnny Hodges(as)、Dave Barbour(g)、Grachan Moncur(b)Billie Holiday(vo)⑤ All Of Me  録音:1956年1月13日 ニューヨーク
メンバー: Teddy Wilson (p)、Lester Young(ts)、Gene Ramey(b)、Jo Jones(ds)

1912年テキサス州生まれ。巨人セロニアス・モンクも大ファンだったというウィルソンのピアノ。ハーレム・ストライドやブギウギは打楽器的にガンガンとピアノを弾き倒したが、ウィルソンのピアノは華麗に品を保ちながら歌った。

キャリア初期の①。フレッチャー・ヘンダーソン楽団で名を馳せた名アレンジャー、ベニー・カーターが音楽監督を務めたチョコレート・ダンディーズの録音。20代前半だが既にウィルソンのスタイルは完成していた?とも思わせるエレガントなピアノに聴き入る。この才能はアメリカ30年代のスウィングブームの顔である白人ジャズマン、ベニー・グッドマンも惚れ込み、ベニーのグループにウィルソンを参加させる。人種差別激しい時代に画期的な白黒混合グループの代表となった。音源はトリオの②。ウィルソンのソロは、一音一音繊細に音を選んでいて飽きない。傑作。 戦前ジャズではライオネル・ハンプトンのRCAセッションと双璧を成す、テディ・ウィルソンと当時の腕ききジャズマンとの一連の録音「ブランズウィック・セッション」は、聴けば聴くほどどれも素晴らしい出来。

ウィルソンのピアノという観点からは少しズレるが③はジャズファンに愛される怪演。それぞれのソリストの鬼気迫る感じが尋常ではない。④では前半はエリントニアンのジョニー・ホッジスのソロ、そして若いビリー・ホリデイの歌、終盤でウィルソンのセンスあるソロと、短時間なのに聴きどころ満載。 最後は戦後音源。1956年のレスター・ヤングとの共演。いわゆるジャズ名盤の定番だが、戦前のウィルソンを通過した後聴くと、また味わい深さが増す。長尺のソロでも実に巧みに品良く歌っていることが分かる。戦前ジャズマンの個性の強さをここでも実感。  




♩Earl Hines  

① Save It,Pretty Mama  録音:1928年12月5日 シカゴ
② Tight Like This  録音:1928年12月12日 シカゴ                        
メンバー: Louis Armstrong(tp,vo)、Fred Robinson(tb)、Don Redman(cl,as,arr)、Earl Hines(p)、Dave Wilborn(bj)、Zutty Singleton(ds)
③ King Joe  録音:1928年8月23日
メンバー: Earl Hines(p)、Jimmie Noone(cl)、Joe Poston(as)、Bud Scott(bj,g)、Johnny Wells(ds)、Lawson Buford(tuba)
④ You Don’t Know What Love Is  録音:1941年11月17日 ニューヨーク     Earl Hines And His Orchestra
⑤ Shoe Shine Boy  録音:1966年1月17日メンバー: Earl Hines(p)、Richard Davis(b)、Elvin Jones(ds)
⑥ Close To You  録音:1974年7月2日  モントルーメンバー: Earl Hines(p)

1903年ペンシルバニア州のピッツバーグ近郊で生まれる。クラシック・ピアノのレッスンを受け、教会でオルガンを弾いたりと、幼少時より音楽に親しむ。17歳でプロのミュージシャンとなり、21歳でイリノイ州シカゴに進出。そこでルイ・アームストロングと出会い、歴史的なセッションを録音(①②)。

"ジャズピアノの父"と評されるハインズだが、後のモダン・ジャズのピアニストに比べて、彼のピアノには戦前ジャズらしいそしてアームストロングのセンスにも共通した型にはまらない自由さがあってそれがいま聴いても最大の魅力だ。①前半の16小節ソロでの、間の取り方や緩急自在な感じのソロは、アームストロングもトランペットで当時よくやったかっこいいパターンのやつ。②前半での、リズムをまったく崩すスリリングなソロもすごい。ジミー・ヌーンとのセッション③でのソロは、ハーレム・ストライドの色もあり、当時のジャズシーンにおけるピアニストの様相が垣間見える。とにかく20年代後半ハインズは聴けるだけ聴いておいた方が良いと今回初めて分かった。

④は40年の自身のオーケストラの楽曲。若きビリー・エクスタインが歌う。⑤⑥は60年代、70年代の録音。⑤は当時の新しいジャズを担う才能とのピアノトリオ。息子世代にも全く臆することなく、20年代と同様に、一音一音全く飽きさせない生きた音楽を聴かせる。モントルージャズフェスで披露したカーペンターズ曲⑥でのピアノソロ。構成もドラマティックで終始緊張感を持って聴かせる。原曲のサビをいい感じで登場させ盛り上げる。このあたりの音にこだわりつつ、聴き手を楽しませるサービス精神を忘れないスタイルは、(デューク・エリントンとも通じる)戦前ジャズマン流儀だなと思う。






全体のコメント

ファッツ・ウォーラーのジャイヴ風な面をピックアップして聴くと、今までになく彼の魅力がいきいきと見えてきました。キャブ・キャロウェイやルイ・ジョーダンと並ぶ戦前アフロ・アメリカン音楽のポップ・スターではないでしょうか。
そしてアール・ハインズ。彼のスタイルがバップ以降のジャズピアノへの道を開いたということのみで、その偉大さを語られがちですが、音源を丁寧に聴くとそれだけではない。戦前ジャズらしい型破りでバイタリティに富む演奏は、ジャズファン以外にもかなり楽しめると思います。 後藤敏章

オープニングでかけたデューク・エリントンの「マニィ・ジャングル」とアール・ハインズの戦後録音は間違いなく通じますねー。戦前組ならではのパーカッシヴな奏法と伸び縮みする独特のグルーヴはじつにスリリング。その中から甘美なフレイズが浮き上がってくる辺りもたまらんです。カウント・ベイシーはファッツ・ウォラーにオルガンを習ったそう。そこでオルガンを弾いている1曲と、リズム・セクションのみのブルーズをかけました。タフなイメージが強いベイシーですが、実はクールでお洒落、粋な部分も多いと思います。後藤幸浩
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◎国立戦前アフロ・アメリカン音楽同好会 vol.6 「ルイ・ジョーダン特集」 

2016年4月21日





○曲目

オープニング Caldonia Boogie (45年)

①Huneysuckle Rose (39年)
②You Run Your Mouth And I 'll Run My Business (40年)
③After School Swing Session~Swingin With Symphony Sid~(40年)
④I'm Gonna Leave You On The Outskirts Of Town (42年)
⑤Five Guys Named Mo (42年)
⑥It's A Low Down Dirty Shame (42年)
⑦Is You Is Or Is You Ain't My Baby (43年)    ⑧G.I Jive (44年)
⑨May Baby Said Yes…with Bing Crosby (44年)
⑩Stone Cold Death In The Market…with Ella Fitzgerald (45年)
⑪Petootie Pie (45年)

映像
1.How Long Must I Wait For You(1948年) ,
2.Long Legged Lizzie(1948年),

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 映像
1.Early In The Morning(1946年),
2.Salt Pork,West Virginia(1948年)

⑫Don't Let The Sun Catch You Crying (46年)
⑬Choo Choo Ch' Boogie (46年)
⑭Ain't That Just Like A Woman (46年)  
 ⑮Ain't Nobody Here But Us Chikins (46年)
⑯Let The Goodtime Roll (46年)
⑰Barnyard Boogie (47年)
⑱Saturday Nigts Fish Fly (49年)
⑲Blue Ligts Boogie (50年)
⑳Lemonade (50年)
21.Tear Drops From My Eyes (50年)


ほぼこの5枚組CDから選曲。戦前アフロ・アメリカン音楽好きにとっては有難いJSP RECORDS のJSP905。Amazonでも入手し易いです。


☆コメント  後藤敏章

“ルイ・ジョーダン&ヒズ・ティンパニー・ファイヴは、飛び跳ねるような、R&Bとジャズを一緒くたにしたようなものを演奏し、それは凄かった。コメディーもたくさんやったが、必要とあらばブルーズだってやれたし、コメディーの合い間になんでもやった。ルイはアルト・サックスをじつにうまく吹いて、歌も抜群にうまかった。ルイ・ジョーダンこそが当時のベストだ。世間の大半はそれを忘れてるけどな”(俺がJBだ!~ジェームズ・ブラウン自叙伝より)

昨年公開されたジェームズ・ブラウンの伝記映画では、まだ無名のJBがリトル・リチャードのステージに飛び入りし、ルイ・ジョーダンの「カルドニア」を歌いリトルと客を圧倒するという印象的なシーンがあった。また、冒頭に引用した自叙伝では、刑務所暮らしだった10代の頃のJBが所内のピアノでやはり「カルドニア」を猛烈に弾き、囚人を踊らせまくるというエピソードも語られている。“彼こそが当時のベスト”とジェームズ・ブラウンが断言するように、ルイ・ジョーダンは1940年代のアフロ・アメリカン音楽界の最大のスターであり、ヒットメーカーであり、アメリカの若い世代に絶大な影響を与えた人物であった。

1938年に小編成バンド"ルイ・ジョーダン&ヒズ・ティンパニー・ファイヴ"を結成、デッカ・レーベルに所属し、ルイは1942年から50年までのあいだに、アメリカのR&Bチャートに18曲のナンバー1ヒットを送りこみ、かつポップ・チャートでもいくつものヒットを出した。彼は、チャック・ベリーやレイ・チャールズよりもずっと先に、人種の壁を超えて大成功したアフロ・アメリカン・ミュージシャンであった。

ルイがスター街道を歩んでいく1930年代後半から40年代中盤とは、アフロ・アメリカン音楽が充実し拡大し開花していく、熱い時代でもある。ジャズ、ブルーズ、ジャンプ、ジャイヴ、ラテンなどが相互に影響しあい、そしてそれぞれがまたユニークに発展していった時代だった。まさにそのど真ん中にいたルイの音楽を聴いていると、当時のアフロ・アメリカン音楽の勢いや豊潤さも同時に伝わってくる。 

ティンパニー・ファイヴ結成前は、ニューヨークのジャズの人気ビッグ・バンドであるチック・ウェブ楽団に2年間在籍し、サックスとクラリネットを吹き、歌い、女性ヴォーカルのエラ・フィッツジェラルドと共に楽団の人気者であった。あまり語られることがないように思うが、1930年代後半のウェブ楽団でのエラ・フィッツジェラルドのチャーミングな歌とそれを支えるビッグ・バンドの躍動的なサウンドは、今の耳で聴いても非常にポップで瑞々しくて胸が躍る。モダン・ジャズ以降のジャズにはない感覚だ。そしてその瑞々しくてポップな感覚は、ルイ・ジョーダンのその後の音楽にも共通するものがあると思う。

ウェブ楽団を退団しティンパニー・ファイヴを結成後の初期の録音でジャズ色が強い曲をやっても、ルイのポップセンスは光る。ファッツ・ウォーラー作ジャズ・スタンダード①。ここでのルイの歌の何ともきわどい感じは真面目な「ジャズ」では許されないものだろう。ルイ・アームストロングの元妻リル・アームストロング作の②の軽やかさも、とてもいい感じである。

ルイは、"ジャンプ"と呼ばれるその後のR&Bにつながる音楽の代表ともよく評される。映像の"How Long MustI~"やはり同時代のジャンプバンドの代表的存在であるラッキー・ミリンダー楽団のリーダー、ミリンダーの曲。扇動的なアルトサックス、小編成バンドのソリッドな感触がまたかっこよい。⑥は、30年代にシカゴを中心に流行した"シティ・ブルーズ"の代表的ミュージシャンであるビッグ・ビル・ブルーンジーの曲、“Salt Pork~(映像)”にも小編成バンドのシティ・ブルーズの影響が感じられる。映像“Early In The Morning”は12小節のラテン・ブルーズ。ルイの芸人っぽい雰囲気とラテンのリズムが実にマッチして、なかなか怪しく興奮する。

このように当時のアフロ・アメリカン音楽の流行を巧みに自分のサウンドに取り込むルイの才能は素晴らしいが、その中でも特に、ブギウギ・ピアノを大々的に取り入れるようになったことは、彼のキャリアでも重要なポイントではないだろうか。オープニングのCaldonia、キャリア初のポップ・チャート1位に輝いた⑧、代表作で歴史的名曲⑬、そして終始ハイテンションで後半のカール・ホーガンのギターの音もインパクトがある⑰などを聴けば分かるが、ブギウギの導入により、ルイ・ジョーダンの音楽は加速し、ポップミュージックとしても、ダンス・ミュージックとしても次元がひとつ上に行ったような趣きさえある。

最後に、ルイのヴォーカルについて。ジェームズ・ブラウンも絶賛するように、ルイは抜群に歌が上手い。ルイ・ジョーダンの何が好きか?と問われれば、今までずらずら書いてはきたが、突き詰めれば、この声と、歌の表現力かなとも思う。レイ・チャールズやポール・マッカートニーや、ジェフ・バックリィも後にカヴァーした⑫は、ルイのヴォーカルの頂点ではないか。映像や写真で見せるテンションの高い顔力とはギャップのある、実に味わい深い声と巧みな歌い回し。彼のヴォーカルにもアフロ・アメリカン音楽の豊潤さを僕は感じる。





☆コメント 後藤幸浩

ルイ・ジョーダン、聞き出したのはずいぶん前、80年代初頭にジャンプ・ミュージックが一部で注目されたことがありその流れで。ジャンプ・ミュージックの要素はルイの音楽の一部を占めているが、今回改めてじっくり聞いてみて、そのジャンプにとどまらない多彩な音楽要素には驚かされた。

“キング・オヴ・ジュークボックス”とも呼ばれたルイ。要するに多くのヒット曲を飛ばした、ということ。しかもアフロ・アメリカンのチャートだけでは無く、ポップ・チャート、あるいはカントリーのチャートにも及んでいる。ある意味、同時代の大衆音楽を網羅した、クロスオーヴァ的な要素があったと言っても良い。

③はティーンエイジャーにも人気があったジャズのラジオDJ、シンフォニー・シドをネタにした、学校が終わったらジャンプ、ジャイヴ、スゥイングを楽しもう、的な内容。ジャンプ、ジャイヴ、スゥイングが同居して歌われているのが良いし、歌詞もアルファベットの羅列や“ギャング”という呼称 (ちびっ子ギャング的なニュアンスだろう)も出て来る楽しいもので後のロケン・ロールにそのまま繋がる。⑤ (R&B3位)はスキャットも入るしジャイヴから、来たるビ・バップへの流れも凝縮されたかのような曲。

シャウター系歌手でルイ同様アルト・サックス上手のエディ・クリーンヘッド・ヴィンスンもクーティ・ウィリアムズ楽団在籍時にカヴァした⑦はカントリー・チャート1位、ポップ・チャート2位、R&Bチャートで3位。面白いヒットの仕方で、どマイナー・キイのバラードの曲調にその要因がありそう。めでたくR&B、ポップ両方のチャートで1位獲得の⑧は白人の作曲家ジョニー・マーサの作品。ジャイヴとタイトルされいて、部分的に洒落たコード進行を挿入、ブルーズとジャイヴの要素がクロスオーヴァしてヒットに繋がった感じだ。

⑨は白人のクルーナー系の大歌手、ビング・クロスビーとのデュエット。ポップ・チャートの14位に。ジャイヴ風味も含んだ軽妙な曲で、ルイは自身の声の持ち味を消すこと無く、クロスビーの歌にぴったり寄り添っていてみごと。ルイは30年代のチック・ウェブ楽団時代から歌も歌い、こうしたクルーナー系の歌い方は得意としていた。この歌の幅がじつに素晴らしい。⑩はそのチック・ウェブ楽団時代の盟友、エラ・フィッツジェラルドとのデュエットでカリプソ・ナンバ-。カリプソは当時かなり流行していて訛った独特の歌い回しが面白い。R&Bチャート1位、ポップ・チャート7位。

ルイ、と言えばこれ、と頭にすぐ浮かぶのが⑬。独特のクールな歌い回し、スマートなグルーヴ…明らかにこれまでのアフロ・アメリカン音楽とは違うニュアンスを持った曲で、R&Bチャートは46年8月より18週1位、ポップ・チャート7位を記録。作者のデンヴァー・ダーリンはヒルビリー系のミュージシャン、ヴォーン・ホートンはパティ・ペイジやレス・ポール&メアリ・フォードらでもおなじみの「モッキンバード・ヒル」でも知られる。2人ともカントリー&ウェスタン畑の作家、さらに曲調はブギ…ちょっと単純な解釈かもしれないが、アフロ・アメリカン音楽の要素とカントリー&ウェスタンに代表されるホワイトのセンスがみごとにクロスオーヴァして人種を超えたヒットに繋がったと思える。

この時期にはカントリー&ウェスタンのミュージシャンによるブギものは定着していたようだし、ウェスタン・スウィングというジャンルもあった。ブギ、はアフロ・アメリカン独自の感覚からポピュラー音楽界の共有財産になっていたのだろう。

⑭ (R&B1位、ポップ17位)のイントロのギター・リフはチャック・ベリー「ジョニー.B.グッド」のそれに、⑰(R&B2位)はやはりギターがビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツ (プロデューサーがルイと同じミルト・ゲイブラー) に繋がる。ビル・ドゲットがピアノで参加の⑲ (R&B1位)はドゲットの「ホンキー・トンク」の下敷きにもなっていそうだ。40代後半以降のルイの音楽はR&B、ロケン・ロールへの直結感に溢れ実に楽しくスリリング。

休憩時間にはブギ・ウーギ・ピアノ、カントリー系のヒルビリー・ブギの編集盤、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツなども聞いて頂いた。ビル・ヘイリーは⑬をカヴァしているがビートが重く、ルイが“チュ・チューチ・ブギ”と歌うところを“チューチュー・チ・ブギ”と歌っているところなど面白い。ヘイリー&ヒズ・コメッツはジャズ出身のギターリスト、フランク・ビーチャー(巧い!)とスティール・ギターのビリー・ウィリアムスンの対比も聞き所。



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『国立戦前アフロ・アメリカン音楽同好会 VOl.5』2016年1月28日
〈私がいま気になる1930年代のアフロ・アメリカン音楽〉

○選・文 後藤幸浩

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●Cab Calloway and His Orchestra

○"JUMPIN JIVE"

Cab Calloway, vo, director;  Doc Cheatham, Lammar Wright, Mouse Randolph, tp;   Claud Jones, Keg Johnson, DePriest Wheeler, tb;  Chauncey Haughton, Andrew Brown, cl, as;  Chu Berry, Walter Thomas, ts;  Bennie Payne, p;  Morris White, g;  Milt Hinton, b;  Cozy Cole, ds;

probably New York    7/17/1939

○"PLUCKIN' THE BASE"
○"CHILI CON CONGA"
○"VUELVA"

Cab Calloway, vo, director;  Doc Cheatham, Lammar Wright, Mario Bauza, Dizzy Gillespie, tp;   Claud Jones, Keg Johnson, DePriest Wheeler, tb;  Chauncey Haughton, Andrew Brown, cl, as;  Chu Berry, Walter Thomas, ts;  Bennie Payne, p;  Danny Barker, g;  Milt Hinton, b;  Cozy Cole, ds;

New York  8/30/1939,  10/17/1939

演奏のクォリティ、人気含め30~40年代アフロ・アメリカン芸能音楽を代表する楽団のひとつがキャブ・キャロウェイ楽団。

キャブはヴォードビルなど旧い黒人芸能から当時最先端の 'ヒップ' なジャンプ&ジャイヴの感覚を網羅した歌手兼リーダーで、楽団のメンバーもチュー・ベリー、ディジー・ガレスピー、マリオ・バウサ、ミルト・ヒントン他優れた人材が在籍、後のビ・バップ、アフロ・キューバン・ジャズにも繋がって行く多彩な演奏を残している。

一度特集したいミュージシャンなので、今回はその予告編的に数曲聞いて頂きます。

"JUMPIN JIVE" は代表曲のひとつ。ある種ポップな曲展開の中、キャブの喋り芸も含んだ自在なヴォーカル、お得意の "hep! hep!" の掛け声を交えたヴォーカルとコーラスのコール&レスポンス、サックス・ソロ…などが交錯、じつに奥行きのある演奏になっていて胸がすく。

1939年にはデューク・エリントン楽団にジミー・ブラントンという天才型ベーシストが参加、後のベーシストに多大な影響を与えたが、"PLUCKIN' THE BASE" でフィーチャされるミルト・ヒントンも負けず劣らず素晴らしい。スラッピンという、20年代から行われている弦を叩きつける奏法が軸で、そこにビートの細分化が加わり (ラテンのニュアンスも入ってるようだ) 既にファンキーさも満開。後々のチョッパー奏法にも通じ、伝統的手法が更新される様子が手に取るようにわかる。

ヒントンは戦後のジャズの他、様々なスタジオ・セッションでも活躍。ザ・ドリフターズ「アンダー・ザ・ボードウォーク」イントロのキャッチーなベースもヒントン。キャロウェイ楽団での経験が活きた仕事だと思う。

"CHILI CON CONGA" "VUELVA" はラテンのニュアンスをうまく消化した演奏で、マリオ・バウサ、ディジー・ガレスピーらのセンスが活きている。"CHILI CON CONGA"冒頭の掛け声にはディジー・ガレスピーらしき声も。 Hi-De-Ho-Hep-Afro-Cuban 的な感じ、妖しいマイナー調の曲で "Cuba
n Jive (キューバン・ジャイヴ) "という歌詞?があるのが面白い。"VUELVA" はみごとなボレーロ。

キャブ自身は当時ディジーらの方向性には微妙な反応だったらしい。音楽的云々ではないが、1941年にはステージでのちょっとした出来事をきっかけに、ディジーがキャブに対し刃傷沙汰を起こし退団している。とはいえ、ここの2曲、興味深い演奏には変わりはない。特集組むときにじっくり分析したい。

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●Chick Webb and his Orchestra
○"RUSTY HINGE"
○"WAKE UP AND LIVE"

Mario Bauza, Bobby Statk, Taft Jordan, tp;  Sandy Williams, Nat Story, tb;  Pete Clark , cl, as, bs;  Louis Jordan, as, voc;  Ted McRae, ts;  Wayman Carver, ts, fl;  Tommy Fulford, p;  John Trueheart, g; Beverley Peer, b;  Chick Webb, ds; Ella Fitzgerald, Charles Linton, voc.

New York  3/24/1937

チック・ウェブ楽団は以前のビッグ・バンド特集のときにも登場してもらった。バンド合戦で連戦連勝、デューク・エリントン楽団には負けたが当時の超人気楽団ベニー・グッドマン楽団にも勝利。スウィング時代の名物アフロ・アメリカン・ビッグ・バンドの一つだった。ちなみに白人のスウィング王、ベニー・グッドマン楽団の演奏で知られている「サヴォイでストンプ」「その手は無いよ」はチック・ウェブ楽団がオリジナル。楽団でアルト・サックス他の奏者・作曲・編曲と大活躍したエドガー・サンプソンの作だ。

演奏だけではなく、歌ものも優れていて後々大歌手となるエラ・フィッツジェラルド、40年代後半に独特のジャンプ・ミュージック・スタイルで大ブレイクするルイ・ジョーダンが参加。今回はその二人の歌声をフィーチャした曲を。

"RUSTY HINGE" はルイ・ジョーダンが歌う。40年代にブレイクしてからのジョーダンのジャンプ演奏には粋でクールな感触があった。ジャンプというとシャウトするヴォーカル、ブロウするサックスのイメージが強いが、ポップなスマートさも兼ね備えていたのがジョーダンの音楽。ここでの歌い口もクルーナー的なやわらかいもの。ウェブ楽団での経験や立ち位置は間違いなくその後のジョーダンの音楽に影響を与えていると思う。

"WAKE UP AND LIVE" はジョーダン、エラ・フィッツジェラルド、チャールズ・リントンによるコーラスもの。タイトルどおりジャイヴ的に粋なセンスが活きた好演。エラ・フィッツジェラルドの声はキュートかつ雑味もありじつに心地好い。キャブ・キャロウェイも取り上げている曲。

ルイ・ジョーダン、エラ・フィッツジェラルドともに一度しっかり特集します!

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●New Orleans Feetwarmers (Sidney Bechet)
○"SWEETIE DEAR"
○"I've Found a New Baby"

Sidney Bechet,  ss, cl;  Tommy Ladnier, tp;  Teddy Nixon, tb;  Hank Duncan, p;   Wilson Meyers, b, ;  Morris Morand, ds;  Bill Maxie, vo;

New York  9/5/1932

「国立戦前アフロ・アメリカン音楽同好会」、第1回目はこのシドニー・ベシェ特集だった。諸々音源を聞いてみて、戦前アフロ・アメリカン音楽の多彩さを体現しているソロイストはこの人だ、と確信した次第。個人的には戦前アフロ・アメリカン音楽の中で一番好きなミュージシャンだ。とはいえ、ルイ・アームストロング、デューク・エリントンあるいはカウント・ベイシー他に比べるとほぼ日本では無名と言っても良い。残念なことです。

なのでしつこく初回にかけられなかった音源を。盟友トミー・ラドニア他とのニュー・オーリンズ・フィート・ウォーマーズ、32年9月の傑作録音6曲の中から2曲。このままロックン・ロールまで繋がりそうな勢いが凄い。このアフター・ビート、各ソロの強靭さ!時代を越えたニュー・オーリンズ・テイストの演奏だ。この後不況のおかげで仕事がなく、メンバーのトミー・ラドニアと副業で仕立て屋をやったりするが (ラドニアは靴磨も)、自伝 ( "Treat It Gentle" )を読んでもこの録音には満足していたことが伺える。

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●Teddy Wilson and His Orchestra
○"WHEN YOU'RE SMILNG"
○"I CAN'T BILIEVE THAT YOU'RE IN LOVE WITH ME"

Buck Clauton, tp;  Benny Morton, tb; Lester Young, ts; Teddy Wilson, p; Freddie Green, g; Walter Page, b; Joe Jones, ds; Billie Holiday, voc.

New York   1/6/1938

今さら説明不要のビリー・ホリディ。スウィング時代の名ピアニスト、テディ・ウィルソン名義でのセッションから。ビリーの盟友、レスター・ヤング他、カウント・ベイシー楽団の名手たちも参加。こうした王道の音源もしっかり聞いておきたいのでチョイス。

"WHEN YOU'RE SMILNG" の ♪But When You're Crying…のあたりいかにも泣いてそうな声の表情、"I CAN'T BILIEVE THAT YOU'RE IN LOVE WITH ME" での抑制したキュートな歌い回し…ビリーの歌の細やかな表情が素晴らしい。じつに '語り歌' な感じ。テディ・ウィルソン、レスター・ヤングにかんしては黙って聞いてください、というしかない(笑)。スウィング期のアフロ・アメリカン音楽の成熟が伝わる。

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●Duke Ellinton and His Orchestra
○"CREOLE RHAPSODY Part 1,2"

Arthur Whetsol, Freddy Jenkins, Cootie Williams, tp;  Joe 'Tricky Sam' Nanton, Juan Tizol, tb; Barney Bigard, cl; Johnny Hodges, as・ss;  Harry Carney, bs, cl, as;  Duke Ellinton,p;  Fred Guy, bjo;  Wellman Braud, b; Sonny Greer, ds.

New York   6/11/1931

デューク・エリントン楽団は1930年代、さらに充実していくが今回は1931年作の初の組曲を。

エリントンの曲は構成に優れていて20年代の「イースト・セントルイス・トドゥルオー」「ブラック・アンド・タン・ファンタジー」にしろ短いながら曲の各パートでさまざまなニュアンスを伝えてくれていた。"CREOLE RHAPSODY Part 1,2" は当時のSP両面にまたがりそれまでの作曲・編曲手法を拡大・進化させた内容。

バンジョーの響き、あるいはクリオール云々というタイトルから20年代の感覚も持ち越しつつも、各メンバーの輪郭のはっきりしたソロ、濁っていながら豊かで甘美、艶のあるアンサンブルはエリントン楽団のこの後の成熟を予感させる。時代の変わり目も良く現れていると思う。

1931年1月21日、6月11日の録音が手元にあるが、ややテンポも早くなり全体の流れも明確になった6月の録音を。今回かけた音源では一番 "プログレッシヴ、フランク・ザッパにも通じるものが" というご意見を頂いたが同感です(笑)。ジョージ・ガーシュインあたりへの対抗意識もあったように思います。

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♪全体へのコメント

1930年代といえども前半・後半で相当音楽性が変わりますし、他にも良い音源は多数あります。"興味はあるがどこから入っていいのかわからない人には、今日みたいにいろいろ提示してもらえると有り難い" というご意見も頂きましたので、今後も地道に続けて行きます!

個人的には研究云々的な部分もあるのですが、まず、NO TRUNKS ならではの大音量で音源を聞いて、楽しんで頂くのが第一ですね(^-^)/

レスター・ヤングの Lester Young and the Kansas City 6 は久々に、大音量で聞いたらその先見性に改めてびっくり。良く言われてはいることですが、後のリー・コニッツあたりに繋がって行く感じがよくわかりました。とくにピアノレスの編成の方は良い。エディ・ダーハムのエレキ・ギターがビリー・バウアーのように聞こえてしまいました(笑)。

ぼくが持っている盤は91年の初CD化国内盤ですが、故・大和明さんの解説が熱い!昔は戦前関連のCDもボックスもの含め良く出ていました。おおかた油井正一さん、大和明さん、野口久光さんあたりが解説を書かれており (全て故人) かなり参考になりました。戦前アフロ・アメリカン音楽関連の国内盤中古は、曲が外国盤とダブっても解説のために買っといたほうがいいかもしれませんw。




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○選・文 後藤敏章


Jimmie Lunceford

① Dream Of You 録音:1934年10月29日
② Rain 録音:1934年12月17日
メンバー:Eddie Tompkins,Tommy Stevenson,Sy Oliver(tp);Henry Wells,Russel Bowles(tb);Willie Smith(cl,as);Laforet Dent(as);Joe Thomas(ts);Earl Carruthers(bs);Ed Wilcox(p);Al Norris(g);Moses Allen(b);Jimmy Crawford(ds)

1930年代アフロ・アメリカン系ビッグバンド界において、デューク・エリントン楽団、カウント・ベイシー楽団らと並ぶ人気を誇ったジミー・ランスフォード楽団。

30年代後半までの同楽団のアレンジを主に手がけたのがサイ・オリヴァーだ。オリヴァーの才能は広く認められ、39年には白人の人気ビッグバンドであるトミー・ドーシー楽団のアレンジャーとなる。今聴いても新鮮でポップだなと感じる、ズン・チャ、ズン・チャという2ビートのもとで細かく編み込まれたアレンジ、そしてそこに乗っかるいい感じの唄というランスフォード楽団のサウンドの個性。オリヴァーがそこに果たした役割は大きいと思われる。

才人であるオリヴァーはアレンジはもとより、トランペットとヴォーカルでも存在感を見せつけて、①ではそれが味わえる。そして②「レイン」は、ランスフォード楽団のみならず、30年代アフロ・アメリカン音楽の代表曲として記憶に留めておくべき名曲。中盤から始まるトリオによるヴォーカルのあたりなど、何度聴いてもグッとくる。

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Big Bill Broonzy

① Skoodle Do Do 録音:1930年4月9日
メンバー:Big Bill Broonzy (vo.g),Frank Brasswell(g)
② Worrying You Off My Mind Pt.1 録音:1932年3月29日
メンバー:Big Bill Broonzy (vo.g)
③ Little Bug 録音:1937年1月31日
メンバー:Big Bill Broonzy (vo.g),Mister Sheiks(tp),Black Bob(p),Bill Settles(b)

1893年または1898年生まれのミシシッピ州出身のブルーズ・マン、ビッグ・ビル・ブルーンジー。彼の30年代の録音をひとしきり聴いて認識したのは、戦前ブルーズと言ってもスタイルは様々あるんだなーという当たり前の事実だ。奥が深い。①は、ギター2本の歌もの。ラグタイム・ブルーズ・ギターなどいろいろ呼び名もあるが、これダンス・ミュージックとしての踊れるブルーズだよなといういい感じの曲。②はギター一本で憂いを唄うフォーク・ブルーズの典型。40年代のブルーンジーが得意とした"eight-bar blues"の形式(12小節ではない)。

そして③はピアノとベースとトランペットが入ったスモール・コンボによるブルーズ。いわゆるシティ・ブルーズと呼ばれる範疇のブルーズ。同時代のジャズとの共通性も見出されるかもしれない。時には憂い、時にはクール、時には軽妙にと、ヴォーカルの感情表現スタイルに幅があるのも興味深い。
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Lester Young

① Them There Eyes  録音:1938年9月27日
② I Want A Little Girl  録音:1938年9月27日
メンバー:Lester Young(ts,cl),Buck Clayton(tp),Eddie Durham(tb,eg),Freddie Green(g,vo),Walter Page(b)
Jo Jones(ds)

絶頂期にあったカウント・ベイシー楽団のピックアップ・メンバーによる、6人編成での録音(正確にはエディ・ダーハムは直前に退団しているが)。レスター・ヤングがリーダーで、ベイシー(p)は入っていない。モダン・ジャズの始祖と言われるテナーサックス奏者レスター・ヤングが、珍しくクラリネットを吹くというところがジャズ史的にはポイントか。

個人的には、本隊ベイシー楽団の硬質的な音よりもこのレスター・コンボの陰影に富んだサウンドの方が、同時代の他のアフロ・アメリカン音楽との共通性が見出され、刺激を与えられる。①ではフレディ・グリーンの粋なヴォーカルとレスターのテナーサックスのユニークな間の取り方、②ではバック・クレイトンの切ないトランペットに耳が捕らえられる。

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Mills Brothers  

① Bugle Call Rug 録音:1932年5月
② Dirt Dishin' Daisy 録音:1932年11月21日
メンバー:John Mills Jr.(bass vocal and guitar),Herbert Mills(tenor vocal), Harry Mills (baritone), Donald Mills(lead tenor)
③ Carry Me Back To Old Virginny 録音:1937年4月7日
メンバー:John Mills Sr.(bass vocal),Herbert Mills(tenor vocal), Harry Mills (baritone), Donald Mills(lead tenor),Bernard Addison(g),Louis Armstrong(vo,tp)

「アメリカのポピュラー・ミュージックの歴史で、ヴォーカル・グループを語る際にまず最初に触れなければならないのがミルス・ブラザーズだ」(中村とうよう/ブラック・ミュージックの伝統~ジャズ、ジャイヴ&ジャンプ篇CDライナーノーツより)。

オハイオ州出身の4人兄弟のグループ。巧みなコーラス、ポップなセンスの楽曲、人の声による楽器の音の再現というユニークさで、絶大な人気を博した。この時代のセッション曲定番である①の軽快さ、アレンジが洒落ていて、各々の声にも味がある②など、戦前音楽に馴染みがない人でもすんなり耳に入る音楽ではないだろうか。長兄が36年に亡くなった後は、兄弟の父がメンバーとなる。③はルイ・アームストロングとの共演。ルイのヴォーカルの素晴らしさにうっとりする。

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全体をおえてのコメント

個人的には、(幸浩さんのかけた)若きルイ・ジョーダンとエラ・フィッツジェラルドのヴォーカルを擁したチック・ウェブ楽団の音源が印象的でした。スタイルの殻を破り新しい音楽が登場してくる過程の始まりを垣間見たように思えたからです。

そして、当たり前ですが、1930年代で区切っても様々なアフロ・アメリカン音楽があるのだという事実をまた今回で認識しました。今後も丁寧に音源を聴き、整理し、紹介して行きたいと思います!




注:Big Bill Broonzy の音源は同時代のものですが、写真の盤からではありません。
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