子どもの頃、僕の夢は宇宙飛行士になることだった。
しかし、
子どもの僕は宇宙飛行士が何なのか、実は分かっていなかった。
この夢を持った経緯は確か、
母「陽くんは大きくなったら何になりたいのかな?」
陽くん「んーとねぇ…」
母「宇宙飛行士かな?」
陽くん「じゃあそれで」
みたいなやりとりの末だったと思う。
うろ覚えだけど、おそらくそんな感じ。
たぶん、僕にはこれといった夢がなかったのだ。
半ば誘導尋問のような形で、僕の夢は宇宙飛行士に決まった瞬間だった。
それからは、自分の矛盾する意志と格闘する日々だった。
人から夢を問われて「宇宙飛行士」と答えるのは苦痛でしかなかった。
大体、僕は宇宙飛行士が何かさえ分かっていなかったのだ。
「うちゅうひこうし」という語感だけで、なんかよくわかんないけどとりあえずきもちわるい、と感じていたくらいだ。
それになりたいだなんてよく言えたものだ。
おそるべし、陽くん。
ある時テレビで、毛利衛さんが日本人で初めて宇宙に行くというニュースを目にした。
そこでようやく、うちゅうひこうしが「宇宙」に「飛行」する「士」を表すのだと、頭の中でつながった。
僕は、
「そうか!
僕は宇宙に行きたかったんだ!」
と気づいた。
そして同時に、
「別に行きたくないわ!」
とも思った。
しかし即座に、
「いや待てよ…。宇宙って面白そうじゃね?」
と考え直した。
辛うじて、僕は宇宙飛行士の夢を自分の中でつなぎ止めておくことができた。
が、終末はすぐに訪れた。
友達の家に遊びに行った時、いろんな図鑑が置いてあるのを発見した。
恐竜、動物、植物…などなど。
その中に、あったのだ。
『宇宙図鑑』が。
宇宙飛行士を志す者としては何を差し置いても見ておかなければならない、そんな謎の使命感にそそのかされ、僕は表紙を開いた。
すると、見てしまったのだ。
「宇 宙 人 た ち」のページを!
確か4・5体、それぞれ違った種類の宇宙人が、どっかの星の上で、広がる宇宙空間をバックにこちらを見ているイラストだった。
戦慄が走った。
宇宙にはこんな気持ち悪い奴らがいるのかよ!
怖いよ!
怖い怖い!
いやだ!宇宙になんか行きたくない!
いやだいやだいやだー!
そのことをきっかけに、僕の中で宇宙飛行士になる夢は、少しずつ鳴りを潜めていった。
「僕は何になりたいんだっけ。あ、そうだ宇宙飛行士だ。でも宇宙にはあんな怖い宇宙人がいっぱいいるんだ!あーやだ思い出しちゃったよ!うそうそ!宇宙飛行士になんかならなくてもいい!ごめんママ、僕ほんとは宇宙飛行士にはなりたくなかったんだ。ごめんうそついて。ごめんね…」
そんな問答を何度自分の中で繰り返しただろう。
夢を問われて適当に答えたのがいけなかったのだ。きっとバチが当たったのだ。
そんな風にも考えた。
それくらい、あのページは僕にとってトラウマだったのだ。
ていうか、今でもわりとそうだ。
大人の僕は、宇宙飛行士がいかに優れた人たちの集まりで、いかに夢に溢れた仕事なのかは分かるようになったが、それでも、あんな宇宙人に遭遇するくらいなら別にならなくてもいいかな、と相変わらず思っている。
もしも僕に子どもが産まれたら、わが子に「何になりたい?宇宙飛行士かな?」なんて質問は絶対にしないようにしようと決めている。
でも金環日食楽しみです。